タニの憂鬱と光
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呉が情報を持ってきてから、タニの方でも中国の不動産市場を調べていた。
確かに、日本の土地が中国市場で入札にかけられている情報がある。
住所地は表には出ていないが、時期や平米数が一致するものがあった。
売主の会社名はダミーに違いない。
呉が入札に参加する企業の情報を持ってきてくれれば、その企業にハッキングし、より詳しい情報が得られるだろう。
タニは不動産については詳しくないが、社長やコウが面白がっているし、呉さんの情報があればきっと打つ手があるだろう。
そう考えると少し気が楽になった。
会社が燃やされてから、何が起こっているのかわからず不安な毎日だった。
こんなことは今までになかったことだ。
今回のようなイレギュラーなことが起こると、やはり1人で対処するのは荷が重い。
タニはふーっと息を吐いた。
さて、次の仕事の依頼を誰に回そうか。
そう考えていた時、仮事務所の部屋をノックする者がいた。
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社長がニコニコして立っている。
その横に、見覚えのある顔があった。
以前一緒に仕事をしたことがあり、今は韓国に移住している。
先日の韓国での仕事の際、連絡を取りいろいろと手配してもらったばかりだ。
「ソフィ、元気そうだな。
この前は助かったよ。ありがとな」
タニが話しかけると、ソフィが満面の笑みを浮かべた。
「こっちこそ楽しかったよ。久しぶりにタニと仕事して。
こっちから来た人たちもいい人たちでね、面白かった」
ソフィはそう言うと、隣にいる男の方を向いた。
「今回は、里帰りついでにこの人を紹介しようと思ってね」
男が頭を下げ、
「嵐山佑と言います。よろしくお願いします」
と言った。
金色の短髪で、眼鏡をかけ、背が高く、街を歩くとモデルと間違われそうな外見をしている。
「嵐山くんはね、子供のころから韓国に住んでたんだけど、去年相次いでご両親を亡くされたの。
で、1人で韓国にいるのも辛いし、だったら日本で挑戦したいって相談受けたワケ」
ソフィが嵐山の状況を説明した。
社長が、
「嵐山くんは、韓国でも指折りのIT専門のアカデミーを出てるんだよ。
だから…」
「ようこそ日本へ!」
社長の言葉を途中でバッサリと切り、タニは嵐山にすごい勢いで握手を求めた。
嵐山は驚きながらも、手厚い歓迎に感動し、
「あ、ありがとうございます。
俺、アカデミー時代は裏で結構稼いでて、それなりにパイプもあるんで、お役に立てると思います」
と言い、タニを更に感動させた。
「ソフィ、お前さんの今までで一番の功績だよ」
タニが、ソフィに足蹴りを受けながらも涙目で礼を言っていた。
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「で、調査部は空気のような奴が1人と、俺は管理部なんだが、いつの間にか調査部と兼任みたいになっとる」
タニが仕事の内容を嵐山に教えている。
そこへシキミがやってきた。
「おお、君がソフィが連れてきた子か」
シキミもまた、すごい勢いで握手を求めた。
嵐山はシキミの風貌に少し引き気味だったが、後ろにソフィがいてにこにこ笑っていたので、安心し握手を返した。
「アラシヤマタスクか、じゃ、ランだな」
シキミが勝手に呼び名をつける。
「え、なんかかっこいいですね」
嵐山は気に入ったようで、嬉しそうに笑った。
ソフィは安心して、
「じゃ、私は実家に帰るから、何かあったら連絡してね、ラン」と言い、
タニに、
「今日から住むところもないから、よろしくね」
と言って去っていった。
「そっか、住むところね、希望はある? 部屋数とか、広さとか、高さとか」
タニが尋ねると、
「どこでもいいです。狭くても、古くても…あ、でも作業部屋は欲しいかな」
とランが答えた。
「オッケー、
あれ? そういえば荷物は?」
タニが今さらながらに気付き、リュック1つのランに聞くと、
「住まいが決まったら送ってもらうよう頼んできました。
とりあえず必要な物だけ持ってきました」
ランが言い、リュックの中身を見せた。
パソコンと着替えだけのようだ。
「とりあえず今夜はホテルに泊まってくれるか。
明日から住めるように手配するから」
「ありがたいです。こんなにしてもらえるなんて想像もしてなかったです。
すごい会社ですね、日本の会社って他もこんな感じなんですか」
ランが感激している。
「うちは、いや、君は、特別だ」
タニが真面目な顔をして言う。
ランが苦笑し、タニは会社についての説明を続けた。
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タニが新たな依頼をアガタに頼むことにした。
少し乱暴な仕事なので、アガタにぴったりだろう。
最近はあまりアガタ向けの依頼がなく、本人も消化不良気味のようなのでちょうどいい。
依頼の内容は、政治家の暗殺『未遂』だ。
危険な思想を持っているということで、以前から一部の国会議員からは反発の声が出ていた。
当の本人は、同じ国会議員であっても祖父の代から引き継いできた後援会があり、怖いもの知らずの部分がある。
そして、とうとう触れてはいけないものに手を出したのだ。
反社との癒着、である。
当然まだ表立ってはいない。
しかし、それも時間の問題のようだ。
その前に手を打たなければ、党としても知らぬ存ぜぬでは通らない。
というわけで、一応お灸を据えるためということで、暗殺『未遂』という依頼だが、あわよくば『未遂』を失敗しちゃってもいいらしい。
だからアガタがうってつけなのだ。
「ええー、失敗してもいいってさ、それ俺が失敗する前提じゃないの」
アガタが不満気味にごねる。
そうだよ、とは言えず、タニは、
「じゃあアガタは、殺す一歩手前で上手に手を引けるってことだね」
と確認をする。
「あ、ああ、できるさ」
アガタが自信なさげに言う。
「じゃ、上手くやってくれ」
タニが言い、アガタが引き受けた。
「ごめん、殺っちゃった」
アガタが報告に来た。
やっぱり、殺っちゃいましたか…ま、わかってたことなのでよしとしましょう。
タニが心の中で消化した。
隣でランが「へ…」というのが聞こえた。
ランよ、これがアガタだ。
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