ep26.この世界で俺たちは
「…!」
「…?」
「薫斗、起きて」
「…んー、後5分…」
「だーめ。今日は大切な日だもの」
「紡…?…あれ…、俺、…夢……?」
「どうしたの?」
あれ…?何か、…ものすごく…、無性に、泣きたい…
「……紡」
「えっ…!?、もう、どうしたの?怖い夢でも見たの?」
ハグするのって、こんなに温かかったっけ
紡が温かいことがまるで奇跡みたいだ…
こんなの、当たり前に感じてたはずなのに、夢の中で、それがふっと消えたような…
「…分からない。でも、紡が離れていくような気がした……」
「…!ふふ、そんなことで泣きそうな目してるの?」
「そんなことじゃない。紡は、俺の大切な人だから。どこかに行かれたら、…俺は…」
結婚生活5年目を目前にして言うことじゃないかもしれないけど、どうしようもなく、不安になった。
「…もう、どこにもいかないよ。…見つけてくれて、ありがと」
「えっ?」
「ううん、何でもないよ。とにかく、私は薫斗の側で一生を過ごすって決めてるの!現を抜かす暇なんてないくらい、薫斗のことが好きなの、分かってる?」
紡は俺の両頬を手でムニっと挟み込んでじっと顔を近づける。
…ああ、どこかで、見たことがあるような気がする
強くて優しい彼女を…、俺は、何年も、何十年も前に、見たような…
「うん、そうだな。俺も大好きだ…。…なあ、紡」
「なあに?」
「今、幸せか…?」
気が付いたら言葉にしていたこの問いに、彼女は満面の笑みで返した。
「…!、もちろん!とっても幸せよ」
ああ、その言葉を聞けたなら、俺も、有無を言わさず幸せだと思える。
理由は分からない。ただずっと昔から、彼女の幸せばかりを願っていた。そんな気がするだけ。
「良かった…。愛してるよ、俺の大切な奥さん」
「私も、愛してる。私の素敵な旦那さま」
布団の中で愛を誓い合う。
月が上に登り、日付けがてっぺんを超えた。
今日2人は、結婚生活5年目の記念日を迎えた。




