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19/22

19.離れるなんて、無理な話

◇◇◇





 つむぎが目を覚ますまでは、多分俺は地獄にいた…

 つむぎを追い詰めた代償だと思う



「……ゥ…」


「…っ__!!つむぎ!水…!持ってくるから…!医者も呼ぶからな」



 つむぎが、目を覚ました。



 ああ…本当に良かったっ……



 診察を受けさせて、その後に水を持ってきた。



「…飲めるか…?」


「あ、ありがとうございます…」



 つむぎはまだ、ぎこちなそうな顔をする。

 当たり前だ。つむぎは追い詰められて、それで…倒れたんだから……



 水を一口飲んですぐ、つむぎは言った。



「薫さん、…全部、聞いちゃいましたか…?私のこと」


「おおまかなところだけ。……ごめん…。」


「いえ、隠してたのは私ですから。私が悪いです」



 まだ…、そんなこと言うのかよ…。



「違う。俺が100悪いだろうが」


 

 つむぎが眠っていた3日間、つむぎの担当医師である片桐さんから説明を受けてた。



 つむぎが病にかかってること。

 その病には治療法がないこと。

 だから我儘を言って、入院を少し待ってもらっていたこと。

 


 そんで、俺が浮気って決めつけたあの男は、医者の片桐さんだった…。



「薫さん」



 点滴が腕につけられてる。体調も良くない…。なのに、やっぱりつむぎは、笑顔なんだ……



「なに?」



 自然と口調が和らぐのは、つむぎが倒れる前に酷いことを言いまくったから…。

 酷い行動も、たくさんしてきた…。



 好きでもない人に優しくするのは得意なのに、好きな人に優しく出来ないのは、俺の心が幼すぎる故だろうな……



 幼少で止まった俺の心は、皮を被れば途端に歳以上の余裕さを持てるのに。つむぎの前では、いつも上手くいかない。



 そんな幼い俺を温かく包んでくれたつむぎだ。でも、もういつまでも甘えてられない…



「私のお金も家も、全部あげます。それで、別れてくれませんか?」

 

「はっ…?なんで、?…俺が、…俺が酷いことを言ったからか…?ごめん、本当にごめん。いくら謝っても償えないことは分かってる。でも、でも俺は…!」



 そう。分かってるんだ



 俺は絶対つむぎの側にいていい人間じゃない



 だから今の俺は、分不相応な欲を持ってる…



 それでも俺は、つむぎの側にっ…



「…、違いますよ、薫さん。だから、泣かないでください。ねっ?」



 __あ、れ…__おれ、泣いてたのか…?_



 自分の頬に手を当てて確認する。少し湿ってて、冷たい。



 …泣いてるのか……。つむぎの前での俺は、いつも泣き虫だな…



 しかも、抑えられない。次から次へと零れ落ちる。



 止め方なんて、習ってねぇよ…



 知らねぇよ…



 親に殴られても、言葉の毒吐かれても、他に何されても、泣きもしなかったし、高校のイジメも、心底どうでも良かった。先生も見て見ぬ振りのくせに、『何かあったら言うんだぞ』って偽善ぶる。



 助けなんか求め方も分からないのに、それで涙を見せれる相手が出来るわけがなかった。



 なのに、今病人のこいつの前で、俺は子供みたいに泣きじゃくってる。



 本当、情けねぇ…。



 本当に泣きたいのはつむぎだろ…。なんで俺が…



「薫さん、こっちを向いてくれませんか?」



 見せれるわけねえだろ、こんな姿…。



 それでも、どれだけ心が反対したって、俺の体も心も、結局つむぎに惚れてるから……



「ふふっ、私なんかのために泣いてくれてるんですか?やっぱりかわいくてカッコいいですね、薫さん」


「……理由」


「へっ?」


「別れるって言った理由は…」



 つむぎに酷いことを言ってる俺を殴りに過去へ戻れたら、どれだけ良かったことか。



 つむぎは太陽みたいな笑顔じゃない、初めて見る、どこか影を抱えてるような笑顔



 あのバーのやつらと、同じ笑みの作り方してる…

 生きていくところがなくなったやつらが集まるあのバーは、みんな同じような笑顔をしてる。



 俺もかつてはそうだった。



 だから、今回ばっかりは分かる…



 つむぎの言おうとしてることが…



「迷惑をかけるからです。こんな今の私と付き合っても、何の得もありません。むしろ、損しかしないかと。かおるさんなら、もっと素敵な人がいくらでもいます。だからっ」



 …やっぱりな……つむぎはそういうやつだから




 …まあ、だからってこれ以上言わせるつもりもない



「それ以上言うな。…なあ、つむぎ。俺は、つむぎのことが好きだ。遊びじゃない。揶揄ってもない。心から、俺はつむぎに惚れてる」


「…っ、そんなこと言わなくても、欲しいものは全部あげますよ。きっとかおるさんは、勘違いしてるんです」



 ああ、言いたいことは分かる



 なんでもくれるお前に縋ってたい俺の心がそう言わせてると思ってんだろ?



 違うに決まってるだろ。勘違いでこんなに好きになったりしない



「ふざけんな…。俺が、お前に『ごめんね』って言わせた時、どれだけ後悔したか分かってんのか……」



 勘違いした俺が全部悪いのに、それでもつむぎは謝る。



 自分の幼稚さと醜さでどうにかなりそうだった。



 俺がもともと嫌いって言ったのに…

 好きじゃないなんて言って、つむぎが傷つくことは目に見えてたのに…



 そもそも、俺だって…俺が、つむぎの気持ちを踏み躙ってばっかだったのに、…他の女とも遊ぶし、金も使うし…。



 本当なら、仮につむぎが浮気をしてたとしても、快く許すべきだった。

 だって、俺もしてたから。

 俺がつむぎに何かを言う資格はないのに。



 傲慢にも俺は、怒って貶して、つむぎを苦しめた…



「いえ、私が勘違いさせてしまうようなことをするから…薫さんは悪くありません」


「俺の言葉で、つむぎがどんだけ傷ついたかなんて、簡単に想像出来るのに、俺は言ったんだ……。でも、ごめんな。俺は、つむぎと別れられないし、つむぎの言い分の、俺が悪くないことを認めることもしない」



 このままじゃ埒が明かない…。つむぎは頑なに俺を悪くないって言う。



 だったら俺は、つむぎの側に居続ける。



 もう知ってしまったから。

 つむぎというとても素敵な人のことを



「でも私は…、死ぬんですよ…?いつ死に至るかも分からない病気をかかえてる女を彼女にするなんて、センスありませんよ、薫さん」



 多分最後の言葉も、俺を突き放そうとしてるんだろうな。悪いけど、今回ばかりは見る目しかないと自負してる



 それに、突き放す言葉としてはとんでもなく弱いな

 


「いいや、センスしかないね。つむぎが俺を変えたんだ。地獄から救い出してくれた。そんな恩人が彼女になって、俺に愛を教えてくれた。これ以上の幸せがあるか?」


「ふふっ、言い過ぎですよ」



 __!、やっと…



「やっと、笑ったな」


「…っ!」



 まあ、言い過ぎじゃなくて事実なんだけど、多分どれだけ力説しようが、つむぎは納得しないよな。



 それでも俺は言う。つむぎを納得させるためじゃない。つむぎに俺の気持ちが少しでも伝わるように



「俺の話、前にしただろ?あの地獄も全部、つむぎと出会うためだったんじゃないかって、今なら思える。都合が良いけど、本当にそうだと思うんだよ」


「……私こそ、救われてたんだけどなぁ」


「ん?今なんか言った?」


「いいえ!なんでもありません!」



 聞き取ることが出来なかった言葉の正体を、俺はまだ知らなかった。



◇◇◇

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