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24.保護者の話し合い

 リヴィとライアンが話している頃、船長室――。



「お前ら夫婦は何を考えている。もっと息子の事を考えてやれ」


「どういう意味だよ」

「ライアンにとって何が最善なのかをだ。跡取り放棄なんて馬鹿げている」

「『最善』って何基準なんだよ。ライアンがやりたい事をやらせてやんのが俺は『最善』だと思ってる」

「やりたいと思っている事が間違っているのなら、正してやるのが親だろう」

「やりたいと思っている事を応援するのも親だ。俺はそっちのタイプなんだよ。()()()()()()()


 『レオと違ってな』の部分を、ヴァルは強調するように言った。レオナールは嫌味を言われヴァルを睨みつけていた。


「それにライアンが、何かになりたい、って言ったの初めてなんだ。周りが言うからなんとなく騎士学校に入ってる。特に海騎士になりたかったわけでもねぇ。流れで入ったんだ」


「それで成績良いのなら、かなり素質があるだろう。海騎士でいいじゃないか。女にもモテる」

「女にモテるかどうかは別にいいの!」

「ライアンは婚約者いないだろ。なら大事だ」

「いいって言ってんだろ!」


 ヴァルは歯をむき出しにして怒った。レオナールは大きく溜息を吐いた。


「なら跡取りの件はいいとしても、リヴィは専属を要らないと言っている。だから……」


 何年か前、騎士をつける話をしたが「エマさんいるのに? いらないよ」と言われ、そのままつけていない。侍女のエマは護衛の役割も果たせていたので、特に問題無かったのである。


「それは前の話だろ? 今は分からねぇじゃねぇか」


 ヴァルはレオナールをじっとみて、何を考えているのかを考えていた。愛する息子の為に食い下がってみたものの、承諾を得られそうにない。

 基本、レオナールは直ぐに答えを出す。断る時は相手を門の外に締め出すような言い方で断る。だがそうでないという事は、迷っているという事だ。特にリヴィの事となると、迷い悩むことが多い。彼なりに彼女の最善を考えているからだ。


 そして今回は、騎士を付ける方がリヴィにとって最善であるとは考えているが、何かに引っかかり答えを出さないのだなとヴァルは考えていた。


「なあ、迷ってんのは何に迷ってんだ?」


 レオナールは腕を組んで考えながら俯いていた。


「正直、騎士は付けなくてはと思っていた。学校も終われば行動範囲が広がるからな」

「ならいいじゃねぇか……それともライアンに問題があんのか?」

「いや? ああ……まぁそうだな……跡取りの事、本気でいいのならな。ヴァルとの手合わせも見た事あるが、かなり上手いと思う。だがリヴィが何て言うか……」


「なんだよ。随分弱気じゃねぇの。そんな時は強制するくせに」


 レオナールは魔具管理者だ。

 魔具加護者は管理者の言うことは絶対なので、レオナールが「専属騎士をつける」と決定してしまえば、リヴィが「要らない」と言ったところで、リヴィは受け入れるしか無い。

 実際、他地方の魔具管理者の中には、一切加護者の意見を聞かない者もいる。


「いつも『リヴィの意見を聞け』って言うくせによく言うよ」


 レオナールは一応リヴィの意見は聞いていた。だがそれが反映されるかはまた別だった。


「これ以上嫌われたくねぇから強制出来ねぇんだろ。安心しろよ。今、レオへの好感は地の底だ。今以上に嫌われる事はねぇよ」


「……ライアンを騎士にはしないぞ」

「悪かったって、冗談だよ。すぐ怒んだから」


 睨みつけるレオナールに対して、若干ムスッとした顔でヴァルは答えた。そしてライアンの為にどうすればいいのか考えた。


「なぁ、リヴィが『騎士要る』って言えばライアンを騎士にしてくれるのか?」

「それはまぁ……してやれる」

「ならリヴィに手紙書いて聞いてくれ」

「書くにしても少し期間を空けたい」

「え、なんで?」

「リヴィは今、俺の話を聞きたくないだろう。多分反発してすぐ『要らない』って言うぞ」

「期間ってどれくらい」


「…………半年くらい」

「半年!?」


 ヴァルの声は裏返っていた。せいぜい2、3カ月だと思っていたからだ。


「何か問題があるのか?」

「その間ライアンは進路について悩む事になる! それでまた成績下がったらサロメが寝込んじまう」

「静かになっていいだろ」

「オイ!!」

「悪かったな。冗談だ」


 レオナールは一笑するとまた悩む表情に戻った。ヴァルは仏頂面でレオナールを見ていた。


「どっちにしろ、手紙で聞いても答えが聞けるのは帰港した時だ。数カ月先だぞ。来月の虹霓会議の時、王都にリヴィは来ないからな」

「あぁ、そういやそうだったな」


「……何故リヴィが来ないのを知っている」

「え!? いや、あんな事になって来るわけねぇかなって……」


 怪訝そうな顔でヴァルを見ていたが、そう言われ納得する。

 ヴァルはレオナールの信じた様子にホッとした。リヴィから「行かない」とは聞いていたが、今回の帰港では会っていない事になっているので、会話には気を付けようと思った。

 そして必死にもっと早くリヴィの答えがレオナールへと届くにはどうしたら良いかと考えた。

 そして、1つの結論が出た。


「なら虹霓会議の時までに、王都ラファル邸に返信してもらうよう手紙に書いてくれないか?」


 レオナールは心底嫌そうな顔をした。


「王都ラファル邸に寄らないといけなくなるだろ」

「え、今回泊まらねぇの?」

「リヴィ居ないのに泊まる意味が無い。今回は会議が終わったら白百合(リスブロン)号にすぐ帰るぞ」


「あ、それはちょいまち」


 ヴァルは兄コンスタンから受け取った、ミストラル家紋章の封蝋でとじられた手紙を渡した。

 レオナールは手紙を開けて読み始めた。

 先程のサロメからの手紙と違い、親愛なるから始まり、時候の挨拶、主文、そして末文と堅苦しい文章の手紙であった。最後にはヴァルの父、ステファン・ヴァン・ミストラルの署名もある。


「ああ……これは……夜遅くなるな……」


「どうする? 行かない?」

「行く。ミストラル卿のご厚意に感謝しなくては。本来は俺がやるべき事だ。申し訳ない」

「王都ラファル邸に泊まるの嫌なら、王都ミストラル邸に泊まるか? 父上は喜んで泊める」

「いやいい。大人しく王都ラファル邸に泊まる」

「王都テュルビュランス邸は? レーヌが喜んで泊める」

「執拗いぞ。いいと言っている。それに仕事の話になるだろうから何日か泊まるしな」


 そして、溜息を吐いて天を仰いだ。


「じゃあ手紙送ろうぜ」

「だがやはり期間は空けたい。今は俺からの手紙ってだけで読まないかも」

「大丈夫! 読むように言う!」

「ヴァルが? ヴァルも手紙を出すって事か?」

「あ、いや違う。えーと、サロメが説得する。うん、俺がサロメに手紙を出して説得するように言う」


「……それならいいが」

「そしたら専属付けるようにサロメが説得するだろ」

「駄目だったら?」

「また期間空けて聞けばいいだろ」


 腕を組みながら数十秒、レオナールは悩むような唸り声をあげて、目を瞑りながら上を向いたり下を向いたりを繰り返した。


「頼むってレオ……レオナール、お願いだ」


 そう言われレオナールの動きは止まった。そして大きく息を吸い込むと、悩んでいた気持ちを吐き出すように、ゆっくりと息を吐いた。


「書いてやるから持ってこいよ」


 ヴァルはそう言われ、驚いたと同時に喜んだ。立ち上がって部屋の端にある棚まで歩くと、1番上の引き出しを開けた。


 その中から30センチメートル程の箱を取り出す。簡素な作りの木製の箱だ。それともう1つ、先程よりひと回り小さい箱を取り出した。小さい箱は黒檀の艶やかな箱だった。

 30センチメートル程の箱には、まっさらな便箋と封筒、ペーパーナイフが入っていた。黒檀の箱には赤い蝋が数本と、印璽(いんじ)が入っていた。

 印璽には隼と百合の花が刻まれており、隼に短剣のラファル家紋章とは少し違う物だった。隼と百合の印璽は、白百合(リスブロン)号から書いていることを意味する印璽だった。

 レオナールがそれらを自分が使いやすいように並べていると、その間にヴァルが蝋燭を準備して火をつけた。


「今日出せよ。俺の気が変わる前に」

「分かってるって」

「他にも書くから少し待っていろ」

「いいぜぇ。待っててやるよ、ご主人様」


 そう言ってニヤリと笑うと、ヴァルは椅子に浅く座り、足を放り投げ背もたれにもたれた。両手を頭の後ろに組み、レオナールの走らせる羽根ペンを見ている。

 レオナールは手を止めることなく、3通の手紙を書き終え、最後の4通目であるリヴィ宛だけ、少し悩みながら書き終えた。全ての手紙を書き終え封蝋をした。その内の3通をヴァルに渡し、リヴィ宛の手紙を自分の手で持ったままじっと見ていた。


「ほら、そっちも早く」


 ヴァルは手を出して、早く渡すように催促すると、レオナールは真剣な顔をしてヴァルを見た。


「――あのなヴァル」

「何だよ」

「よく考えたんだが、リヴィはこれからオデットの店で働くんだ」


「……だから?」

「行動範囲、そんなに広がらないかもしれん。だから、騎士要らないんじゃないか」

「オイちょっと待てって! この期に及んでそれはねぇよ!!」


 ヴァルは焦った顔で立ち上がりレオナールに言うと、レオナールは吹き出して笑った。


「冗談だ」


 レオナールは機嫌良く、ヴァルが差し出した手の上に手紙を置いた。


「……じゃあ出してくる」

「どうぞ」


 ヴァルは仏頂面で出ていこうと扉に手をかけたが、立ち止まって振り向いた。


「レオ、あと1つお願いがある」


 レオナールは道具をしまいかけた手を止め、ヴァルを見た。

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