第九話ー明かされゆく真実(中編)ー
こんにちは。こんばんは。梅木仁です。
今話は前話から引き続きの内容となっています!
それではどうぞ!
九条さんの言葉にあっけにとられ、彼女の言葉の意味を飲み込めないまま彼女は姿を消した。
小生はゆっくりと深呼吸をする。そして状況整理を試みる。
第一に、今日一日で彼女の小生への接触は積極的なものだった。
入学式の前に教室であらかじめ俊と面識を持った後、体育館への移動中。
次は確か、小生が教職棟から帰ってきたとき、俊に小生がどのような状態で帰ってくるかなどを言い当てている件。
そして生徒会室の霊的現象の際に少なくとも小生たちの救助を手助けしていること。
さらに、小生たちの尾行とたった今のこのやりとり。
これらを偶然という言葉で片付けるには、いささか不合理がある。
第二に、彼女の発言。“こちらのことも考えろ”というのはどう意味だろうか。
“こちら”とはおそらく彼女のことだろう。だが、今日出会ったばかりの小生との間に妙な関係はないはずだ。それに少なくとも俊は彼女との教室での出会いについては、“九条さんから話しかけてきた“と言っている。
彼女がなぜここまで積極的であるのか、またさっきの発言の意味を考えてみるが、まだなにもわからない。
九条さんについて考えていると、いつのまにか俊と生徒会長の待つ新幹線の改札前に着いていた。
とりあえず、二人とも談笑して待っている。
「お、来た来た!コバ!早かったな!」
「小畠くん、無事そうでなによりだ。で、誰かはわかったのかな?」
「ええっと・・・一応今日知り合った子でした。けど・・・」
「「けど?」」
二人が声をそろえて聞く。
「意図がわかりません・・・まったく。読めません。」
小生自身、さっきから考えてはいるのだが今ひとつこれという考えが浮かばない。
「ん~、そうか。まあいいよ。きっと彼女はこれからも同じようなことをしてきそうだし。そこでしっぽをつかめられれば十分だよ。」
「え、あ、はい。」
コバは隣で納得できない顔をしている。小生も内心では同じく納得できていない。
「さ、行こっか。」
生徒会長に続いて、新幹線の改札からさらに西に向かう。
向かって左には売店があって、正面には西口から宝南市の町並みが見える。
そのまま進んでエスカレーターが見えたところでそれに乗って一階へ。
一階に降りればそこからすぐに外に出ることができる。
生徒会長の家はその西口から五〇〇メートルほど歩いた一階建ての一軒家だった。
とはいっても、真新しい印象はない。外壁は少し経年劣化している部分もある。全体的に茶色い外観の家だ。
「あ、ここ。ごめんね~汚いでしょ~?」
「え、そうでもないですよ~会長らしい家です!」
俊がお世辞を言ったつもりなのかもしれないが、微妙にお世辞になっていない。
「ははは、そんなにかしこまらなくていいよ。ここは学校じゃないんだ。狭いところだが、よいしょっと。さて、どうぞ。いらっしゃい。」
会長はさびてしまって重そうな金属の扉をぐっと横にスライドさせる。
小生と俊はお邪魔しますと言って、中に上がらせてもらう。
外観に比べて内装は非常にという修飾語を必要とするほど綺麗だ。
まるで一日一回専門の業者に掃除を依頼しているかのようだ。
「この家ね、実はまだそこまで経ってないんだ。それに一人暮らしだし。」
「へぇ~、でも先輩、維持が大変では?」
「そうでもないよ。使わない部屋もあるし・・・」
「俺でよければ、今度掃除の手伝いしますよ?野球部で部室掃除は当番だったので!」
「それは助かるな!そんときにうまいラーメンでもごちそうしようか!近くに良い店があるんだよ!」
俊が生徒会長と話をしながら家の奥へと歩いて行く中、小生は家の中を観察していた。
玄関を入って、トイレ、次にリビングを通り抜け、一部屋目を通過したときだった。
俊も会長もそのまま素通りしたが、小生の目にはあるものが映った。
小さな仏壇と位牌と若い男女の写真。
その部屋からはかすかに線香の香りがして、花も供えられていた。
ただ扉が半開きだったので、部屋の全体を見ることはできなかった。
「さて、ここで話そうか。ここが僕の部屋だよ。」
会長が扉に“進”と書かれた部屋の前で立ち止まった。
扉を開くと、学習机にベッドと書棚という簡素な一人部屋だ。三人が入るとせまいけれど、一人ならば悠々自適だろう。机の上にはティーポットも置かれていて、市販されている紅茶のティーパックで飲み物を出してくれた。
「さっそくだが、本題に入ろうか。準備はいいかな?」
「「はい」」
お茶をすすりながら小生と俊は、会長の声に耳を傾けた。
「まず、知っての通り、今の日本は終わってる。この認識は持っているだろ?」
単刀直入に会長は小生たちに聞いてくる。それぞれ首肯する。
「どの国っていうのは言えないが、日本はその国の植民地ってわけだ。搾取の対象ってこと。今の教科書とか学制も政治も金融も経済も完全にその国に握られているし、その搾取しやすいように制度を作ってる。五年後にさらに厳しい植民地政策が施行されることも、あまり知られてはいないが支配国の議会で法案が通った。とりあえず、ここまでいい?」
「ええ、その法案の事実までは知りませんでしたけど、大方の事情は知ってます。」
小生は高校に入るまでに、できる範囲の情報は手に入れるようにした。
本などの文献は、焚書法なるもので全て焼却されたと聞いた。なので、どの情報もインターネットを通した情報になる。信憑性の点では疑問符が残るけれど、情報がないよりは判断材料が増えるというメリットがある。
「そして俺が言いたいのは、ここからだ。」
「え、今言った現実をなんとかするんじゃないんですか!?」
俊が少し驚いて言う。
「そうだね、確かに向き合うべき問題ばかりだ。あれもこれもやることだらけだ。」
「俺は・・・そういう問題からやるもんだと思ってますよ?なあ、コバ。」
「いや、俺はそうは思っていないよ、少なくとも今のところ。」
「え、違うのかよ!」
俊と小生で意見の相違が出てきた。
「これはあくまで俺の個人の見解だよ?今の状況でたとえいきなり動き出しても捕まって終わりなんだ。だから、機が熟したときに行動に移す。これしか今はできないんだ。」
「それっていつだよ。もう時間がないぞ?」
「知っているよ。そんなこと。」
「は?コバ、それはおかしいだろ。知ってるなら行動を起こさないといかんでしょうが」
「そっちこそ、行動ってなんだよ?なんだ?言ってみろよ!」
ヒートアップして少し話がそれる。
「決まってんじゃん!行動ってデモとかだっつーの、そんなんもわからんのか」
「おい、俊、それさっきまでの話をわかって、言ってんだろうな?」
「は?どういう意味だよ!ちなみに俺は武装蜂起まで考えてんぞ?」
「俊、今なんつった!?」
「行動あるのみだ言ってんだよ!!」
確かに、俊と小生はいろいろ話してきたのはある。現在の日本、その歴史認識など、その話題は多岐にわたる。
でも話をしてこなかったこと。それが“どのように実行するのか”つまり、手段の議論だ。
整理してみるとここまでの話からして、
俊はあらゆる手段を用いて今すぐに行動を起こすべきだ、と考えていて
小生は急激な行動は不可能だから時間をかけて現状を変えるしかない、
ということになる。
「君たち、少し整理しよう。」
静かに生徒会長は口を開いた。
「まず、小畠くん。君は時間をかけてと言った点はたしかに評価できるよ。でも、今のところ君の発言に具体的な期日がない。それに政策提言もない。つまり説得力がないよ。」
「ええ、はい。」
「だからもし太森くんと議論というか、けんかするならそこをちゃんと言わなければいけないよ。」
「ついかっとなりました。ごめんなさい。」
「それで、太森くん。」
「はい」
「少し勉強不足だろうね。」
その言葉に俊はそうとう驚いている。
「まずね、今から十年前のドンジンの乱って知ってる?」
「なんですか、その名前・・・歴史の教科書に出てきましたっけ?」
「あ、そういうことか」
生徒会長はひとくち紅茶をすすって、語気を強めて言った。
「太森くん、歴史は必ずしも真実を、そして全て書かないものだよ。」
その言葉を告げたとき、五時を知らせる広域放送が部屋内の沈黙を突き破ってこだました。
最後までお読みいただきありがとうございました!
今話は結構踏み込んだ展開になりました。ついに日本の現在が浮き彫りに想像できる範囲になってきたのではないでしょうか。この調子で後編も続いていきますので、ぜひぜひ前話今話次話と重点になりますのでお読みください!
さて、世間は森友だとかで時間が止まったように見えますが、それは日本だけで世界はまったく止まっていない。これだけは今の自分たちでも忘れてはならないことだと思います。
最後に、業務連絡です!
もうすぐ新学期が始まります。いろいろとバタバタしますので少し投稿が遅れるかもしれません。ですけれど毎回真剣に向き合って執筆させていただいてます。満足いく作品を精一杯書かせていただきます。今後ともご声援のほどよろしくお願いします。