第34話 「それ、嘘だよね」
(とある美少女視点の話)
部活終わりに、わたしは彼女に話しかける。
「ねえ」
「なんだい?」
彼女は小首をかしげる。
やはり女の子だと思ってみつめてみると、相当にかわいらしい顔をしている。
「わたしも、蓮が女の子の格好してるとこみたいなー」
わたしがそういうと、彼女は怪訝な表情を向ける。
「……どうして? 百合プレイでもしようというのかい?」
「うん」
間髪入れずにわたしがそういうと、彼女は思わず後ずさる。畳との摩擦に負けて、そのまま後ろに倒れ込んでしまう。わたしは、それに覆い被さるようにして、彼女の顔を見つめた。
彼女の顔に、朱が差し込んでゆく。
「えっ、ちょ、ちょっと……本気でいっているのかい?」
うるんだ瞳でこちらを見上げる彼女に、
「冗談だよ」
わたしはけろっとした表情でそういった。
「…………心臓に悪いことはやめてもらいたいね。君が本気で迫ってきたら、ぼくはどうしようもないじゃないか」
「だよねー」
「だよねって……ちょ、ちょっとなにをするんだい?」
わたしは彼のシャツをつかむと、ボタンを外してゆく。端から見たら完全に痴女のそれだ。
「女の子の格好になってくれないと、このまま脱がせちゃうよ?」
「な、なんでそこまで女の子の格好に固執するんだ」
「女の子同士の話がしたいから、かな」
わたしがそういうと彼女は、
「……はあ。仕方がない。五分ほど待ってもらうよ」
「うん」
正装としてのメイド服に包まれた女性が三人やってくる。そして衣装を彼女に手渡すと、去って行った。
わたしは衣装を受け取った彼女をまじまじをみつめる。わくわく。
「…………そんなにみられていると恥ずかしいんだけど」
「あ、ごめん」
そういってわたしは背を向けた。
「……もういいよ」
力なく彼女はそういうと、髪の毛をさっとなびかせる。
「おお。かわいい」
「……ありがとう。それで、なにを話したいっていうのさ」
彼女はそういって、紅茶を入れ始める。
わたしのリクエストに応える形で、新たなレパートリーが加わったのだ。紅茶を入れ始めたということは、それなりに長い話になるということを覚悟してくれたのだろうか。そうならばと思い至り、わたしは口を開く。
「実は、まだ純のこと好きでしょ?」
わたしがそういうと、彼女は目を見開く。そして、あきれたようにいう。
「はあ? なにを根拠にそんなことをいっているんだ。何年もたっているっていうのに、そんな感情が残っているとでもいうのかい?」
「そりゃあ、完全に彼のことを忘れてその年月を過ごしていたっていうなら、わからないでもないけど。蓮ちゃんの場合は、ずっと彼のことをみてきたんでしょう? だって、そうでもしないと、こんな大それた計画を立てることなんてできないもん」
わたしがそう指摘すると、
「……やれやれ。なんでそんなぼくの決心を覆すようなことをしてくるのさ」
「だって、フェアじゃないじゃない。蓮は、わたしがフラれたあと、彼にアプローチをかけることもできたのに、そうしなかった。今回もそう」
「今回はそもそも、男として彼に接していたんだ。アプローチなんてかけようがないだろう。そもそもぼくはずっと、男として生活してきたんだ」
彼女はそういって、紅茶を一口含む。どうやら口が乾燥したようだ。嘘をついたことによる緊張からか?
「それ、嘘だよね」
わたしがそういうと、彼女は盛大に動揺する。意外とわかりやすい。
「……は? な、なんで、そう、思うのさ?」
わたしはふっふっふと魔王のような笑みを浮かべ、
「お父さん経由で、ちょっと聞いちゃったんだ」
小悪魔的にけろっとそういった。
「……あのくそ親父。酔いが回って口を割りやがったな」
「高校に入るまでは、女の子として生活していたんでしょう? でも、女の子として彼に接すると、目的を達成できない危険がある。だから、男として高校に入学することにした」
「…………ああ、そうだよ」
「結局、気持ちを押し殺してるんじゃない」
わたしがそういうと、彼は苦々しい顔をする。
「……否定はできないね」
「だから、正々堂々と勝負をしてほしいの」
「なにをいっているんだ。彼はそもそもきみのことを好いているじゃないか」
「とかいって、自分にもチャンスがあるっていうこと、わかってるんでしょ」
そうでなければあそこまで大胆なことはしていないはずだ。危うく純を寝取られるところだったと考えると、多少は腹立たしい思いもあった。
「うぐ……さすが、よくわかってらっしゃる」
「正々堂々と勝負しようよ。そのほうが、きっと楽しいから」
「……きっと楽しい、か。うん。そうだね。そうしようか」
彼女はそういって、電話をかける。
「その格好、やめちゃうの?」
わたしがそう声をかけると、
「なにをいっているんだ。私服で校内をうろついていたら、鬼の風紀委員、井上先輩に怒られるじゃあないか」
「……?」
メイドさんが再び服を運んでくる。
「ちょっと、また後ろを向いてもらえるかい?」
「え、うん」
といいつつも、横目で彼女をみやる。おお、きれいなおっぱいだ。ブラジャー越しなのがもったいない。そんなおっさんみたいなことを考えていると、彼女はいう。
「もう、いいぞ……っていうか、ガン見しすぎだろう。どいつもこいつも、人のおっぱいにしか興味がないのか」
「てへへ……って、どいつもこいつも?」
「あ」
よし、純をあとで一発ぶん殴ることにしよう!
それにしても、
「女子の制服なんて、持ってたんだ」
「…………まあ、一応買っておいたんだよ。万が一のためにそなえてね」
「その万が一が起こっちゃったっていうわけか」
「ぐぬぬ。ま、そういうことだね」
「彼がその姿をみたら、いったいどういう反応をするんだろうね?」
「さあ?」




