第30話 あ、ありのまま今、起こったことを話すぜ!
そこでは仲良くトランプをしている富士山蓮の姿があった。彼にしてはずいぶん無防備な格好だった。
「っと、びっくりしたな。君がくるなんて。グループからはぶられでもしたのかい?」
「さりげなく人をいじめられっ子みたいにいうな。ちょっと、聞きたいことがあったからな」
「ん、わかった。あと一分待ってくれ」
彼はそういうと、相手のカードを真剣に見つめる。
「さて、3のカードはどれかな?」
「ん、これだよ」
「そうかい。じゃあ、こっちだな」
そういって彼は、カードを一枚引き抜く。
「うおっ……なんで数字がピンポイントでわかるんだよ」
「もともとぼくにはメンタリズム的な才能があるからね。これぐらいどうということはないさ」
そういってもう一巡すると、ゲームが終了した。彼が宣言した通り、一分ぴったりだ。
俺といっしょに部屋を出る。
「……ギャンブラーにでもなったらどうなんだ?」
俺は思わずそんなことを漏らしてしまった。エ○ポワール号にでも乗れば一生遊んで暮らせるだけのお金を獲得できるのではないだろうか。まあそもそも、すでにそれぐらいのお金を持っているかもしれないが。
「大企業の御曹司がそんなことをするわけないだろう……一概にはいえないかもしれないが。それに、ギャンブルではないが投資はしているんだ。あれだって人間心理の現れみたいなものだからね」
「集団心理と個人の心理ではずいぶんと違うと思うんだけど」
「ま、昔いろいろとあって、集団心理っていうものにも敏くなったのさ」
彼はそう言いながら遠い目を向ける。
「そのいろいろっていうのは、佐奈と俺の一件のことか?」
俺がそういうと、彼はけろっとした表情で、
「そうだね。それがどうかしたのかい?」
あっさりと認めた。
「なにか、隠していることがあるんじゃないか?」
「? もしかして、ぼくが男の子になったっていうことかい?」
「……ああ」
俺がそういうと、彼はまたも飄々と、
「なにか隠したいことがあるっていうなら、きみをエアトリップなんていうところに連れて行ったりはしないさ」
そう自信満々にいう。
「……たしかに、それはそうかもしれない」
「別にぼくは、隠したいことなんてなにもないよ。君たちが、そういうふうに感じているだけじゃあないのかい?」
そういわれると否定しづらいものがある。しかし、
「いや、きっとあのとき、俺らが小学二年生だったあのときに、なにかがあったはずなんだ」
「その根拠は?」
「だって……おまえは自分が女であることを、気に入っていたじゃないか。なんで男になったんだよ」
「そんなことを聞いてくるなんて、ずいぶんと図太い神経をしているね。別に、ぼくが令嬢ではなく、御曹司であったほうが都合がよかったというだけのことだよ」
「……それは、嘘だ」
「だから、根拠はなんだって聞いているんだよ。きみのいっていることは、感情論じゃないか」
「…………そう、いわれてもしかたないとは思う……でも」
論理的には説明のつかないなにかが、そこにはあるはずなんだ。それはつかみ所がなくて、どう形容したらいいのかさえもわからない。だからきっと、これを言葉にして伝えることはかなわない。
しかし、俺のそんな思いをくみ取ってくれたのか、彼はこういった。
「わかったよ。本当のことを話そうと思う」
「本当か?」
「ただし、条件がある。明日。ぼくのために時間を使ってくれないか? きみにそれぐらいの覚悟があるというなら、ぼくも覚悟を決めようと思う」
「ああ、わかった」
俺がそういうと、彼はため息をつく。深刻そうなため息ではなく、割とライトめな感じの、ふわっとしたため息だ。
「……それじゃあ、明日ね」
そういう彼の表情は、なにか戸惑いのようなものをみせていた。
翌日。
荷物を整理して、ホテルから出る。そしてバスの中に荷物を詰め込むと、小樽へと向かう。
そこで自由に観光したり買い物をしたりしたあと、俺らは飛行機に乗って帰ることになっている。
小樽に向かう道中、バスガイドの説明を聞きながら外をみやる。残念ながら動物らしいものをみつけることはできなかった。
スマホをぽちぽちといじりながら、今日のことを考える。
俺が望んでいることはなんなのだろうか。そんなことはわかりきっている。彼と、いつもと同じような距離感で、わいわいやりたいと思っている。しかし、もしかすると彼はそれを望んでいないのかもしれない。もし、彼がこれからそういう関係を続けていくことを望んでいないのだとしたら。
俺のやろうとしていることは、完全に自分のためということになる。
いや、自分のために行動してなにが悪いのだ。そう、俺は開き直ることにした。
これ以上ぐだぐだ考えていてもしかたがない。行動あるのみだ。
バスから降りると、彼に指定された場所へと移動する。バス停から十五分ほどあるいたところ。観光スポットとは無縁そうな、なにもないところだった。
誰もいない。そう思っていると、
「やあ」
視界の下から唐突に頭がでてきた。
「おっ……え?」
彼の姿を一瞥し、思わずそんな声を漏らしてしまう。頭のてっぺんからつま先まで、なめるようにじろじろと見てしまう。
「なんだい。なにか文句でもあるのかい?」
彼は、いつものトーンでそういった。もし、その声音が少しでも高いものだったなら、俺は確信を持てなかったことだろう。いや、まだ確信しているとはいいがたいか。そんな俺は、彼にこういった。
「……富士山蓮、なんだよな」
俺がそういうと、彼はかわいらしく小首をかしげる。
「もちろんそうだ」
そう当たり前のようにいう彼は、女の子だった。
あ、ありのまま今、起こったことを話すぜ! 俺は彼と待ち合わせをしていたと思っていたら、いつのまにか彼女と待ち合わせをしていたのだ!
なにをいっているのかわからねーと思うが、俺もなにがどうなっているのかわからなかった。
「っていうか、身長……縮んでいるよね?」
普段は170をちょっと超えるぐらいの身長があるのに、現在は160あるかないかというぐらいになっている。
「普段は特殊なインソールで盛っているからね。百万円以上する特注さ」
その割には足が短いという印象はない。むしろ、手がすらっと伸びていることによって、スタイルがさらによくなっているのではないだろうか。
童顔とモデルのような体躯。なんとも倒錯的な魅力を醸し出している。
「それで、どこにいくんだ?」
俺がそういうと、
「……なんでこんな格好をしているのか、つっこまないのかい?」
彼はそういって首をひねった。
「俺に本当のことを教えるために、必要なことなんだろう?」
そういった。その言葉を受けた彼もまた真剣な表情を向けている。そしてうなずいた。
よくよく彼のほうをみてみると、若干胸もあるようにみえる。思わずその谷間をガン見してしまう。ついでに玩味した。おっぱいの意味を考え、それを味わうことというのは、なんとも趣深いものだなあ。
「……どこをみているのさ」
彼は当然のように指摘してくる。
「えっ、いや、なんというか、その……えっと……そのおっぱいって、本物なの?」
「本物、というのは豊胸手術をしていない、純粋無垢なおっぱいかどうかっていうことかい?」
「いや、まあ、そういうことなんだけど」
「そうだよ。正真正銘、ぼくのおっぱいさ。だからそのエロい目線をどうにかしろ。通報されるぞ」
「あ、ああ」
といってはみたものの、どうしてもそういう観察をしてしまう。いつもより低いところにある頭。くびれたウエスト、そしてなにより問題なのがおっぱいだ。美乳すぎワロタンゴ。
そんな彼はどこからどうみても、女の子だった。いや、彼女というべきなのだろうか。
「え、というか……女の子なの?」
「そうだが、なにか問題があるかい?」
「い、いや、なんというか」
てっきり佐奈みたいに性別を変えたのかと思っていたから、ちょっと驚いてしまった。まあ、副作用が記憶に及ぶものだとわかった上で、それを許す親なんていないか。そう思って納得していると、
「ふむ。それじゃあデートと洒落こもうじゃないか」
彼女はそういって満面の笑みを浮かべる。
つっこみどころがいろいろあるが。まあ、いいか。
しかしデートといっても、そんなにたいしたことはできないだろう。数時間後には飛行機に乗らないといけないわけだし。
俺はなにかいやな予感に駆られて、言葉を漏らす。
「まさか、俺たちだけあとで帰るとかそんな計画を立てているわけじゃあないだろうな」
あの富士山蓮のことだからそれぐらいのことをやってのけることはそれほど難しくなさそうだ。俺はそんなことを懸念していると、
「さすがにそんなことは考えていないさ。みんなと同じように、ショッピングや観光を楽しもうっていう話をしているだけさ」
そういって薄くほほえむ。いつもより笑い方が柔和で、かわいらしい。思わず浮ついた気持ちになってしまいそうだが、これは真剣なイベントなのだ。そのはずなのだ。そう気を引き締めて、俺は口を開く。
「で、どこにいく?」
「そうだねえ。まずは、ガラス細工でもみにいくとしようか」




