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第29話 「卓球部だったのか?」

そのままバスに乗ってホテルに到着した俺たち。

 

ホールに集まって、夕食。バイキングだ。俺はひたすらローストビーフをとった。しかし思ったよりも固く、深い絶望を味わうことになった。ジャガイモとジンギスカンによって舌が極度に肥えていた俺は、バイキングにて苦痛を味わうことになってしまった(自滅)。

 

そのあとお風呂に入って、一時間ばかりの短い自由時間。

 

卓球場があるということだったので、そこに向かうことにした。一人でね。

 

「やあ奇遇だね」

 

そこにはクラスメイトと卓球を楽しんでいる富士山蓮の姿があった。

 

「おう」

 

「どうだい? せっかくだし、一緒にやらないか?」

 

彼は打ち合いながら俺にそんなことをいった。

 

「試合の最中じゃないのか?」

 

「ちょうど終わるところさ」

 

彼はそういうと、スマッシュを決める。マッチポイントだ。そして、卓球部みたいなラケットの構え方をしてサーブを打つ。

 

ボールは相手陣地に着くと、大きく横にはねた。

 

「ちょ、手加減するっていったのにー。ま、いいや。そろそろ部屋に戻ってトランプに参加することにするよ」

 

彼の友人はそういって去って行った。富士山蓮は「悪いね」といって苦笑し彼を見送る。

 

「卓球部だったのか?」

 

「いや、そういうわけじゃあないけど、家に卓球台と練習マシーンがあるからね。なんとなく練習していたら、それっぽいことはだいたいできるようになったよ」

 

「さすが金持ちだな」

 

いや、金持ちうんぬんというよりも、そこまで上達した彼の才能に感心するべきだろうか。そんなことを考えていると、

 

「さ、やろうか」

 

そういって彼はボールをぽんっと俺の陣地に送り込んでくる。俺もそれをぽんっと返す。そしてしばらくぽんぽんとボールを打ち合う俺ら。

 

「……そこまで手加減してくれなくてもいいんだぜ?」

 

彼の明らかな舐めプに思わずそんなことをいってしまった。

 

「そんなこといって、ぼくが本気出したら怒るくせに」

 

「誰がそんなガキみたいなことするか……ん?」

 

「どうしたんだい?」

 

「昔、おまえと卓球したことなかったか?」

 

「そんなシチュエーションがあり得ると思うのかい?」

 

「もしかしておまえ、昔一緒に遊んでたやつじゃないのか?」

 

「……さあね?」

 

「いったい、なにを隠しているんだ?」

 

「なにも隠してなんていないさ。おっと、マッチポイントみたいだね。本当に手加減しなくてもいいのかい?」

 

「問題ないよ」

 

そしてゲームが終わった。祝杯をあげることになりそうだ。完敗だけにね!

 

「楽しかったよ。そろそろ時間も時間だし、部屋に戻るとしようか」

 

 翌日。

 

本日の予定は、決められた班でレクリエーションをすることになっている。といっても、実質は観光みたいなものだ。

 

ということで、俺は打ち合わせていた通り、佐奈のいるクラスに足を運んだ。

 

ほかにも他クラスに移動しているやつらがちらほらいる。しかし、先生がそれをとがめる様子はない。

 

「やあ、きてくれたんだね」

 

「まあな。んでどこにいくんだよ」

 

「エアートリップにでもいこうかと思ってるんだけど」

 

「それはまたずいぶん贅沢な」

 

「お金なら腐るほどあるからね。ぼくが個人的に稼いでいるだけでもそれなりの金額にはなるさ」

 

「へえ。やっぱすげえな」

 

「そりゃあ、御曹司だからね」

 

「御曹司……か」

 

「じゃあ、いこうか」


     *

 

バスに揺られること一時間ちょっと。現地に到着した俺たちは、レンタルした装備をインストラクターの説明を受けながら着用する。

 

インストラクターの説明を受けながら、森の中を歩いて行く。

 

富士山蓮が先頭に立って、フライアウェイ。

 

「う、うわあああああ」

 

いつもの彼らしくもない絶叫が聞こえた。

 

「どうしたんだろう」

 

「さあ?」

 

俺らも彼のあとに続く。

 

「まったく……ひどい目にあったよ」

 

「なんだ、高所恐怖症なのか?」

 

「まあね。昔から高いところは若干苦手なんだよ」

 

「じゃあなんで、こんなところに来たっていうんだ?」

 

「……まあ、強いていうなら自己満足かな。そんなことはどうでもいいよ。それで、楽しかったかい?」

 

「ああ、最高だな」

 

「それはよかった」

 

彼はそういって、さらに空中をトリップする。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「昔、ここにきたことなかったっけ? なんか、懐かしい感じがするんだけど」

 

懐かしさのようなものは俺も感じていたが、こういう場所特有のものかと思っていたが、彼女がそういうということは、それなりの確信があるのだろう。

 

「……っていうか、ちょっと思い出してきちゃったんだけど」

 

「なにを?」

 

「次の方、早く飛んでください」

 

「あ、はい」

 

「また、あとで話すわ」

 

「おお」


 

「結局ホテルまで戻ってきちゃったな」

 

「本人はなにか隠したがっているようにも感じるし……その前で、昔の話をするのはためらわれるというかなんというか」

 

彼女はそういってにははと苦笑する。

 

「それで、なにを思い出したんだ」

 

「昔、あそこに五人でいっていたということ。それで、当時のわたしたち三人は小低学年だったから、エアートリップをすることができなかったのよ。楽しそうに飛んでる上級生二人をみて、純がどうしても乗りたいっていって。それで、そのとき仲良くしていた女の子が、また乗れるようになってからくればいいじゃない。っていって」

 

「……なるほど。っていうことはたぶん、富士山蓮がその少女だっていうのは間違いないんだろうな。でも、何のためにその事実、男になったことを隠そうとしているんだ?」

 

「別に、それそのものを隠そうとしているっていうわけじゃあないと思うの。でも、それに関わるなにかを隠そうとしている」

 

「なにか、後ろめたいことでもあるのかな?」

 

「たとえば、男になるに至った経緯に、なにかいいづらいものがあるとか。まあ、結局それは、本人に聞いてみないとわからないことだけど……聞きづらいことではあるよね」

 

「まあ、そうだな」

 

部長として、一友人として、こういう状況を放っておくっていうのは問題だと思う。

 

「なにか、解決策みたいなものがあればいいのだが」

 

「そもそも、なにを隠しているのかがわからない以上、なにもできるようなことはないと思うんだけどな」

 

「直接、聞いてみることにするか」

 

「……教えてくれるかな?」

 

「わからない。一度聞いてみることにするよ」

 

俺はそういって彼の部屋に向かう。

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