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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十四章 厄災の母体
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想定外の仮説

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 このお話に出てくる、BL担当のキャラクターは私の大好きなカップリングなのですが、話している内容が見事につまらないので、あんまり出てきてくれません。こちらに投稿しているものは、イチャイチャパートが全てカットされているため当然の話ですが。

 次回の更新は今週金曜日26日20時となっております! 次回もご覧いただければ幸せです(゜∀゜)


 ※設定ミスにより、こちらの部分が26日20時となってしまっていました。この続きに関しては、同日の22時に公開とさせていただきます。誠に申し訳ございませんでした。



・グルベルト孤児院


 リユニオンの実験施設から戻ってきたミラとルネは、一旦グルベルト孤児院に戻り、今後の方針についてまとめることにした。

 2人は早速、押収した情報を、相談室の机に並べて話し始める。


「収集してきた情報の中で大切なのは、①方舟には新しい機能として“責任者”という概念が導入されていること、②用途不明の鍵の発見、③方舟のプロトタイプはリユニオンで作られた、これくらいだろうな。これらの情報は、今後の展望に大きく関わる情報でもある。一旦はまとめておこうか」

「そうだね。一つ一つ、議論を進めよう。まずは①からだね。方舟に組み込まれた“責任者”というものは、責任者以外の端末操作を行うことができず、更に任意タイミングで起爆及び解除が可能である、というものだったね。しかもこの責任者は、方舟の製作者であるパールマンが設定されている。つまり……」

「現段階で、俺たちが方舟の解除を行うことは不可能になった、ということだな」


 ミラの絶望的な観測に対して、ルネは更に補足するように、厄介事に一つ項目を加える。


「それと、ケイティさんのお父様が持っているカードが完全に形骸化したっていう無駄な厄介事もあるけどね」

「そいつもあるな。だが、どっちにしてもここで厄介なのが、“現段階で方舟を解除する手段がない”ということだ。俺たちには残念ながら、爆弾解除の知識もないわけだ」

 全うとも言えるこの言葉に対して、ルネは一つ、可能性を提示する。


「ねぇ、国家的な爆弾処理班とか頼めないの?」

「それができてるのなら、既に頼んでいるさ。この国家的なトラブルに対して、ルイーザという政府が介入しないわけがない。にもかかわらず、そうはならないっていうことはだ……」

「まさか、既に買収済みなの?」


 ルネが尋ねたことは、かなり厄介なことを指摘したことになる。

 これほどまでに、国家的な危機に対して、これまでルイーザの政府、具体的に言えば国家的な権力について介入がないということは、何かしら強固な力によって制御されている可能性がある、ということだった。

 ミラもこの想定は勿論察していたようで、呆れた調子でつぶやく。


「まぁそういうことだな」

「でも、一つの国家を制御できるほどの財力と権力って……あまりにも限定的じゃないかな……?」

「その正体については、幾つか考察できるな。十中八九魔天コミュニティに関係しているだろうが、今その正体について考察してもわからない点が多い。大規模な権力を保有する者、程度に捉えていたほうがいいだろう。それ以上に、具体的な方法のほうが大切だ。この時点で、俺たちは相手が任意起爆できる方舟と一緒にいるって言う点で、厄介……」


 そこまで言って、ミラは言葉を詰まらせて、首を傾げて顎に手をおいた。次いで、一頻り考えを逡巡させた後、錆びついた鍵を手に取り、今まで抜け落ちていた疑問を提起する。

 一方、一連の動作を見ていたルネは、首を傾げて尋ねる。


「……どうしたの?」

「いや、俺たちは重大な前提を無視していた。そして、その前提を考慮すれば、話は大きく変わる」

「はい?」

「まず、俺たちは、“魔天コミュニティからルイーザまで、遠隔操作できる”と思っていたが、違うかもしれない。というか、恐らくはできない。なぜなら、もし仮にこの2つで遠隔的な操作、通信が可能であれば、宴の行動にしてももっと円滑に進むはずだ。更に、アルベルトにしたって魔天と直接会うこともしないだろう。そこを見れば、そもそもこの方舟を魔天コミュニティから起爆することはできない、可能性がある」

「えー、でもちょっとこじつけ感強くない? そもそも、こんな大規模な方舟を、この街でしか起爆できないっておかしい……え? まさか、え!?」


 ミラの言いたいことはすぐにルネも理解した。

 大前提として、水爆方舟は「一連の事件の証拠隠滅・エノクδへの対策」のどちらかである。そして製作者であるパールマンが意図的に威力の高い水爆にしたことから、証拠隠滅を目的として作られたものに寄ると推測できる。


 すると、この水爆を起爆するタイミングは「一連の事件が完全に終わった時点」か「ルイーザに残っている証拠が明るみに出る危険性が高く、かつ確実にそれが外部に伝わってしまう時」のどちらかである。

 そして、前者のタイミングについては25年前の事件が収束した時点で水爆が起爆していないことから、想定されていたタイミングは後者であると言える。だが、それを行うためには遠隔操作を行えることが前提である。けれども、それが状況的に不可能であると考慮すれば、その方法はたった一つになる。


「お前の頭の中にあることはきっと俺と一緒だ。一連のことから、情報が漏洩することを防ぐためにこの場所を作ったと仮定するのなら、起爆する側、この場合は魔天コミュニティ側の身の保障が必要になる。そのための方法論は簡単だ」

「“所定のタイミングで起爆させるスイッチを作った”、そういうこと……?」


 ルネの言葉に符合して、ミラは錆びついた鍵を手にとって「起爆のタイミングはこいつかもな」と笑う。


「つまり話はこういうことだ。そもそもパールマンはこの水爆を作った理由は“証拠隠滅”であり、それをするためには安全な起爆手段が必要である。そしてその手段として、“錆びついた鍵をあえてリユニオンに放置した”。理由として、件の情報が外に出回ればこの水爆に行き着くことになる。そうなれば方舟の解除は必須事項、この鍵は確実に必要になり、これで方舟を開けた瞬間に起爆する。こういうことだな」

「でも、それって少し無理がないかな? だって、パールマンらが都合よくルイーザにいるときに、運悪くそこで方舟の二重構造に入っちゃったら一緒に爆発だよ? それに、都合よく情報が漏洩する前にここを開くとは思えない。あまりにも、現実的ではなくない?」


 ルネの指摘に対して、ミラはそそくさと答えていく。


「いいや違う。現実的に、これしかできなかったんだ。というより、俺がパールマンならそうするな。考えても見ろ、どうしてパールマンは他の切れ者に悟られずに方舟を作ったんだ? そして、どうして今なお方舟は起爆していない? そればかりか、こいつは見事に、クリーピーパスタ的な存在としてこの街で語られた。それ自体が危険であるはずだ。だが、現実は見事に化物が鎮座している。そこから鑑みて、パールマンの意図は“起爆タイミングが任意である”というものであると見てまず間違いない。これらの状況を考えれば、俺たちが導き出した答えが最も現実的だ。お前の言った、都合よく魔天がいる中で起爆してしまうっていう点についても、一定のルールを設ければ問題ないはずだ。“起爆するまで、あそこに近寄るな”、というルールをな」

「なるほどね……そのルールを、少なくともトゥール側に敷けば、誤爆する可能性はかなりり低くなるっていうことね。それに、よくよく考えれば、この状況が、ミラの説を後押ししている気もする」

「正直、俺もこんなのありえないとは思ったさ。だが、奴が人の感情をコントロールし、かつ、ここまでの状況まで導いたのならば、この厄介な状態だろう。大体、これほどの爆弾を作って放置するなんて、考えられない行動だもんな」


 ミラが呆れた調子でそう言いながら、「じゃなきゃ」と鍵をルネに渡す。

「どうして、こんな大切な鍵が、結構簡単に辿り着きそうなリユニオンにおいたのかっていう話だ」

「つまり、これ自体がミスリード?」

「勿論、じゃない可能性もある。例えば、パールマンに反発した開発者の連中が、錆びついた鍵の原本のコピーをリユニオンにおいた、って可能性もある」

「……そっちの可能性のほうが現実的な気がするんだけど」

「それなら、他にもパールマンの情報とかがもっと外に出ているはずだろうな。そんなトラップに引っ掛かる程度のやつが、ここまでの事はできないだろう。パールマンという奴の厄介なところはだ、これほど大それたことをしていながら、ほとんど痕跡を残していないというところだ。普通、これはありえない。行動すれば確実に、痕跡が残る。それがまるでないのが不吉だ」

「うん……まるで、ありもしない完全犯罪を見ている気分だ」


 随分と的を射たルネの表現に対して、ミラは首肯しながらその言葉を称賛する。


「なるほどな。確かに、存在しない完全犯罪ってところだな。それを成立させた手段は恐らくある。いや、正確に言えば、“ある痕跡を、気にならない形にした”っていうところだろうな」

「つまり、僕らが見つけた痕跡の中で、気にかけずスルーしてたものがあるっていうことかな?」

「どんなカラクリを使ったかは知らんがな。しっかし、こう名前ばっかり出てるのに姿を見せないのは、鬱陶しい限りだな」


 ミラが笑いながらそう毒づくのとほぼ同時に、これまた呆れた調子でケイティが扉を蹴破って相談室に入ってくる。


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