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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第九章 嗤う鵜篝
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名前を持たぬ者

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 実は、今回文字数が「3333」という奇跡的なことが起きています。まさかのミラクルに少し驚きました。4桁なので4で統一されていたら更にいい感じでしたが仕方ないですね。

 次回の更新は金曜日23日20時となっています! 次回もご覧になっていただければ更に幸せです(*´∀`*)


・区域-I メルディス資料庫


 イレースらと分かれたイリアとフーは、フラーゲルに連れられメルディス側の資料室に向かっていた。

 その道中、フラーゲルは随分と睨みを利かせてくるイリアに対して疑問符を投げかける。


「ねぇ、随分と警戒心が強そうだけど、私なにかしたかしら? 一応、真面目に護衛作業をしているはずなんだけど?」

「別に、あんたに対してだけ疑惑の目を向けているわけじゃない。こんな状態で疑わないで行動するなんてただの馬鹿だからな。それに、あんたはどうにも信用ならない」


 イリアは堂々とそう言い放つ。


 フラーゲルはコクヨウに所属する前にハクヨウという部隊で総隊長をしていたのだが、その頃から狡猾で他者を駒としてしか見ていない節があることは有名だった。冷徹な合理主義者といえば更に適切であろう。つまり、自らの利益のためであれば手段を一切選ばず、しかもどんな犠牲もいとわないタイプの人種なのだ。


 加えて戦闘能力も極めて高く、最強の兵隊に与えられる最高位の勲章、「名無」と呼称される人物である。「名無」はいわば、二家に入ることのできる権利のようなもので、それまでの名前を捨て二家として、責務を全うする「選択」ができるのだ。

 それほどの戦闘能力を備える危険人物が敵に回っているとかなり分が悪い。イリアとしては、疑いを晴らすこととこちら側に引き入ることも求められているのだ。


「信用ならないっていうのは仕方ないけど、こんな状況なんだし協力しましょうよ」

「それはこっちのセリフだ。あんたが100%こちら側だとわかれば、こんなふるまいはしないしな」

「あらー、それなら信用してもらうためにも、頑張らなきゃね。さ、資料室へどうぞ」


 一向に警戒心を解かないイリアに対して、フラーゲルは気にすることなく資料室の扉を開いて、そっと2人を招き入れる。


 資料室はメモリーボックスに記録されているものの中から、厳密に保管しなければならないが、使用頻度の高いものを紙媒体に印刷したものが保管されている。これについてもかなりの制限がかけられており、資料室を使用する許可が必要となる。


 許可は既にとっていることを見ると、少なくともフラーゲルは純粋に敵であるとは言えないようだ。


「ま、別に警戒されてようが、私は私の仕事をするだけなんだけどね。お茶でも入れてくるわ。資料室の許可はとってるから、適当に見てね~」




 警戒するイリアを嘲笑するように、フラーゲルは飄々とそう言って部屋から出ていってしまう。まるで、イリアの感情すべてを読み取っているようにも思えてくる。

 そんなフラーゲルに対して、一番最初に反応したのはフーだった。


「イリア、フラーゲルは……絶対裏切ってるよな?」

「不確定であるが、今のところはよくわからない。だが、フラーゲルのあの態度、この状況にもかかわらず随分と余裕げだな」

「もし仮に、フラーゲルがメルディス側を裏切ってトゥール側についているとするなら、この状況は最悪だ」


 フーの一言は、イリアの感じていることを十分に言い当てていた。この状況で、フラーゲルがトゥール側に回っているのならば、今までの裏切り行為とはまた異なる反感を買うことになる。

 今回のトラブルは、国家そのものの存続に大きく関わることであり、直近で2つの派かかわらず協力することという司令が全体で共有された。そのため、未だにどちらかの派閥に関わって行動するのはもはや国全体への敵対行為であり、今まで以上に立場を悪くするものだった。


 フラーゲルにとってもその状況は、簡単に覆すことのできないレベルのものになるだろう。それほどの危険性をはらみながらも、あそこまで冷静かつ余裕げに対処できるとはどう考えても思えない。どんな人物であれ、あんな態度ができるということは裏切り行為などしていないか、強力な後ろ盾があるのかのどちらかであろう。


「しかし、もし仮に裏切り者がいるのならば、随分大物だな。それかただのバカだけだろう……そういえば、フーは元々トゥール派だったんだろう? なにかあったのか?」

 それを聞かれて、フーは待ってましたと言わんばかりに答える。


「……それはあまり話したことがないが、トゥール派って本当に、言ってしまえば脳筋の集まりだ。俺みたいな学者基質なタイプはのけ者だ。元々、友人がそういうタイプだったんで一緒に加入したんだが、結局俺は合わずに撤退……。ちょっと鬱憤も溜まってたんだ」

「なるほどね。まぁ、確かにフーは、学者一本! って感じがにじみ出ているからな。爪弾きにされる理由も何となく分かる」

「爪弾きにされていたわけではない」


 フーはすぐに訂正するものの、イリアは冷ややかな視線を彼に浴びせ、その直後に開きかかった扉に視線を固定する。


 すると、扉が開きフラーゲルが入ってくる。その手には、大量の書籍と2つ分のお茶が入れられている。

 一方のフラーゲルはさほど気にした調子もなく、すぐさまその書籍を2人の前に落とし、一人ひとりにお茶を差し出す。


「これが紙媒体になっているノアに関するデータよ。そもそものデータが少なすぎるから、結構楽だったわ~」


 どうやら、目的の資料について、ご丁寧に調べてきてくれたらしい。だが、保管されている資料と時間が明らかに噛み合っていないことから、彼女が持っている資料しかなかったのだろう。それか、予め調べていたのかだ。

 後者ならば、フラーゲルがこちら側を信用させようとした演出にも見える。状況的に見てもなかなかの白々しさであるが、フラーゲルは相変わらずといった声色で資料を説明する。


「ノアに関する資料は現メルディス様がまとめたものね。他のものが割とどうでも良くなる位に整理されたものだ。他はノアに接触した、っていうか見た奴らの記述をまとめただけ。見るならこれだけでいい」


 フラーゲルはそう言いながらぼんと一冊、分厚い本をイリアに渡す。

 本のタイトルは「旧型封印と”ノア”の考察」というもので、完全に「ノア」という人物について論じたものであるようだ。


「かなり前の書籍だけど、書いてあることはあながち間違っていないだろうなぁ~」

 若干煽ったような口調のフラーゲルを放置して、イリアはその本の趣旨に目をやった。しかし、それを読み上げるよりも早く、フラーゲルは立ち上がり、そそくさと出ていってしまう。


「あ、電話だわ。ちょっと席外すわね」

 フラーゲルは見せつけるように通信機を指先で持ち、大振りな仕草で手を振りながら外に出ていく。

 それに対して反応するものはおらず、イリアは趣旨の部分の不自然とも言える記述を発見する。


「直近に生じたエノク襲撃事件の首謀者であるノアについては極めて謎が多く、それと同時に多くの可能性を持っていると推測できる現象が複数報告されている。専らこれらの報告は、現在までの魔天生態学の通説では収束することのできない現象でもあり、ノアという存在そのものに焦点化して論じる必要性は、この国家において最優先事項であると言えよう。しかしながら、ノアに関する、生物学的なアプローチは非常に難しく、本書では”かろうじて採取したサンプルデータ”を用いた論述を行う……ずいぶんと、変な記録だな」

「それって、可能なのか?」


 フーも一様の違和感を覚えたのか、冷静にそう指摘する。

 それに対して、イリアは「不可能だろう」と判断する。


「研究に使用できるくらいの、有効的な細胞データをノア相手に採取することなんてできるだろうか。先に見てみても、ノアが魔天の類ではないことは確かであり、それは生物学的にどんな生物にも属さないような存在だったという。あの状況でそこまでの情報解析は困難だと思うんだけど」

「俺も同じ違和感がある。なんというか、これ全てが本当であるとは思えない。虚偽性があるっていうのか?」

「あぁ、嘘の情報を握らされているのか? いや、それでもこの書籍は承認もされている。これにはある程度の信憑性があると見て間違いない。だが、とことん今回のトラブルにはどれを信じてどれを疑えばいいのかわからないな」

「そうだな……とりあえず、ノアについて情報をまとめよう。真偽については各々の情報でまとめた後に考えよう」


 フーの提案にイリアは共感を示し、すぐにノアについての情報をまとめ始める。



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