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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第九章 嗤う鵜篝
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機雷をゆく方舟

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 実はここでお知らせがありまして、この物語を年内完結させるためにも、更新頻度を少しだけ引き上げたいと思います。具体的には、今まで隔週更新となっていた金曜日を毎週更新に引き上げたいと思います。これからも、ぜひこの物語のことをよろしくおねがいします。

 次回の更新は今週金曜日16日20時となっています! 次回もご覧になっていただければ更に幸せです(*´∀`*)


 ※致命的な人名ミスがありましたので、12月16日現在修正しました。



 イレースとアゲートがM塔に入る直前、イルシュルはこれからのことを考えてどう対処していいのか悩んでいた。

 現状、トゥール側の立場は最悪である。


 当初のプランは、25年前の事件がきっかけとなって不信感が高まっている者たちの票を得るために、事件の発端となったザイフシェフトを滅ぼそうとしたはずだった。

 勿論、それを強行すればそれなりの問題点が指摘されるが、人間側が魔天コミュニティの喫緊の脅威となるものであることを証明できれば、人間への非人道的な行動の理由付けになる。

 その「証拠」が、25年前のザイフシェフト事件において、人間が魔天への対策として開発を進めた「方舟」だった。


 「方舟」とは、人間が、もっと正確に言えば旧ザイフシェフトと旧リラがエノクδを殺すために用いようとした単一で最大火力を叩き出すことができる兵器であり、確実に対象を仕留めるために20メガトン級の核爆発を引き起こすと想定されていた水爆である。

 作成が着手されたものの、完成寸前でその危険性が指摘され、結果として旧ザイフシェフトで厳格な保管がなされることになった。

 しかし、両国の統合により、その存在を認知するものはいなくなってしまい、結局完全に処理されることなくいまだ街の地下に眠っている。


 長期間の放置は核兵器そのものの劣化に繋がり、爆発を誘発しかねないのだが、方舟に着手した研究者の厳密な対策により、自然的な爆破の可能性は乏しいらしいが、それが100%安全であるとは言い切れない。いわば、いつ爆発するかわからない文字通りの爆弾を抱えたまま、あの街は今もあり続けているのだ。


 20メガトンクラスの爆発が生じれば、別次元に存在している魔天コミュニティも無事ではないだろう。少なくとも、座標的には同一の場所に存在しているということを考慮すれば、何かしら危険なトラブルが生じると思われる。

 これらのことから、トゥール側が先にそのトラブルに対処するため、一旦は人間を支配することを考えた。そのためには人間側に協力者が必要となるが、これらのことについて知っているミラー家に白羽の矢が立てられたのだ。


 ミラー側にしても、「方舟」の危険性は認知しており、この街での立場的な危機に対処するために、トゥール側の計画に関わることになったことで、今回のプランが作成された。

 その上で、個人的にザイフシェフトに恨みを抱えていた「宴」を利用し、トゥール側は「トゥール」、「宴」、「ミラー家」を利用したルイーザ破壊計画を遂行することになった。


 その計画が十分に遂行されていれば、こんな状況に陥ることはなかったが、数々の綻びにより現在の極めて厄介に状況に立たされることになった。


 イルシュルらにとって一番最初の綻びは、「宴」の独断的な行動だった。


 ゲリラ組織「宴」は、当時こそトゥール派全体と手を組んでいた宴であったが、彼らは従来までの計画の他に別の計画で動いていたらしく、旧ザイフシェフト南エリアの銀行強盗を始めとする多くの重軽犯罪を行っていたようだ。

 その真意はルイーザ旧国境区に存在する便利屋「天獄」を葬るためであったためであろうが、これにより魔天コミュニティが動いていることを強調してしまったのだ。


 このことで、それを認知してしまうことが直接危険性に繋がるのはルイーザという国家ではない。

 それこそ、彼らが懸念していた天獄がそれを認知し、それに合わせて行動してしまうことこそが最悪の筋書きだったのだ。そして、結果的にその筋書きは丁寧とも言える嫌味さを見せ、完全に悪い方向へと向かってしまった。


 そして、それに合わせるように、宴が魔天コミュニティの中でも行動し始める。一番最初に動いたのは区域-Aへの襲撃であり、続けざまにエノクε奪取も実行した。それによりメルディス側に強い警戒心をもたせてしまうことになり、コクヨウが動き出してしまった。

 更には宴の中にいたらしいエノクδ、そしてノアまで動き出してしまい、この最悪の状況が形成されてしまった。


 エノクεの奪取については計画に組み込まれていたのだが、それを実行するタイミングが明らかにおかしい。

 本来であれば、確実に奪取可能なタイミング、具体的に言えばメルディス側が25年前の事件に責任があると認められる行動をこちらが行い、エノクεの所有及びコントロールが不適切であると指摘して奪取するという計画だった。


 しかし、それに反するように宴は力技での凶行に及んだ。これが原因ですべてのプランが破綻しかかっている。これは、トゥール側への敵対行為であると認識して、宴を完全に潰すべきなのだろうか。


 イルシュルは頭を抱えて悩んでいた。どうやってこの状況を打開すればいいのか。おそらくは自分だけの力でこれを解消することはできないだろう。イルシュルは無意識に強烈な不安にかられていた。


 今までの計画を立案したのは、幼馴染であり今まで自分を支えてきてくれたパールマンなのだ。それ故これに対処するためには自分では不可能であることは明白だった。


 そして今現在、パールマンは連絡の取れない状態にある。つまり、現状の判断を自らでしなければならないということだった。

 そのことで頭を悩ませていたイルシュルは、苦しくうめき声を上げながら机に突っ伏していた。




 そんな中、ベヴァリッジからの指示により、メモリーボックス閲覧の許可を取りにきたイレースとアゲートが扉を叩いた。


「トゥール様、メルディスから来ましたイレースと申します」


 イレースの奥ゆかしい声が響き渡った後、イルシュルは倍速の如く素早さで頭を起こし、ゆっくりと扉を開ける。


「あぁ、君たちか。何かようかね?」


 落ち込みを隠すように、イルシュルはできるだけ堂々とした声色でそう言うが、隠しきれぬ動揺を表出するように声は深く震えていた。

 しかし、そんなことお構いなしと言った具合に、イレースとアゲートは目的をつらつらと述べる。


「失礼します。トゥール様、最高重犯罪者であるノアからの襲撃がありました。そのヒントを調べるため、メモリーボックスを閲覧したいのですが、その許可をお願いします」


 有無を言わせない調子のイレースに対して、イルシュルは即答することができないでいた。


 というのも、メモリーボックスはその厳重な情報管理と閲覧制限により、あらゆる情報が記録されてしまっている。実は、メモリーボックスは情報技術者が意図的に保存するのではなく、魔天コミュニティで使用されているすべてのデジタル機器の実行された行動を記録し、それに応じた情報を記録する。

 つまり、メモリーボックスそのものが魔天コミュニティのすべての電子機器での電子データを傍受する、いわば最強の情報傍受システムなのである。


 あまりにも膨大なデータゆえ、そのすべてのデータを管理することは専用の人員を用意する必要があり、メモリーボックスの情報を管理している団体が用意されている。このメンバーは、唯一国家どちらかに継投することのない第三者である二家から選抜されるもので、公平にコントロールされる。


 その性質ゆえ、メモリーボックスにはメルディス側に知られれば不利益を被る情報が複数存在する。具体的に言えば、25年前の事件にトゥール側が関与したことや、100年前のサイライに対して、魔天コミュニティの危険人物を幾人を実験体として渡したことを示す証拠が残っている。


 特に、100年ほど前にサイライに対して実験体を複数提供したということについては、メルディス側に伝わってしまえば実刑もありうる。

 それについては絶対に知られてはならない。これらの理由から、イルシュルはそれを即決することができなかった。



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