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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第五章 物性質の支配主
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傍らの因子

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 今回から第5章です! 少し飛びましたが、第3章からの続きとなりますので、奇数章のみをご覧になってくださっている方も、ぜひぜひご覧になっていってくださいね(ヽ´ω`)

 この第5章は、複雑な内容になりますので、後ほど改稿すると思いますが、根本的な部分は変わらないので、これからもご贔屓にしていただければ幸いです(*´∀`)

 次回の更新は来週の月曜日11日20時です! 興味がある方はぜひぜひどうぞ!☆(´ε`


・魔天コミュニティ 区域A-職員寄宿舎



 寄宿舎に到着したカーティスらはイレースの部屋に直行する。

 室内は非常に広く、リビングルームとダイニングルーム、そしてバスルームが備え付けられている。寄宿舎というよりはもはや物件であり、賃貸となれば結構な価格帯と思われる。

 室内はまるで書庫であり、数多くの本が整然と並べられており、如何にも学者の部屋という雰囲気である。しかしカーティスが想像していたような整理整頓という言葉とは程遠い状態ではまったくなく、イレース本人の性格が窺い知れる部屋だった。


 一方、寄宿舎まで護衛をしてくれていたネフライトは、ほとんど何も仕事がない状態だったことが災いしたのか退屈そうである。

「ネフライト君も、中にどうぞー」

 あまりにも暇そうだったので、カーティスはネフライトを人の家に招き入れようとする。

 イレースもそれについては了承していたが、当のネフライトは意外な反応をする。


「僕はお外の見張りをしてるよ。イレースは、レオンくんを介抱してあげてー」


 そう言いながら、ネフライトはカーティスの答えを待たず、そそくさと外へ出ていってしまう。

 室内に取り残されたカーティスらは、素っ頓狂な顔をしてイレースに声をかける。


「なんか不思議な人だったな。子供っぽいのに、なんか妙な凄みがあったり」

「まぁ、コクヨウのメンバーはそういう人が多いから気にしなくてもいいよ。戦闘のプロだからね。ほら、レオンをベッドに寝かせてあげて。相当ウトウトしてるし」

 イレースの言うとおり、レオンは既に瞳を閉じていて、等間隔で大あくびをしている。どうやらかなり疲弊しているのだろう。


「今日は疲れたよなー。ちょっと休もうな」

 カーティスは適度な声がけをしながら、ふかふかのベッドにレオンを下ろして、ゆっくりと頭を撫でる。

 すると、頭を撫でられたレオンは心地よさそうにすやすやと寝息を立て始め、小さな呼吸音を残して眠り始める。


「なんか俺らも疲れたな。今何時なんだよ」

「もう深夜だからね。僕らも寝ようよ。こんだけ動けば君も疲れるだろう」

「それもそうだな」


 イレースの提案にカーティスは同意し、レオンの傍らに寝そべり、ゆっくりと彼の体を撫でる。

 しかし、そんなイレースは、自らの言動をうち破るように、とある提案を行う。


「カーティス、寝る提案しといてなんだけど、お互いのことを知る必要があると思う」

「急に恋仲みたいなこと言ってんな」

「ネタで言ってるんじゃないよ。この状況は異常すぎるし、それを知るためにはまず僕らの関係に着目したほうがいい」

「否めないが……俺は本当に、魔天コミュニティと関係があるとは思えんが?」

「いいから、出来る限り細かい生い立ちを話してほしい」

「はいはい。つっても、俺は自分の出生のことを完璧に知っているわけじゃないからな」

「奇遇だね。僕も同じだよ」

「共通点一個見つかったな」

「…………確かに」

 思わぬ事実にイレースは、更に追求を深める。

「やっぱり、今回の件に巻き込まれたのは僕らに原因があったのかもしれない。ほら、カーティス喋って」

 若干強引なところがあるが、カーティスは冷静に自分の生い立ちについて説明を始める。


「俺は孤児院に捨てられていたらしい。それからはアイザック先生に育てられたんだけど、その後里親に引き取られた。だけどそこで虐待にあって、もう一度孤児院に戻って育ったんだよね。ただ学校には行ってたんだけど、色々な事がありすぎて、ちょっとやんちゃしてた事があって……まぁアイザック先生には迷惑かけたかな。つい最近はやっと成人して自立した生活ができたから、アイザック先生にプレゼントを買いに行ったところ、このトラブル。そんなところかな? なんか質問あれば答えるぞ」

 カーティスの話をよく聞き、質問を始める。


「両親は? 人間?」

「当たり前だろ。知らないけど」

「じゃあ確定じゃないじゃん。君も出生があやふやだって言うことが大事なんだよ」

「それもそうか。でも、魔天のスポアとかはないはずだぞ。人間の可能性のほうが遥かに高いと思う」

 それを聞き、イレースはカーティスを人間であることを確定させる為に発育の質問を投げかける。

「ちょっと恥ずかしいことだと思うんだけど、精通は何歳だった?」

「質問の意図がよくわからないけど、だいたい13歳くらいかな」

「今20歳だよね? 人間の思春期の中で、羽毛みたいな体毛が布団とかに付着したり、ゴツゴツした表皮に変形したことある?」

「ない」

「じゃあ人間の可能性が高そう」

「いや今の質問意味わからなかったんだけど、特に前者」

「黒色の本棚にある、”魔天の成長発達過程”っていう本があるからそれ見てもらったらわかるけど、魔天っていうのは個体によって保有する力が違うっていうのは話した通りだ。もっと詳しく言うと、力が強くなればなるほど成長するのに限度があるんだよ。例えば僕みたいな幼児体の魔は、生まれて赤ん坊の状態からここまで成長するまでは正常に発育するんだけど、今の状態に成長したらそこで性的な発達が起きて成長が完全に止る。それは他の魔天も変わらない」


 カーティスは、イレースの話した狂気の発達過程を聞き、驚きつつも会話を続ける。

「なんだそのエグい成長過程……それって、例えば30歳まで成長する魔天は、それまで一切の生殖が行えないってことか?」

「まぁそういうことだね。老人くらいの人だったらそれまで生殖器官が発達しない。でも、幼児も結構しんどいけどね。これ以上体は成長しないし、身体能力は乏しいから」

「え? やっぱりそうなの? 小さいと絶対的に強いわけじゃないの?」

「当たり前でしょ。小さかったら筋肉量や機動力はそれだけ落ちる。だけど、幼ければ幼いほど力は強いから、それだけ再生力は強まる。それにスポアとかの力はすごく強いから、それでカバーするのも多い。だから戦闘を担う魔天は中間層である20代くらいの魔天が最も多いと言える。ついでに言えば、魔天の人口分布で最も多いのは大体4,50代くらいじゃないかな。そういう人たちは現在核シェルターに避難して暮らしているけどね」

「今回のことはもう民間人には行き渡ってるんだな?」

「宴がここまで暴れればそりゃそうでしょ。でも、ここはシェルターの町とも言われているから、蓄えがあれば危険性はないと思うよ」

「確かにな。で、俺に関しては他になんか質問あるか?」

「あー、えっと、とりあえず今はないかな。じゃあ次は僕だよね」

 話がかなり逸れたところで、イレースは自らの生い立ちについて話を始める。


「僕が生まれたのは大体100年位前。でも、両親は全くわからなくて、僕も孤児として生まれた。今のメルディス様は僕の元々の後見人で、その後、アーネストという家に養子として貰われることになった。だけど、それが決まった後、僕は”サイライ”という人間の団体に誘拐されたみたいなんだけど、それについてはよく覚えてなくて、気づいたら普通の生活に戻っていた。それからは悲しいいじめの日々で、頑張って色々勉強して今の地位って感じかな」

「後半驚くほど雑だったがそれは話したくないってことだな。共通点として、俺達は孤児であり出生が不明であるという点だけが共通してるな。逆に言えば、それ以外は基本的に皆無? てかイレース、この容姿で100歳超え……?」

「まぁ年齢のことはおいておいて、そうなる……よね」


 お互いのことを確認してみたが、接点という接点がほとんど見当たらない2人は、必死に繋がりを思い出そうとするが、どうにもそれはないように感じていた。

「やっぱり関係なんてないんじゃないの? 体が繋がったのはたまたまで」

「たまたまこんなこと起きないでしょう。それに、とっとと君の体を見つけないと危険かもしれないよ」

「……どういうこと?」


 すると、イレースは呆れた調子で想定される事柄を話し出す。


「はぁ……今君の体は動いていないはずだ。それなら筋肉や臓器が動かないから、何かしらの機能不全を引き起こす可能性だってある。それに、体内に入ってくるエネルギー量だって限られるから、かなり危険な状態に陥ってしまう。タイムリミットは、君が体を離れて大体5日というところだろう」

「え!? じゃあ寝てられねーじゃん!!」

「仮定の話だからね。僕は別に人間が専門じゃないし」


 まさかの話に対して、カーティスは苦悶の声を上げるものの、それと同時に疑問も湧き上がり、率直にそれを口にする。


「そういえばカーティスって、何を専門的に研究してるの?」

「”自然神と魔天の親和性”だよ」

「しぜんしん? なんだそれ」

 聞きなれない単語が出てきたことで、カーティスはいつも通り用語解説を求める。

 しかし、それに対してイレースは困った調子で答える。


「自然神はね……そうだね。一言で言えば”事象としての側面を持つ生物”といったところかな」

 イレースの学者的な言葉遣いに、カーティスは疑問符を浮かべて詳細を尋ねる。

「もっと簡単に!」

「いやー、実は自然神っていうのは僕らもあんまり知らないんだよね。というのも、この存在が判明したのはさっき言ったエノクαレポートだったし、その中でもさらっと名前が出ただけなんだよ。それから25年間研究を続けてるんだけど、さっぱり実態が掴めない」

「なんでそれを研究してるんだよ」

「エノクαレポートによると、自然神は魔天の新たな可能性を拓くかもしれないっていう事が言われていて、人間的に言えば新しい資源の開発みたいなもんだよ。ほら、そこの黒色の棚に入っている蔵書がそれのコピーだよ。”R&H著 自然神という存在”って言う本に詳しいことが書いてあるよ」


 カーティスは、イレースの言った本を手に取り、徐に表紙を開く。すると、非常に丁寧な作りの目次が目に入ってくる。内容としては、自然神という生物の存在を事細かに書いた本らしい。第一章は自然神がどのような存在であるかが書かれている。

 その一文を見て、カーティスは苦笑いを浮かべながら一部を朗読する。


「”自然神は極めて異質な存在であり、生物学的に創造神の近種に位置づけられる。特筆して奇妙な点は、人としての造形を持ち合わせながらも分化した機能を不随意的に司るというものであり、どんな生物にも属さない。あらゆる意味で創造神と酷似しているものの、自然神は事象と生物の2側面を持ち合わせる点で創造神とは異なる”、意味わからないんですけど」

「まぁ学者が書く本だからね。学術っていうのは予めそれについての知識とか本を読み慣れてないといけないから、一般人が見るとちんぷんかんぷんでおかしくないよ」

「でもなんかすごいのはわかった」

「そこまで分かってないでしょ。別に僕の専門のことはどうでもいいでしょう。問題はどうしてこんな状態になったのかだからね」


 カーティスは、イレースの言葉を聞きつつ本をペラペラと開く。すると、どこかのページからメモのようなものが床に落ちる。

「なんだこれ」

 そのメモのようなものを拾い上げたカーティスは、乱雑に書かれた一文を読み上げる。

「……”エネルギーの飽和=テンペストの起点? もしくは、臨界点? となっている可能性”、なんのメモだ?」

「あぁ、それ恐らく著者のメモなんだろうけど、意味不明だったからそのままコピーして挟んでおいたんだ。ほとんど栞代わりになってるけど」


 すっかり興味が移っていたカーティスに対して、メモについて説明したイレースは無理やり話題を戻し始める。


「ほら、そのメモはいいから、一旦僕らのことに話を戻すよ」

「つっても、考えようにもあまりにもヒントがないんだよな。そもそも、他人の意識を強引にくっつけて、今みたいな状態にする技術って、ここではもう普及しているのか?」

「いや、理論的には体系化されているんだけど、実際に適用されたケースはない。むしろこの技術は人間の技術であるといったほうがいいだろう」

「どういうこと?」

「”アイザック.M 著 魔天エネルギーによる細胞接合と人格意識統合の諸理論”という本がそれに当たるんだけど、元々はこのアイザックって言う人が理論的な枠組みを作ったらしくて、既に一人の少年の臨床データがあるみたい」


 イレースの話に、カーティスは著者である人物のことを想起しながら、彼の語った本を手に取り、見出しを開く。

 勿論、カーティスの頭に浮かんだのは、自分の恩師であるアイザックの方である。

 カーティスが本の中で最初に探したのは、著者の自己紹介のページだった。そのページには、生年月日と経歴、そして写真が記載されていた。そのページを、カーティスは黙々と睨みつけ、咀嚼するように内容を理解していく。

 一方、イレースはそのカーティスの表情に怪訝な調子で尋ねる。


「……カーティス? 大丈夫?」

 すると、一読したのか苦しそうな声を上げてイレースに声を返す。

「よかった……もしかしたら、アイザック先生かと思ってさ」

「あぁ、恩師の? そういえば名前同じだったよね。でも、別人だろう? 僕も会ったことがあるけど、僕が20歳くらいのときに、もう結構ご老人だったから」

「それなら、多分そうだわ。この本だって、30年位前のものだし、その時点で結構ご高齢だし。名前だけだ。あーよかった」

「ふーん……で、君の恩師の方のアイザック先生はどんな佇まいなの?」

「可愛い男の子って感じ?」

「は?」


 カーティスの形容に、イレースはかなりドスの利いた声でそう口走る。確かに、先生といえば結構な年齢の人物を想起する為、イレースの感想は妥当なところである。

 しかし、カーティスは寸分の嘘もついている様子はなく、至って真面目である。

「本当だって。多分イレースと同じくらいの身長で、髪の毛が若干長い男の子。だけど先生としての風格もあって、色々すごい人」

「その人本当に人間なの?」

「いや、人間でしょう。流石に魔天の類が人間の社会で孤児院経営しないでしょ」

「そうだけど……その孤児院、なんて名前なの?」

「疑り深いなぁ。”グルベルト”孤児院だけど」


 その名前を聞いた途端、イレースは声色を変えて露骨に狼狽し始める。

 当然そんな反応になるなんて思ってもいなかったカーティスは、「なんだよ」とイレースに問いかける。

「……本当に、グルベルト、なの?」

「そうだけど……マジでなんかあるの?」

 カーティスの言葉に対して、信じられないという面持ちで答え始める。


「25年前、魔天の中で唯一の犠牲者となった天が、グルベルトという名前なんだよ……厳密に言えば行方不明なんだけど、あの事件から彼を知るものは誰もいない。事実上死亡扱いになってるはずだ。どうして、その名前が孤児院に使われてるんだ……?」

「そんなこと俺が知るわけ無いだろ……でももし、グルベルト孤児院の由来が本当に、犠牲者となったグルベルトなら、俺のいた孤児院は魔天と何かしらの繋がりがあるのか?」

「その可能性は現状かなり高いかもしれない。だって、ザイフシェフト出身なんだろう? 25年前の事件が起きた場所だ。僕と君を繋ぐ接点は、それかもしれない。もっと言えば、この状況を作り出した犯人が、僕らをつなげたかった? しっくり来る解ではないけど、近い答えではありそうだね」

「正直俺は話が錯綜しすぎてもう頭が痛い」

「考えるのは僕がやるから……もう寝よう。寝るの大事だし」

「やったーおやすみ!」


 こうして、カーティスの長い一日がようやく収束することになる。



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