表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不条理なる管理人  作者: 古井雅
第四章 命削りの嘆願
16/169

存在しない失踪者

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 第4章はこれにて終了です。次回から再び場面が切り替わり、3章の続きという形でお話が進みます(*´∀`*)

 ちなみに、この章は推理とともにBL要素も含むので、後ほど注意書きを加えておきます。この部分を読まなくても、今回のトラブルの中核に触れることができるので、苦手な人も、奇数章をご覧になっていただけると幸せです(・∀・ミ)

 次回の更新は今週8日金曜日の20時です! 興味がある方はぜひぜひどうぞ!☆(´ε`


 ケイティとの電話を切ったストラスに対して、ストラスは「ということだが」と話を切り出す。

「とりあえず疑問だらけなんだけどさ、ルネはどう見る?」

「……そうだね。もし、本当に秘匿回線みたいなものを使ってるなら、わざわざ直接会うリスクを冒してまで、そうしなければならない理由があるのかな」

「それなきゃ普通そのまま話すだろ。記憶媒体にデータを残したくないとかか? 絶妙にしっくりこないな」


 2人がこれほどまでに、ケイティの行動に対して違和感を覚えているのは、ここまで綿密に暗号を組んでいながら、わざわざリスクを冒すような真似をしているからだ。盗聴を気にしているのだろうが、秘匿回線を用いていると言っているため、少なくとも一般的な電話を用いるよりはリスクが低い。それなのに、「直接会う」という更にハイリスクな対話方法を持ちかけてきたのが不自然極まりないのだ。

 この時点で直接会うという判断をするということは、そうせざるを得ない状態に追い込まれていると考えるのが無難であるが、どうにもそういう理由が見当たらない。では逆に、直接会うことでできることはなんだろうか。ルネはそちら側に立って考えてみるが、今ひとついい案が浮かばない。


「まー、とりあえずこれはおいておくとして、今はケイティさんが暗号を使わなきゃいけない状態になっていたことについて考えるほうがお利口だよね」

「ひとしきり考えてわかんなかったんだな」

 ストラスに痛いところを突かれたルネは、ストラスの方を一切見ず、苦笑いを浮かべている。しかしすぐにその態度を翻し、現状考えられることについて話し始める。


「……この暗号を作ったってことは、あの資料が検閲される可能性を見込んでのことだ。つまりケイティさんは、かなりの危険を冒して僕らに助けを求めたことになる。一方で、ケイティさんは僕らを嵌めようとしているのも事実、1億もの金銭を使って天獄を潰そうとしている。この2つの事柄は矛盾することで、とある一つの事実につながるよね。”ケイティさんは、天獄を潰そうとしている勢力に何かしらの脅しをかけられている”、ということになる」

「そこまでは俺もなんとなく想像つくが……」

「ここからが大事。脅しをかけている連中は、ある程度ケイティさんに対して危害を加えていないということが重要だ。これにより、①ケイティさんに対して別の役割を期待している、②ケイティさんと以前からの知り合いである、この2つの可能性を示唆できる。特に後者なんて短絡的すぎるし、前者の可能性が高い。ではそうなった場合、ケイティさんに対して期待している、もしくは与えている役割って何が考えられる?」

「全く浮かばないぞ」

「残念だけど僕もあんまり浮かんでない。でも、僕が天獄を潰そうとしている連中なら、ケイティさんに対して何かしらの役割を求めるのはかなり危険だと判断して、もうちょっと厳格に彼女を見張ると思う。相手はそれもしていない。絶対に見張りをつけていないとは言い切れないけど、付いているなら彼女がここまで大胆に行動はできないはずだ。ほとんど一定間隔ごとに監視していると推測できる。これに対しては①人員の問題、②意図的にそうしているか、の2つが考えられるけど、普通に考えて前者だよね。でもそれって、つまりは準備をあまりしないで今回のトラブルを起こした可能性が高くなる。今までのやり口から考えてそれも考えにくい。意図的に彼女を野放しにしている可能性がかなり高い。しかしそれはかなり不可解な手口でもある」

「話混沌としてきたからまとめてくれ」

「これらのことから、僕は彼女と潰そうとしている者は、何かしら友好的な関係にある。つまりは脅されてはいない。潰そうとしている者は、その手段としてカーティス・マクグリンという青年の失踪事件を利用し、ケイティさんに仕事を依頼した。ケイティさんはこれを利用することにしたが、それがバレたら困るから、わざわざ暗号と盗品のジェラルミンケースを偽ってまで僕らに今回の仕事をさせたんだと思う」

「待てよ。それってここを潰そうとしている奴らが、意図的にカーティス失踪事件を依頼するようにケイティさんに頼み、ケイティさんがそれを逆手に取ったってことか? そんなことありえないだろ。今回の仕事は、俺達が仕事がないからってミラに頼み込んでもらった仕事だぞ? 相当な偶然が重ならないとこの状態にならないはずだ」


 ストラスの尤もな言葉に、ルネは大きく頷いた。

「現状はそういうことだ。つまり、ミラが関係しているか、それとも潰そうとしているものがここまで想定していたのか。僕としては後者じゃないかなって思う」

「それは、夫だから?」

「いや、流石にそんなことすれば一緒に住んでいる僕にバレるでしょ。言ってもう半世紀は一緒に暮らしている奴がいるのに、そんな危険性を冒すとは思えない。ミラの性格は僕が一番わかってるし、やるならもっと綿密だ。ミラが関係している可能性は万に一つもないと言ってもいい。だから、今主題の人物らは僕らの関係を予め知っていたことになる。それであれば、ケイティさんと接点があったことも頷けるよ」

「はー、確かにな」

「まぁ、あくまでもこれは憶測であるから、話半分に聞いておくのがいいと思う。前にも言ったとおり、此処から先は一つ一つ明確な根拠付けのある事実を積み上げていかなきゃ情報に翻弄される。ここまで大規模な事やらかしてるんだから、敵も相当な技量と推測するのが妥当なところだ」

「流石司令塔、お前がいれば百人力だな」

「普段そんなこと言わないでしょ。とりあえず今日はもう遅いし、ひとまず明日ケイティさんとの会話でどういう展開になるのかによって対応を変えよう」


 ルネとストラスが次の方針を決めた時だった。

 扉を叩く音とともに、インターホンが室内に鳴り響いた。

 その音を聞いた2人は思わず体をビクリと震わせ、こんな時間の来訪者に、顔を見合わせた。

「……敵陣!?」

「なわけねーだろ。この状況で敵が来たら相手の胆力ヤバすぎるだろ」

「冷静に考えると胆力じゃなくて知能が足りてないよね」

「辛辣だな」

 そんなバカみたいな会話をしながらも、2人は警戒しながら扉に近づき、怪訝な素振りで外の様子を伺う。

 しかし、そんな2人の気持ちをぶち壊すように、来訪者は大きな声でルネの名前を呼んだ。


「ルネー、迎えに来たぞ!」

 来訪者はルネの夫であるミラだった。仕事から帰ってきたが、ルネが自宅にいなかった為迎えに来たというところだろう。日常的に彼がルネのことを迎えに来る事は度々あることである為、さほど不思議なことではない。

 だがその日のルネは、いつものような形相を示すことはなく、若干疑ったような素振りで扉を開く。


「ミラ……? 本当にミラ?」

 ルネは、色々な意味合いでミラのことを疑っていた。職場まで行って情報収集した挙句、危険だからとっとと帰れなど言われれば機嫌を損ねるのは仕方のないことである。

 一方のミラはさほど気にした調子を見せず、いつもどおりの表情で2人を一瞥した。

「なんだよ、随分疑り深いじゃないか。それより今日は結構長くここにいるんだな? 俺のご飯も作らずに」

「……あ、ご飯……忘れてた」

「はぁ、久々の仕事に張り切るのはいいけど、俺のご飯は保障してくれ」

「ごめん……って、そもそもミラがセフィティナに煽るような言伝残さなかったらこんなことにはなってなかったかもしれなかったし、別に僕が悪いわけじゃないしー」

 苛立つルネの言葉に対して、ストラスは補足するようにミラに言う。

「ちょっとうざいけどこいつが言ってることも一理ある。お前も今回の事件について何かしら関わってんだろう? 話してくれよ」


 ストラスの問いかけに、ミラは意外にも「別にいいぞ」と言いながら事の経緯を話し始める。

「発端はお前たちも知ってる通りカーティスの失踪だが、それと同時進行で旧ザイフシェフトで色々なトラブルが起きていることも一つだ。1億円事件を代表とする諸問題は、グルベルト孤児院でも取り上げられているから、そういうトラブルもあったからルネを巻き込まないようにセフィティナに対して言伝を伝えてもらった。依頼されたってことはどうせ孤児院に来ると思ったからな」

「でも、君がセフィティナと一緒にカーティスの特別カリキュラム組んでたことは知ってるんだよ? 一応、非常勤講師の僕にも何も言わなかった。それはどういうこと?」

「それについては彼の出生についての話になる。まぁ俺も知らないけどな」

 あまりにも不自然な言葉の羅列に、ルネは疑問を率直に口にする。


「さっきから話が見えないんだけど、順を追って説明してほしいんだけど!」

「結論から言えば俺はカーティスについて何も知らない。そりゃ、挨拶くらいはするけど、カーティスは基本的にアイザックが育てていたから、俺にはわからない。アイザックからは、彼のことについては話せないって何度も言われたし。ただアイザック曰く、彼が自立した後にすべてを話すつもりだったらしい。つまり俺はなんにも知らない!」

「使えねー院長だな」

 ストラスの辛いセリフに対して、ミラは笑いながら続ける。

「これで俺が何も調べなければ無能の極みだな。勿論、カーティスについては俺も調べた。だけど、”何も出てこなかった”。彼がどこから来たのかも、彼の両親が誰なのかも、一切わからない。これがどういうことかわかるか?」


 その言葉を咀嚼したルネは、驚いたような表情で自らの考えを述べる。

「……まともな出生でないことは確かだね。本当に人から生まれたものかすら、曖昧だ」

「え、どういうこと?」

「そもそも、痕跡が何も出てこないなんてありえない。痕跡がないってことは、運良く証拠が見つかってないか、そもそも一般的な出生とは異なる生まれ方をしたか。圧倒的に後者の可能性が高い」

「どうして?」

「ミラが調べたのって、子どもが生まれたときにされる手続書類、戸籍とかでしょ。それが一切ないってことは、調べるところが間違っていると疑ったほうがいい。つまり、一般的な出生と全く違う出自を持つと考えたほうがいい。それなら、すべての痕跡が消されたと考えるより遥かに現実的だ」

「同じことを考えて、いろいろな情報を探したんだけど、悉く何もわからなかったんだよ。ていうより、彼を最初に連れてきたのはアイザックとセフィティナで、どっちも出生については言わなかった。今は話せないって感じだったな。その後、有権者に引き取って貰う予定だったんだけど、あの子に対して虐待っぽいことがあって結局頓挫。アイザックが過保護っぷりを強めて引き取ったっていう経緯は知ってる。そこからはアイザックの部屋で育てられて、勉強とかもアイザックが教えてたみたいで、友人関係はあんまりできてない。孤児院に住んでいながら、俺達が干渉できないような状態だったんだよ。ルネがカーティスについて知らないのはそういう経緯がある」

「話聞いてたら毒親状態だな」

「それについてはアイザックも相当悩んでたからな。恐らく苦渋の選択だったんだろうけど、流石にやり過ぎだとは思うがな」

「でも、アイザックって今の仕事になる前、散々教育学とか発達理論勉強してたじゃん。そんな人がそんなことやる?」

「だから強烈な違和感だったんだ。それが子どもにとってどういう影響になるかわかってて、アイザックは意図的にそれをしたことになる。なぜだ? 恐らくそれほどの理由があった、彼の性格的に考えてそういうことだ」

 ミラの展開した持論に対して、ストラスは他に知っている人物を尋ねる。


「他に知ってそうな人は? てか、今の話が本当なら、ケイティさんは何者だよ」

「カーティスは確かにほとんど外界と接触しなかったけど、密な関係を持っている子はいたからな。ミス・ケイティはその一人だ」

「他には?」

「”ルーク”だな、今ここにいないけど」

 ルークは、25年前の事件に巻き込まれた天であり、一時期グルベルト孤児院で暮らしていた。

「そういえば一時期暮らしてたもんな」

「ルークとはかなり馬が合ってたな。今も定期的に会ってるらしいし、引越し祝いもあげてたな~」

「なんだその謎な繋がり」

「まぁ確かにわかるけどな。なんとなく性格が近しいっていうか」


 ミラがそこまで話したときだった。ルネのお腹がぎゅるると鳴り響き、あたりは一瞬にして沈黙が訪れる。

 それを聞いたミラは、ケタケタと笑いながらルネの手を引き、お暇しようとする

「……さ、家に帰るか」

 しかし、ルネはそれを拒み、触れられた手を引き、しっかりとした説明責任を求める。


「いや、まだ話終わってないじゃん。ちゃんと説明するまで帰らない」

「俺が知っていることはこれだけ。言っただろ、俺も巻き込まれた身だからな」

「でも……」

「なぁ俺も腹減ってんだよ。今日は帰ってもう寝るぞー」


 ミラの言葉にルネは怪訝な表情を向けるものの、彼の言うことも一理あると判断し、ルネは自宅に帰ることにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ