知る主
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
2度目の「天獄」パートです。これは2章からの続きになっているので、内容を忘れている方はそちらをご参照いただけると幸いです(=・ω・)ノ
ちなみにこの部分で出てくるお酒はとある有名なお酒を弄っているだけなので、知っている方はくすりとできるかもしれないですね(*´∀`*)
次回の更新は来週月曜日20時となっています! 少しでも興味を持っていただけた方、もしくは読んでくださっている方、ぜひぜひ次回もご覧になっていただけると幸せです☆(´ε`
※この章は(本格的に)BL要素を含みます。苦手な方はこの章を飛ばして御覧ください。
旧国境区 天獄
夫のミラから不自然な忠告を受けたルネはかなりの苛立ちを抱えたまま、一旦職場である天獄に戻った。
外は夜の帳が下りきっていて、すっかりとどす黒い闇に染まっている。森の中は驚くほどの静けさに飲まれていて、鬱蒼とした木々を掠めていく風の音の隙間に、小さな足音だけがぽつりぽつりと落ちていく。
南エリアから天獄までの道のりの中で、ルネは件の話をできるだけ丁寧にストラスに伝える。すると、ストラスも同じように情報を共有する。
「目的はエノクシリーズ、つまりダウンフォールね……いよいよ僕らも今回のトラブルに巻き込まれる準備をしなければならなくなってきたんだね」
「ふざけんな。こう何度も何度も巻き添え食らってたまるかってんだ。とっとカーティスだけ探し出して俺達は逃げるぞ」
「同感だよ。とりあえずやっと事務所についた。マリウスがいないとこんだけきついなんて思わなかったよ」
「ミラは毎日通勤しているのに……」
適当な会話をしつつ、2人は天獄の扉を開ける。
すると、中から楽しそうな掛け合いが聞こえてくる。この声は、同じくバカンスに行っていたミライと、天獄メンバーの実家とも言える「時計塔」に住んでいる廻であろう。
廻は親がいないルネやミライの保護者に当たる人物で、天獄のメンバー全員が信頼をおいている人物である。いわば、天獄の本当の長であり理事長と言える人物だ。
「やったー隅取った! お父さんから隅取った!!」
「ざんね~ん、つい最近のオセロは隅を動かせるのだよ、ミライ君?」
ルネとストラスがリビングに入ったとき、ミライと廻は楽しそうにオセロをしているようだった。ルネがテーブルの上の盤面に目をやると、タイミングよく廻が隅付近の4つのマスを動かしていた。
もはや既存のオセロとは別ゲームと言える状態のオセロに、ルネは苦笑いを浮かべながら、2人に声をかける。
「なんでこんなところでオセロしてるのさ2人共。てか、ミライ、そのサングラス何?」
ミライは、薄い金色の短髪をゆらゆらと揺らして奇抜なサングラスを眼鏡のように扱っている。もはやDJと言っても差し支えないレベルの佇まいに、ルネは失笑しつつも謎めいたオセロの盤面を見据える。
「なにこれ。オセロみたいだけど……」
「これが最新式なのだよ。ルネ、最近は四隅の特定のマスを動かすことができるんだよ」
廻が尤もらしくそう言うと、ルネは若干破損している四隅のマスに視線を落とす。
「若干壊した痕跡があるんだけど」
「最新のものは買いに行かなきゃいけないしー」
「少しだけマス目を取っただけだよ」
「備品壊してんじゃねーよ」
ストラスは釘を刺すようにそう言うと、ミライは未だに奇抜なサングラスを付けながらいたずらっぽく笑った。
そして、2人はそのままオセロを続ける。
廻は、黒石を起き、ミライの白石をひっくり返しながら、思い出したようにルネとストラスに対して忠告するように発言する。
「そうだ。ルネとストラスに言っておきたいんだけど、最近魔天コミュニティで、宴が活発に動いているみたいなんだよ。加えてこの天獄も目をつけられてるからね。面倒くさい政権争いもしてるらしいし、気をつけるんだよ。ミライにはもう伝えたけど、ここにいないイェルやアロマ、ベリアルには伝えてないから、帰ってきたらあの子達にも伝えておいておくれ」
ストラスは、つらつらと話す廻に対して話を促す。
「廻、何か知ってるのか?」
「うーん。まぁとある筋の情報で、ザイフシェフトの大資本家と魔天コミュニティが手を組んで、ここを潰そうとしているらしいんだよ。だから、皆に気をつけてほしいって伝えに来たのさ。特にミライとかは非戦闘員だからね、一応」
「全く良くわからんが、新しい情報として考えることにしよう。一つ疑問があるんだが、宴って25年前に解体されてるはずだろう? どうしてまだ生きてるんだ?」
「25年前の宴とは全く違う組織らしいけどね。今はエンディースっていう奴がまわしてるらしいよ」
「あー、あの雑魚キャラか」
若干ぼこぼこにされている感じがある宴に対して、廻は更に釘を刺す。
「エンディースは相当な腕利きを集めているし、ついでに自分も力をつけているらしいからあんまり舐めるなよ。ミライは特に気をつけること。マリウスいないんでしょう?」
「僕は廻お父さんと一緒にいるから大丈夫だよ」
「それなら一旦ミライも時計塔に避難する方向でいいのか?」
「僕はそれでもいいよ」
「なんで上から目線なんだこいつ」
「バカンスから戻ってハイテンションになってるからね」
ミライは柔らかい表情で笑いながら、「そういえば」とお土産の話を始める。
「イェルがね、ルネにすごく高いお酒を買ってくれたんだよ。これ、林伊蔵っていう清酒!」
「え!? 林伊蔵ってあの……あの!?」
ルネは興奮した面持ちで、ミライが持っているお酒に目を見張る。それは非常に高級なお酒で、ルネが昔から飲みたいと思っていたお酒である。何と言っても流通している数が少ない代物であり、驚異的な付加価値により異常な金額になることで有名である。
一方で興奮冷めやまぬルネに対して、ストラスは冷ややかな視線を浴びせながら、これからどうするかを尋ねる。
「今すぐそれ飲んでいいから、これからどうするかを考えてくれよ」
しかしルネは、それに対して大きく頭振る。
「ストラスはこの価値がわからないからそんなこと言えるんだよ!」
そして、そのまま長々とお酒の良さを長々と語り始める。
勿論それを聞く人はおらず、ストラスは若干呆れながら話を軌道修正する。
「おい! 今回のトラブルには少なくともミラも関わっているだろう? とっとと解決するぞ!」
「そうだった……でも何すればいいの!?」
「とりあえずは状況整理だろ!!」
「それだ!!」
いつもの思考能力が完全に消え失せているルネに対して、ストラスは状況整理を促す。すると、ルネは我に返ったように情報を整理し始める。
「現状を確認すると、発端は天獄を潰そうとする勢力が僕らの仕事を潰していて、そこに都合よく舞い込んできた仕事が”カーティス・マクグリン”という青年を探してほしいというものだった。だけど、それを依頼してきたケイティ・ミラー氏は、極めて不自然な資料を作成しこちらに渡してきたこと以外にも、明らかにありえない金額の着手金を用意してきた。そしてそれら一連の事柄は、魔天コミュニティのトラブルと関わりがある。というぐらいかな」
「出てきた情報が多すぎるから、わからないところも多い。ここからどう組み立てていくかだな」
「そうだね。でも、これらの問題は幾つか大別することができる。①カーティスの失踪、②天獄を取り巻く環境、③2つの事柄に魔天コミュニティがどのように関係しているか、というところかな」
「大別してみてもよくわからないな」
「と言うより、一つ一つに謎が多すぎる。主観的な意見だけど、この3つは一本道と言うより、1つの原因から枝分かれになっているような感じがするね」
「それなら、思いの外面倒な事になってるのかもしれないな。もしかしたら、その原因に対して色々な組織が寄ってたかって目的を達成しようとして、こんなことになったのかも」
「そうだね。それならさっき大別した3つの疑問点は必ずしも整合的につながっているわけではないかもしれないね。こういうことから、此処から先は憶測だけで物を言うのじゃなくて、ある程度の根拠を持って考えていったほうがいい」
「でも明確になっていることを積み上げようにも明確であるかの根拠づけが難しいからな。考察は程々にして足を使ったほうが良さげだ」
「勿論だとも。一番は、カーティスっていう子を見つけて、明らかになんか知ってるアイザックたちに説明させることが一番だよね」
「どこにいけばいいのか分からないが」
「それなんだよねー、今現在手がかりが……あ、資料に違和感があったんだ」
そこまで完全に消えていた資料のことを思い出したルネは、一番の疑問点であったことを話し始める。
「資料2ページ目、一番最初に違和感があったページ」
「あー、あの嘘っぽい記述のところか?」
ストラスの言葉に、ルネは大きく頷きながら当該箇所を眺める。そして、自ら感じた違和感を話し始める。その場所は、ティルネルショッピングモールのカフェで話していたカーティス・マクグリンが失踪した所を詳細に記述したところである。
「この記述、”8月9日14時57分、ティルネルショッピングモール二階東階段トイレにて、カーティス・マクグリンは、トイレに行くと言い残して男子トイレに入ったが、その26分間カーティスがトイレから出てくることはなく、痺れを切らしたケイティ・ミラーがトイレに入り、失踪していることが判明した。”っていうところね。この部分ってもし仮に、嘘ならどういう理由があるんだろうなって思ったんだよね」
ルネの発言に、ストラスは大きく首を傾げながら、「もったいぶってないで言ってくれよ」と話を促す。
「僕にもわからないけど、いくつか考えられるのは、”こちらを騙して撹乱すること”か、”何か気づいてほしいことがある”か。普通に考えたら前者だけど、後者の可能性もある」
「どうして?」
「よく考えてみたら、撹乱を狙っているならトイレに入って26分人が来ないなんて馬鹿馬鹿しい事書かないでしょ。ここまで綿密に嘘の記述書いてるなら、もっと現実的に書くはず。つまり、この部分は違和感をこちらに持たせるための一つの鍵……これの意味について模索したほうがいい」
「なるほど。確かに一理あるな」
「もしかしたら、この記述に何かしらのトリックがあるのかもしれない」
「それなら、依頼人であるケイティ自身がヒントを残しているかもしれない。一応、あのときの会話は録音しているから、聞いてみるか?」
ストラスはそう言いながら、ボイスレコーダーを探し始める。
しかし、ルネは割りとガチな声色で「なんでそれ早く言ってくれないの?」と怒りを露わにする。




