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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十五章 黙り込む戦火
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符合する者たち

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 今回、どうしても時間が取れず推敲をすることができずに投稿となります。なので、せっかくの15章初スタートが悲しい結果に終わっています。これからはできる限り推敲して投稿を心がけたいですね。

 次回の更新は来週月曜日13日20時となっております。次回も見ていただければ幸いです。


・魔天コミュニティ アーネスト邸



 メアリーの提案に習って、ベルベット邸宅からそろりそろりと移動してきたストラスとアイザックは、できる限り音を立てないように扉から侵入し、きれいに整理された室内を引っ掻き回すことにした。

 最初に狙うべきはビアーズの書斎である。沢山有益な情報が詰まっていそうなところだが、生憎その場所は基本的に鍵がかけられ、鍵は常にビアーズとその妻であるキャノンが持っているのみである。


 書斎に鍵がかかっていると判明したストラスは、苛立つように小声で悪態をつき始める。


「あー畜生、鍵!」

「壊せないの?」

「シバカれるどころじゃねーぞ?」

「あ~あ、パパンが怖いのね」


 挑発的なアイザックの言葉に、ストラスは「怖くねーし!」と謎の対抗意識を燃やし始め、すぐさまスポアで鍵をぶっ壊そうと画策する。

 しかし、それを止めたのは、後方から突然出てきたキャノンだった。


「誰が家を壊せなんて言ったんだ? ストラス?」

「……あ、キャノン? 久しぶり……」

「本当に久しぶりだね。もう……家の男の子たちはどうして皆家出しちゃうのかな~?」


 キャノンはストラスの生みの親であり、何より家出したストラスのことを気にかけていた。そのため、口調は優しいもののかなりの怒気がこもっているように聞こえる。

 しかしそれは、子どもを想うからこその怒りであり、アイザックは滲み出てくるキャノンの怒りが伝わってきて、ストラスを白い目で見る。

 一方でストラスは、まさかまさかの事態にすっかりあたふたした調子で弁明を始める。


「違うんだって! それはこの仕事がしたくなくて……その……」

「だからといって、何も言わずに出ていくのは違うんじゃないの? それに偶になら顔を出してくれてもいいのに」

「うぅ……」


 すっかり圧倒されているストラスに対して、アイザックは呆れたように彼のことを責める。


「ストラス、お母さん? の言う通りだよ」

「お前まで俺を責めるな……」

「君はまだ親じゃないからそんなことが言えるんだよー。親にとって子どもっていうのは何より大切なの。それこそ、自分よりも大切だからね」


 対してそれを聞いていたキャノンは首肯しながらアイザックに便乗する。


「彼の言う通り! 子どもはいつまで経っても、親の子だからね!」

「そうだよ!! たまには帰ってこい~」

「お前までなんだよなんだよ! 分かってるつーの!!」

「ま、お前のことは廻さんから伺ってるんだけどね」

「繋がってんじゃねーか!!」


 怒涛の流れにアイザックはけたけたと嘲笑地味た笑い声を出しながら、キャノンに尋ねる。


「キャノンさん、廻さんとも知り合いなんですか?」

「えぇ。廻さんから声をかけてくれたんだけどね。あら、貴方、アイザック・マクグリンさん?」

「そうですよ~」

「あらあら、こんな有名人がうちに何か用? ていうか、ストラスとお友達なの?」

「昔バディを組んでいたんだよ……」

「これからも、うちのストラスをよろしく」

「選挙みたいになってんじゃねーかよ」


 ストラスはそう悪態を付きながらも、家の外側で一瞬だけ感じた殺気を尻目に、書斎の鍵を開けてほしいと懇願する。


「あ……キャノン様、お願いします書斎の鍵を開けてくださいまし」

「だめ」

「あっれーおかしいなー。この流れは美しく解錠の流れなんだけど~」

「ビアーズの部屋なんだけど? 僕……あ間違えた。私の管轄じゃないの」

「いいじゃん、俺らの前なら一人称は普通でさ」

「ま、それでいいか。あのさ~、ビアーズは短気なんだからね。僕は面倒事は嫌いなんだよ」


 そう言いながら、補足するようにキャノンは笑う。

「外の連中は、ストラスのお友だちかい?」

「んなわけあるか。俺にあんな二流のお友だちはいねーよ」

「そうだねぇ……少なくとも一流ではないね」

「どういうこと?」


 アイザックがそう尋ねると、ストラスは外を凝視しながら答える。


「5、6……いや7か。お外に殺す気満々の目立ちたがり屋がいるんだよ。何者か知らねーが、恐らくは宴だろう。全く、やるならもっと隠せってんだよ」

「う~ん、コイツは随分と殺気むき出しだねぇ……僕が行ってこようか? どうせ、別に目的があるから来たんだろう?」

「それもそうだが、俺が行くよ。キャノンはアイザックと茶話会でも開いといて」

「あぁ、分かったよ。ちゃんと片付けてきてね~」

「勿論だ。面倒事ばっかり持ってくるもんだよ全く」


 ストラスは悪態をつきながらも、そそくさとどこかへ消えていってしまう。

 すっかり面倒事を始末する気でいるストラスを見送ると、アイザックは出会って初対面のキャノンに「どうします?」と尋ねる。

 すると、キャノンは笑いながら書斎の扉を開き始める。


「なにか目的があってここに来たんでしょう? ほら入って、色々お話しますよ~」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、その代り、あの子の話を聞かせてほしいのよ。もう、久しくあの子に会っていないからね~」

「構いませんよ」


 そんなこんなで、2人は書斎へと消えていく。



 一方のストラスは、明らかに殺気むき出しの侵入者を気取り、大仰なエントランスから、ひっそりと外を観察する。

 そこには睨みつけるようにこちら側を見据えるエンディースが立っていた。かなり殺気むき出しであるが、その顔は確かに25年前にトラブルに巻き込まれた際の顔と同じものだ。


 ストラスは、25年前の事件にて宴と戦闘する機会があり、その際にエンディースとも戦闘した。当時の彼は戦闘向けのタイプではなく、一方的に屠られるだけだったということを思い出す。

 そのため、ストラスは特段気にすることなく、扉を蹴り飛ばし、首を大きく動かしながらエンディースは一瞥する。


「そんなに殺気むき出しだったらバレバレだぞ。隠密行動をするくらいにはしろ、エンディース」

「……そいつは悪かったな。久しく、貴様の憎たらしい顔を見ていなかったからか、今すぐお前をぶっ殺したい」

「殺す? 楽しい妄想だな。殺せると思うのか?」

「そのために、今日来た」


 エンディースがそう言った瞬間、ストラスの背部から2人の女性が大振りな仕草でそれぞれの得物を振り下ろしにかかる。

 勿論、それに気がついていたストラスはエンディースから目を逸らすことなく、振り下ろされた得物それぞれを背部から出現させたスポアで迎撃を図り、激音が響いた瞬間、両腕の腕のスポアを鋭利に変形させ、振り向きながら2人の襲撃者に刃を突き立てる。


 襲撃者2人と目が合ったストラスは、「よう、久しぶり」と声を掛けると同時に、仕込みナイフのようなスポアの奥からしなやかなムチ状のスポアを伸ばして更に攻撃を仕掛ける。

 勿論、襲撃者2人はこれに敏感に反応し、すぐに受け止めている仕込みナイフを払い、ストラスから距離を取る。

 すると、奇襲に失敗した襲撃者、オフィリアとアレクシアを責めるようにエンディースは悪態をつく。


「もう少し上手くやれんのか」

「あの怪物相手に攻撃を当てただけでも褒めてほしいところね。勿論、勝算あっての行動なんでしょうね?」

「全員死ぬ気でかかれ」

 エンディースの言葉に呆れつつも、オフィリアはストラスのことを睨みつけ、すぐに攻撃にかかろうとする。

 しかし、それを見た瞬間、ストラスは牽制の如き睨みを効かせ、異形の音を轟かせて臨戦態勢に入る。


 ストラスは、何時も通り四肢にそれぞれ補助スポアを出現させ、全てに仕込みナイフのような状態にする。この状態では本来、体幹と背部に攻撃用のスポアを出現させるのが定石だが、ストラスは肩甲骨から飛び出たスポアを刀のように出現させ、2本ほど引き抜いた後に目の前にスポアの刀を地面に突き刺した。


「で? 宴が俺になんのようだよ?」


 すっかり臨戦態勢に入ったストラスがそう言うと、ほぼ同時に先刻と同様の勢いで今度はホリスとタウンゼントが奇襲を仕掛ける。

 だが、ストラスはそれに対して「何見てたんだ」と指摘しながら、再び肩甲骨からスポアを出現させ、攻撃を受け止め、眼前に突き刺さった2本の刀状のスポアを持ち、にこやかに2人に攻撃を加える。


 大きく振りかぶられたストラスの攻撃に対して、攻撃を受け止められたホリスとタウンゼントは大きくよろめきつつも、眼前に迫った斬撃じみた攻撃をギリギリに受け止め、前方からのストラスの攻撃を止めにかかる。

 そしてその攻撃に合わせるように、先程襲撃を失敗したオフィリアらがストラスの背部から攻撃を加えようとする。


「だから、お前たちはもうちょっと連携を磨け」


 しかしストラスにはその攻撃が一切届かず、むしろ4人は器用なスポア使いを行い続けるストラスに防戦一方だった。


 正面から攻撃を行うホリスとタウンゼントであるが、彼らもそれぞれの攻防をしているのだが、ストラスはそれを一本の腕で捌き切り、尚且完全に一人ひとりを圧倒している。

 それに加えて、背部の幾つかのスポアで後方で攻撃を仕掛けるオフィリアとアレクシアの攻撃をキレイに防ぎながら攻防を続けている。


 まさにそれは信じられない程の離れ業だった。

 2本の腕に備え付けられた仕込みナイフ状のスポアと、先程出現させた大ぶりのナタ状のスポアを見事にコントロールしながら、背部のスポアでも圧倒的な技量で敵からの攻撃を捌いている。しかも後ろからの攻撃に関してはほとんど視認できない。それなのに、寸分の狂いなく猛攻を器用に捌き続けているのだ。


 攻撃を続ける4人はもはやドン引きするように一旦攻撃をやめ、同じように今の攻防を見ていたエンディースに向かって言う。



「あんなのに勝つ気でいるって、頭大丈夫?」

 オフィリアの辛辣な意見に対して、ホリスとタウンゼントが同意するように続ける。

「ここは引くべきでは……?」

「勝ち目はありませんよ!?」


 一方、それを聞いていたストラスは呆れた調子に持っていたナタ状のスポアを再び地面に突き刺し、「なんのためにここに来たんだよバカども」を何度目かの悪態をつく。


「お前らとっととお家に帰れ。勝ち目はないぞ。底なしの死にたがりは俺には救えんぞ」

「ご忠告は結構、俺は絶対にお前のことを殺してやる」


 エンディースはそう言いながら、背後に隠れていたミアのスポアを一身に受け、異形の怪物へと姿を変えていく。

 体中の皮膚が映画で出てくる怪物のように変形していき、あっという間にエンディースの体は元の二倍ほどの体躯に変形し、人形の化物のような状態になってしまう。

 それを見てもなおストラスは冷静そのものであり、手をたたきながらエンディースを嘲笑する。



「スポアのアーマーか。どうやら力をつけてきたのは本当のようだな」


 楽しげにそう告げるストラスに対して、地響きのごとく唸りを上げながら、エンディースは姿勢を低くし、ゆっくりと攻撃態勢に入る。

「吐かせ……貴様は絶対に殺してやる」

「殺せるならな」


 エンディースは吐き捨てるようにそう言ったストラスに対して、四つん這いの姿勢になりながら急激に速度を上げて距離を詰める。

 それを視認したストラスは、少しだけ口角を上げながら両肩甲骨から出現させたナタ状のスポアを両腕で握りしめ、それをそのままエンディースに向かって投げつける。

 そのスポアは見事にエンディースの体幹に命中するが、彼は全く意に介さない調子で突進してくる。そのまま突進を喰らえば、いくらストラスであっても無事ではないだろう。


 丁寧に判断を下したストラスは、あくまでも冷静である。

 突進を繰り出すエンディースに対して、目の前に突き刺した2本のナタ状のスポアを両手に持ちながら、エンディースに向かって真正面に走り出す。そして、攻撃が着弾する寸前で、ストラスは前転を伴うジャンプで突進を回避しつつ、ちょうどエンディースの後方に位置していたオフィリアらに攻撃をお見舞いする。


 勿論、オフィリアらはその一太刀をガードしつつ、自らの皮膚をムチのように変形させ、ストラスの得物を拘束しにかかる。

 一旦動きを止めさせて他の連中に攻撃を任せる算段であったが、ストラスは自らの攻撃が拘束されると一瞬で判断し、すぐにナタを手元から離し、仕込んだスポアでオフィリアの無防備になったところを攻撃を仕掛ける。

 その攻撃は見事に着弾し、オフィリアは戦闘不能の状態に陥ってしまう。


 しかし、それには全く動じることなく、ストラスはすぐに自分に攻撃を仕掛けたホリスをカウンターのようにそのまま攻撃を行い、キレイにそれが着弾する。

 これで2人が戦闘不能になってしまい、残ったアレクシアとタウンゼント、そしてアーマー状態のエンディースは一旦攻撃をやめ、まとまったフォーメーションに入る。


 一時距離を離した宴のメンバーは、戦闘不能になったオフィリアとホリスをタウンゼントが介抱しつつ、残ったエンディースとミア、そしてアレクシアが連携をして攻撃に備える。


 そのグダグダな様子を見て、ストラスは呆れた声音で怒鳴りつける。

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