宇宙エレベータの話
宇宙エレベータは、炭素繊維でできたレールに、合金製の貨物車が乗って往復する計画だ。その炭素繊維の素材に使っているのだろう。軌道エレベータとも呼ばれている。
レールは百本以上使われて、菊の花のような円筒型の配置となる。その円筒の中を貨物車が行き来するという方式だ。
これが三本あり、静止軌道上の宇宙エレベータ駅に接続する。
この時代では、宇宙ゴミはかなり掃除されて無くなっていたが、それでも小さいゴミはまだ残っていた。ボルトやネジ程度の大きさなのだが、速度が非常に速いために大砲の砲弾以上の破壊力を有する。
さらに加えて、隕石や氷の欠片といったモノも毎日地球に降り注いでいる。
そのため、エレベータのレールや、貨物車の素材には、それらに耐える強度が求められていた。
宇宙ゴミの掃除方法だが、プラズマジェットを浴びせて減速させ、地球に落下させる方式が代表的だ。その掃除用の小型衛星が、地球を周回してゴミ掃除を行っている。
カルパナが穏やかに微笑んで、話を続けた。
「ですので、かなり丈夫ですよ。宇宙エレベータ建設では、大量に使われますので、その端切れも大量に出ます。端切れの有効利用の一つが、川砂利ふるい用の網ですね。炭素繊維ですので、燃えるゴミとして処分できますし」
ちなみに、炭素繊維製のレールも大気中では燃える。
それを防ぐために、レールの温度を冷やして雨雲で包み込んでいた。つまり、常時レールに雨が降っている環境だ。炭素繊維の熱伝導率が非常に良いために採用された、宇宙空間の低温を利用した冷却方式である。
太陽に面するレールでは、磁場をかけて熱伝導率を悪くしている。貨物車が一種の巨大な電磁石として機能しているので、このような芸当が可能になっていた。
なお、成層圏より上では雨雲が発生しにくいので、レールは凍結している。
ゴパルが感心しながら、カルパナの話を聞いている。
「なるほど。宇宙エレベータの効果が、もう出ているのですね。ええと……確か、完成時のエレベータの外観がマリーゴールドの花に似ているとか言われていますよね」
カルパナがクスリと笑った。
「ネパール語で『百の花びら』、サイパットリですね。この愛称を採用するそうですよ。そろそろティハール大祭ですから、マリーゴールドの花の出荷も本格化しますね」




