朝食談義
ゴパルがメモを取り終えて、再びカポナータを食べ始めた。
「とりあえず、味を覚えておこう……家に戻ったら早速作ってみますね」
そして、アバヤ医師がブツブツ何か言いながらも、食べ終わったので聞いてみた。
「アバヤ先生。ダイエット食ですが、アメリカ人が食べてるようなモノはどうですか? シリアルに適当な果物を加えて、上からヨーグルトなんかをかけただけですので簡単ですよ」
さらに少し考えて、追加の提案をする。
「飲み物は、無砂糖のコーヒーにすればカロリーを抑える事ができるはずです。ただし、チーズは控えめにしないといけませんが」
アバヤ医師が、大いに不機嫌な表情になった。
腕組みをし、細い一本眉を限界まで下げて、顔をひそめている。白髪というせいもあるのだろうが、こうして見ると、頑固ジジイにも見える風貌だ。
「ワシは干飯が嫌いなのでな。干した雑穀は食わぬよ」
サビーナがニヤニヤしながら、アバヤ医師に告げた。
「もう、お子ちゃまなんだから。でも、欧州の朝食も質素なものよ。フランスなんか、クロワッサンにチーズ、コーヒーだもの。あ、子供はカフェオレを飲むかな」
サビーナによると、バゲットをトーストして上にハムを乗せ、バターや蜂蜜、ジャムを垂らす人も多いらしい。
「半熟卵を食べる人も居るわね。あ、でも、朝はサラダを食べないわよ」
イタリアの朝食も似たようなものだそうだ。カフェオレがカプチーノに変わり、クッキーを食べたりもするようだが。
朝から野菜を食べるのはドイツ人で、温野菜にするという話だった。そして、クロワッサンでは無く、黒パンに変わる。
スペインでは、中空の棒状のパンであるチュロスと、ホットチョコの組合せが定番らしい。
サビーナがアバヤ医師の肩を両手で揉んであげた。
「自身に合ったダイエット向けの朝食にする事ね。中国風に、米の粥にしても良いし。それで、昼食と夜食のカロリー計算をすると良いわよ」
ここでサビーナがニヤリと微笑んで、肩をギュッと強くつかんだ。
「あ、でも、英国とインドの朝食は参考にしちゃダメだからね。間違いなく太るから」
いわゆる英国の朝食では、目玉焼きと厚切りベーコン、豆料理とチーズが付く。
インドでは、ゴパルが食べていたような、油を多く使った野菜のカレーに、ローティ等だ。どちらもカロリーが高い。
アバヤ医師が、白髪頭をかきながら呻いている。
「うぐぐ……秋になって、美味い物が市場に出てくるというのに。君達は容赦が無いな。まあ、そこまで心配してくれる事、それ自体はワシも嬉しいよ。ダイエットに励むとしよう」
ゴパルも自身の腹のたるみを見下ろして、頭をかいた。
「私も気をつけないといけないな」
サビーナとカルパナが、顔を見合わせてニッコリと微笑んだ。
「アンナキャンプから何度も呼びつけるから、心配しなくても良いわよ、ゴパル君」
「山道は体力を使いますから、そのくらい太っている方が良いかもしれませんね、ゴパル先生」
呼びつける気満々な様子の二人に、力無く笑うしかないゴパルであった。




