レイクサイドへ
名残惜しそうな表情で見送るレカに手を振って、バイクで坂を下りていくカルパナだ。ゴパルも後部荷台に座って、後ろを振り返りながら手を振る。
「ゴパル先生。あちこち走り回る事になってすいません。今日は、ポカラ盆地の東の端にある、バルシヤ社長の養鶏企業に行ってみようと考えていたのですが……また、次の機会にしますね」
内心で冷や汗をかくゴパルであった。
(サビーナさんに助けられたかな。これ以上、仕事を増やしたら大変だ)
バイクで走りながら、カルパナがオリーブ園の隣の林を指さした。常緑樹の林で、白い花が多く咲いている。
「あれは、サキシマフヨウの小さな造林地です。オリーブの木を植える事が難しい場所がありましたので、こうしました。ロクタ和紙の補助剤として使えますよ」
カルパナの説明によると、サキシマフヨウの樹皮は、和紙の材料に混ぜて使えるという事だった。ロクタの木が多くないので、こうして増量しているらしい。
ゴパルが改めて、サキシマフヨウの林を見上げた。
(一見、ただの雑木にしか見えないけれどなあ。幹も細いから薪にできないだろうし。葉を摘んで、家畜の餌にするしかないよね。へえ、和紙の材料になるんだ)
グネグネと曲がりくねった幹や枝で、太さも大した事は無い。ツル性の木では無いのだが、いかにもな雑木としか見えない。
「ビニール袋や、プラスチック袋が使えなくなりましたし、紙袋の需要が増えそうですね。生分解性のプラスチック袋も出回っていますが、ボロボロになりやすいですしね」
ゴパルの話に、明るい声で答えるカルパナだ。今はヘルメットに取りつけられた無線機を使っている。
「そうですね。おかげで、フェワ湖のゴミ問題も、かなり解消していますよ。サビちゃんの要望に反対してでも、オリーブの代わりにサキシマフヨウを植えれば良かったかな、と思います」
カルパナがゆっくりとヘルメットを左右に揺らした。
「でも、今はオリーブで良かったとも思っていますよ。より多くの人を雇う事ができましたから」




