チヤ休憩を終えて
チヤを飲み終えた後で、カルパナのスマホに電話がかかってきた。電話を受けたカルパナが、ゴパルに顔を向ける。
「レカちゃんのリテパニ酪農が管理しているオリーブ園で、緑のオリーブの収獲が始まったそうです。行ってみましょうか? ゴパル先生」
ゴパルはビスケットをチヤに浸しながら食べていたが、素直にうなずいた。
「ぜひ見てみたいです。行きましょう」
外へ出たカルパナとゴパルに、ナビンがニコニコしながらヘルメットを手渡した。
「スバシュさんが買った、無線通信機を取りつけました。これでバイクの走行中でも楽に会話ができますよ」
確かに、ヘルメットの雨除けの内側に、マイクとスピーカーが一体化した小さな部品が見える。ボタン電池で動くようだ。
ケダルが使っている器械とはメーカーが違うようだが、機能は同じだろう。
ゴパルが喜んでナビンに礼を述べた。
「わあ、これは助かります。走行中は、カルパナさんに抱きつく訳にいきませんので、苦労していたのですよ」
カルパナはゴパルの苦労を知らなかった様子で、二重まぶたの目を点にしている。
「そ、そうだったのですか? 言ってくだされば良かったのに」
ナビンが小さくため息をついて、ゴパルの肩に手をかけた。
「こんな姉ですが、よろしくお願いします」
バイクでレカナート市へ向かうカルパナとゴパルであったが、早速、無線の効果を実感しているようだ。カルパナが控え目に感嘆しながら、ゴパルに話しかけている。
少し運転に集中できていない様子で、道を塞いでいる水牛や山羊の群れに、時々衝突しそうになっているが。
「わあ、これは便利ですね。大声で話さなくても良いのは助かります」
ゴパルは、水牛の角に危うく袖を引っかけられる所だったが、辛うじて回避した。
「そ、そうですね。ですが、会話に熱中してしまうと、運転が危うくなりますよ。節度をもって、会話を……うわ」
今度は、道に飛び出してきた山羊に衝突しそうになった。カルパナが回避したが、冷や汗が止まらないゴパルだ。
カルパナも理解した様子で、真面目な口調で答えた。
「わ、分かりました。ポカラ市内を抜けるまでは、会話を遠慮しますね」
実際は、首都行きのバスパークを越えてからは、路上に障害物が居なくなったため、話ができるようになった。ゴパルが前回利用したバスパークを、バイクの後部荷台から眺める。
(あの時は、夜中に到着したから周囲がよく見えなかったけれど……結構広いんだな)
今も十数台の長距離バスが停車していた。その周りを、百人を超える乗客が行き来している。バスのスタッフ達が、荷物をバスの屋根に乗せたり、降ろしたりしているのが見えた。
バスパークの西側には、宿屋や食堂がひしめいて建っていて、屋台も数多く営業していた。
南側や東側には何も無く、ビール会社やスナック会社の大きな看板があるだけだ。その向こう側は住宅地だが、水田も広がっているのが見える。
顔を北へ向けると、道路沿いに住宅や店が建ち並んでいて、その奥には緑に覆われた山と、アンナプルナ連峰が……見えなかった。
この時間はもう、雲に包まれてしまっていて雪山の一部が見える程度だ。マチャプチャレ峰も、すっぽりと雲に包まれていて見えない。
(まあ、雨期が明けたばかりだしね……日中は見えなくなるのは仕方が無いか)




