調理場
調理場に入ると、鶏の挽肉が煮込まれた香りが充満していた。レカがスマホを片手にして、手を振って出迎えた。
「おかえり~。良い香りしてるよ~」
サビーナが鍋のフタを開けて、お玉を使ってかき混ぜ、小皿に少量注いで味見をした。満足そうな笑みを浮かべる。
「レカっち、鍋の番ありがとね。ん。こんなものね。四人前を六人前に分けるから、一皿の量は少なくなるけれど、我慢しなさい」
グルン族の二人とゴパルが、良い香りに惹かれて鍋に駆け寄る。が、それを足蹴にして追い払うサビーナだ。レカも一緒になって、蹴りを三人に食らわせている。
「手と顔だけでも洗って来なさい! 外に出て、服とズボンも埃を払ってから、戻ってくるようにっ」
「ぐぎゃぎゃぎゃ!」
ディワシュがジト目になって抗議した。
「おいおい。それはアンタも同じだろ」
が、サビーナは動じない。反対にドヤ顔になっている。
「あたしはもう、手を洗って、服の埃を払ってきているわよ」
レカもスマホを盾にして、猫のように唸っている。
「出ていけー、出ていけー、こっちくんなー」
クスクス笑い始めているのはカルパナだ。薄汚れた男三人に手招きをした。
「では、こちらへ。手を洗ってきましょうか」
ディワシュとサンディプが、それぞれビシッと敬礼をした。敬礼自体は適当なものだが。
「は! カルパナさま!」
「了解であります、カルパナさま!」
今度はゴパルがクスクス笑い始めた。
そのゴパルをジト目で睨みつけたカルパナが、グルン族の二人に愛想笑いをした。
「そんなに緊張しなくても構いませんよ。もう、私達は友達でしょ」
顔を見交わしたサンディプとディワシュが、すぐに砕けた笑顔に変わった。
「おう。それじゃあ、美味いメシを頼むぜ、カルパナさん!」
「カルパナさんから知らせを聞いてチャイ、昼飯を軽くで済ませてきたんだぜい。酒もあると最高だなっ」
カルパナと一緒に、外で服についた埃を払い落とし、手を洗って調理場へ戻ると、ほぼ試食の準備が終わりかけていた。
レカが普段とは見違えるような俊敏な動きを見せて、手際よくテーブルの準備を整えている。
ゴパルの目が点になった。
「レカさんが働いてる。マジか……」
カルパナがジト目になって、肘でゴパルの中年腹を小突いた。
「失礼ですよ、ゴパル先生」




