生ゴミで雑談
ゴパルが提案したのは、次のような事だった。
生ゴミボカシを畑で使う際に気に掛かるのは、肥料焼けと、野良犬やネズミ等による食害だ。
肥料焼け対策については、作物の根に直接触れない場所に生ゴミボカシを施す事。それと、作物を植える三週間前までに土と混ぜて分解させておく事。この二点が、前回の訪問で合意されていた。
食害対策では、畑の周囲にネットを張り、侵入を防ぐという手法が採られる。
「しかし、動物の侵入を完全に防ぐ事は困難です。ですので、この半熟の生ゴミボカシを、ネズミや野犬がどのくらい好むのかを調べておきましょう。それと、肥料焼けの危険性も調べておく必要がありますね」
素直に納得するカルパナだ。
「わかりました、ゴパル先生。ちょうど、遊びで育てている冬トマトがありますので、そこで試してみますね」
ゴパルが了解した。
「すいませんが、お願いします。多分、肥料焼けや食害が起きると思いますので、私としても気が重いのですが」
カルパナが穏やかな笑みで微笑んだ。
「危険性の調査ですから、仕方がありませんよ」
恐縮するゴパルに、カルパナが真面目な表情で質問した。
「それで、ゴパル先生。生ゴミ液肥の方ですが、これは、商業栽培している冬トマト畑に使用して構いませんか? 実は、もう散布を開始しています」
ゴパルが今度は自信をもった表情でうなずいた。このバケツは二重底になっていて、生ゴミから生じた液は、底に溜まって液肥として使用している。ただ、この液肥は栄養分が豊富なので腐敗しやすい。そのために、毎日こまめに採取する事になっていた。
ゴパルが、バケツの底についている排水コックを緩める。既に液肥を採取した後のようで、ほんの少ししか垂れてこなかった。
「はい。液肥については大丈夫ですよ。水で希釈していますから、肥料焼けを起こす恐れはありません。固形物でもありませんから、ネズミや野犬による食害も起きませんし」
カルパナが、二重まぶたのパッチリした黒褐色の瞳を輝かせた。軽い癖のある黒髪の先が、腰の辺りで優雅に揺れている。
「まだ、散布を始めて間もないのですが、冬トマトの生育が良くなったような気がしています」
サビーナが頬を緩めた。
「そうなんだ。楽しみね」
カルパナが明るくうなずいてから、ゴパルに視線を戻した。
「廃油については、土と米ぬか嫌気ボカシとを混ぜたモノに吸わせて発酵させています。これも、良さそうですね。そろそろ、発酵が落ち着きそうですので、追肥に使ってみますね」
ゴパルが感心して聞いている。
「さすが有機農業を続けているカルパナさんですね。行動が早いなあ」
照れているカルパナを、軽く冷かしたサビーナだ。ゴパルに続いてサビーナが、熟成中の生ゴミを手に取って臭いをかいだ。
「ゴパル君が言っていた通り、グンドルックに似ている香りね。これなら、畑でも使いやすいな。でも、食べちゃダメなんでしょ?」
ゴパルが頭をかいて、口元を少し緩めた。
「ペーハーを測定して、安全かどうか確認する必要がありますが……多分、食べても問題ないかと」
驚いている様子のサビーナに、ゴパルが遠慮がちに話を続けた。
「でも、食べ残しですからね。ヒンズー教徒としては、食べない方が良いと思いますよ。家畜の餌には使えると思いますが」
ヒンズー教では、他人が口をつけた食物はズトと呼ばれ、不浄なモノとして扱われる。
それと、安全かどうかの確認では、病原菌が含まれていない事が条件になる。この検査は素人には無理なので、研究機関に持ち込んで検査をしてもらう必要がある。
まあ、食べ残しの漬け物なんて代物は、商品化しても、まず絶対に売れないのだが。
ゴパルがバケツの中フタと重しの石を戻し、フタを閉めた。
「あ、一つ言い忘れていました。ハエやアブは、この酸性条件では卵から孵化できませんが、バケツの内壁やフタの裏は別です。できれば毎日、拭き取って除去しておいてください」
カルパナが、スマホでメモを取りながら了解した。
「分かりました。せっかくですので、KL培養液を適当に水で薄めた液を使って拭いてみますね」




