サラダの下準備
サビーナがゴパルを急がせて、キノコ炒めを完食させた。そして、調理台の上に、水を張ったボウルと、サラダ用の野菜をドサっと乗せた。
「それじゃあ、本題に入るわよ。まずはサラダからね。私達の両親親戚も、肉の食べ過ぎで、胃もたれ気味になって、少食になってるのよ。ゴパル君のご両親も、多分そうでしょ?」
素直にうなずくゴパルであった。
「ですね。酒も飲んでいますから、なおさら食が細くなってしまいました。確かに、野菜をたくさん摂るのは、正しい選択かな」
サビーナが、カルパナとゴパルに野菜の下ごしらえを命じた。
レタスは葉の色が緑や紫のモノで、結球が緩い葉レタスだ。さらに葉がクシャクシャっとした、ちりめん葉のモノや、白菜の葉のような縦長のモノもある。
他には、レタスに似ているエンダイブ、スイスチャード、トゲ無しの小型白菜、水菜、空芯菜、春菊、モロヘイヤ。
これらの茎や大きな葉脈の部分を、手でちぎって除去し、冷水に漬けておく。これらがサラダの主役となる葉野菜だ。
次に、ハーブ類の下ごしらえを始める。ゴマの香りがするルッコラ、イタリアンパセリやニンジンの葉、バジルやカボチャの芽を手で適当にちぎって、これも冷水に漬ける。
香りの強いオレガノやクレソン、中国サンショウの新葉、シソ、セージ、セルフィーユ、ミントは、手で適当にちぎって、小皿にまとめておく。
「これだけだと、緑色ばかりだから、色合いを華やかにするために、ミニトマトの半切りや、出荷漏れした小さなパプリカのサイの目切り、ズッキーニの花をちぎったもの、ニンジンの千切り、スイートコーンの粒、二十日大根の輪切りなんかを混ぜるわね」
ゴパルが手でちぎる作業を続けながら、感心している。
「野菜の種類が多いですね。さすがレストランのシェフだなあ」
サビーナが少しドヤ顔になって微笑んだ。
「シェフを束ねるシェフ長なんだけど、あたし。今回は、ローゼルの萼と若葉も使うわね。まあ、このハーブや彩り野菜は、サラダの香り付けや、飾りのために少し使うだけ。あくまでも主役はレタスなんかの葉野菜よ」
続いて、冷蔵庫から小さなタッパ容器を取り出した。
フタを開けると、皮をむいて一口サイズに切った桃がシロップ漬けになって入っていた。これを取り出して、さらに小さく切る。
「傷が付いてた桃を、こうしてレモン汁とシロップで漬けておいたの。これも、少しだけ使うわね。桃は、もう収穫が終わったから、これからの季節だとリンゴがお勧めかな。早生リンゴとインド産は論外だけど」
一通り野菜をちぎり終わり、切り終わったので、冷水からザルに上げて水を切る。それを、サビーナが大鍋で沸かしていた湯に突っ込んだ。
「湯温は今回五十度。野菜に応じて最適温度が違うんだけど、ま、今回は家庭料理という事で一律ね」
十秒間ほど漬けてから、ザルを引き上げて、水道水をかけ流して冷やす。ザルを振って、余分な水気を切り、流し台の上に置いた。
カルパナがスマホで撮影を続けながら、ザルの野菜にカメラを接近させた。
「不思議ですよね。湯に漬けると野菜の張りと色合いが良くなるんですから」
サビーナが、少しドヤ顔になった。今度はドレッシングの材料を調理台の上に用意している。
「レストランではサラダって、料理の付け合わせに使う場合も多いのよ。その場合は湯じゃなくて、料理に適したダシを使うけれどね」
調理台の上の材料を確認して、話を続けた。
「伝統的な方法だと、野菜を水に入れて温めていって、最適な温度に達したら引き上げるかな。沸騰はさせないわよ」
そして、ゴパルの中年太りの腹を見た。
「まずは、ゴパル君向けのサラダにするか」




