シスワ地区
シスワ地区は周囲に高い丘が無いために、見晴らしが良かった。おかげで、アンナプルナ連峰の東半分が白い雲の上に突き出ている様が良く見える。
ちょうど周囲は収穫直前の水田が続いているので、黄金色の稲穂との対比が美しい。
スマホで写真を撮っているゴパルに、バイクに乗ったままのカルパナが東の方向を指さした。今はさすがに野良着のままではなく、さっぱりとした印象のサルワールカミーズ姿である。肩にはストールもかけている。
「逆光で少し見えにくいですが、マナスル連峰も見えますよ、ゴパル先生」
ゴパルが早速、スマホのレンズを東へ向けた。しかし、カメラの性能が良くなかったようだ。
残念そうに肩をすくめて、カルパナに振り返った。二人ともにヘルメットを被ったままだ。
「ぼやけていて、上手く撮れませんね。残念です。雪や雲からの光反射がきついのかなあ」
スマホを胸ポケットへ突っ込んだゴパルが、バイクの後部荷台に乗った。
「寄り道して、すいませんでした。出発しましょう、カルパナさん」
カルパナが明るい口調で答えた。
「はい、ではまず、パパイヤ園に行ってみましょうか」
シスワ地区は基本的に平野部が多くを占める水田地域だ。その中に、小さくて低い丘が点在している。
昔ながらの農家は、その丘の上に家を建てている。家の周囲には水牛や鶏、山羊といった家畜を、ごく小規模で飼っている事が多い。
車が通る道沿いには、鉄筋コンクリート造りの家も建っているのだが、その数はまだ多くはない。
ただ、ベグナス湖やルパ湖、それに南の河岸段丘を越えた先に広がる町へ繋がるために、店の数が多い。
今も、軽食屋や屋台、それに雑貨屋に果物屋等が客で混雑しているのが見える。観光地では無いので、外国人の観光客の姿は見られないが。




