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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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フクロタケ栽培

 その後、段々畑の最上部まで登っていくカルパナとゴパルだ。

 登るにつれて、眼下に横たわる青いフェワ湖と、緑の草や畑の作物で覆われたサランコットの丘の全容が見えてくる。

 そして、丘の上には、真っ白な氷雪と雲に覆われた、巨大なアンナプルナ連峰の壁が見えてきた。


挿絵(By みてみん)


 少しの間だけ足を止めたゴパルが、ため息を漏らした。

「物凄い存在感ですね。でも、不思議と現実感も無いような。似たような風景を、これまで見た事が無かったからかなあ」

 カルパナも足を止めて、アンナプルナ連峰を見つめた。こちらは見慣れているので、特に感慨深い表情では無いが。

 どちらかというと、上空を旋回している、色とりどりなパラグライダーの動向の方に、注意が向けられている。

「ガンドルンやプーンヒル、それにマナンからの景色の方が、圧倒的な迫力ですよ。ゴパル先生も、今、アンナ内院に行けば、四方を絶景に囲まれた風景を楽しめるはずです。登山装備があれば、他の絶景ポイントへも行けますよ」

 ゴパルが前回、アンナ内院のアンナキャンプに滞在した際には、何も見えなかった。なので、あまり想像ができていない様子のゴパルである。

「うーん、そうなんですか。では、楽しみにしておきます」


 ハウス棟の最上部に到着すると、スバシュが出迎えてくれた。

 彼が今回のフクロタケ栽培の準備を指揮していて、坂道を上ってきたカルパナとゴパルに、合掌して挨拶をした。

「ゴパル先生、ようこそポカラへ。準備はほぼ終わりましたから、いつでも開始できますよ」

 前回、ヒラタケ栽培で作った、竹製の簡易ハウスは完全に撤去されていた。

 今はその跡地に、今回のフクロタケ栽培の準備が進められていた。ゴパルが現場確認を始める。


 フクロタケ栽培では、ヒラタケとオイスターマッシュルームの使用済みの菌床(廃菌床)を再利用する。

 まず、地面を軽く耕して、尿素肥料を粉にした物をサラサラと振りかけていく。地面が若干白っぽく見えるようになる量で構わない。そして、十分に散水しておく。

 この作業で、地中に残っているヒラタケ等の菌を、ある程度殺菌し、廃菌床だけでは不足する窒素成分を補給する。

 次に、廃菌床を積み上げて作るフクロタケ菌床の型枠を作る。今回は台形になるように型枠を組んでいる。それを、地面の上に並べていく。

 廃菌床は袋に入ったままなので、この袋を破いて中身を取り出しておく。なお、白い菌糸が張っている部分は、壊さなくても構わない。


 それらを確認したゴパルが、スバシュにうなずいた。

「確認しました。問題無いですね。では、始めてください」

「了解、ゴパル先生」


 スバシュが作業員を指揮しながら、台形の型枠の中に材料を層状に詰め込んでいく。

 まず、地面に接する一番下の層に、ヒラタケとオイスターマッシュルームの廃菌床を、十五センチほどの厚さで詰め込む。

 その上に、フクロタケの種菌をパラパラと撒く。この種菌は、微生物学研究室のラメシュが手配したものだ。首都のキノコ種苗会社から取り寄せている。

 最後に十五センチほどの厚さで稲ワラを敷いて、散水しながら足で踏み固める。

 稲ワラが無ければ、ゴムの木やマンゴの木等の、常緑広葉樹のオガクズでも代用できる。押し固まった厚さが二十センチほどあれば良い。

 これを一セットにして、繰り返し積み込み、型枠が一杯になったら終了だ。踏み固めてあるので、型枠も不要になるため、外しておく。


 これらの作業を、ゴパルがスバシュに指示しながら進めていく。ゴパル自身もラメシュからの指示に従っているので、ちょっとした伝言ゲームのようになっている。ともあれ、無事に詰め込み作業が終了した。

 ほっと安堵したゴパルが、額の汗を拭った。秋とはいえ亜熱帯の日差しなので、晴れていると暑い。

「ふう。上出来ですね。きちんと押し固められています。最後の方は、キノコの種菌の量が少し足りませんでしたが、これは次回から調節すれば大丈夫ですね」

 スバシュが作業員達と一緒にニッコリと笑った。カルパナがスマホで作業を撮影しているので、他の農家への普及にも使えそうである。


 ゴパルが次の指示を出した。

「では、ちょっとした温室を作ってしまいましょう。このキノコは、高温多湿が好きですからね」

 台形の菌床の周囲に排水用の溝を切り、竹や木の棒を地面に差して、その上に白いビニールシートを被せる。

 作業を見守るゴパルが、スバシュに注意を促した。

「あ、すいません、スバシュさん。シートと菌床とは触れないように離しておいてください」

 シートの内面に結露が生じてしまうと、それに触れた菌床が過湿状態になって腐敗してしまうためだ。

 他にも、温室内の換気をする必要があるので、太いプラスチック製のパイプを煙突のように差し込んでいく。キノコの生育には、新鮮な空気が大量に必要になるためである。

 最後に、ビニールシートの上に、ワラや枯れ草等を乗せて、温室内を日陰にする。これは、前回のヒラタケ栽培のハウスでも行っている。

「キノコは菌ですからね。直射日光に当たるのは避けないといけません」

挿絵(By みてみん)


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