バスパーク
結局、ポカラ行きの飛行便は席が取れなかった。仕方がなく、夜行バスのチケットを購入したゴパルであった。ちょうど今の時期は、首都へ向かう人ばかりなので、逆向きの旅路の席は、何とか確保できたようである。
「カルパナさんと、ラビン協会長さんは、ホテル協会のバスやトラックを勧めてくれたけれど、日程が合わなかったんだよね……そもそも、領収書やカード支払いが無理だから、使えないんだけど」
ちょうど、ポカラからトラックが首都へ向かう日に、ゴパルがポカラへ向かう事になったので、仕方がない。
と、いうのも、強力のサンディプや小型四駆便のディワシュの仕事が忙しいので、この日程になってしまったのだった。
夕方を過ぎて、夕闇が訪れ始めたバスパークで、キャリーバッグをバスの上に乗せてもらう。その後で、小さくため息をついた。バスパークには多くの旅行客が集まっていて、ネパール人の他に、欧米からのバックパッカーの姿も見える。
「観光シーズンの始まりだからなあ、日程の調整が難しくなるのは仕方がないか」
夜行バスは指定席制で、出発時刻になっても出発しない場合が多い。欧米からの貧乏旅行者は、怒り始めているが、ゴパルは野外調査でよく夜行バスを利用しているので慣れたものだ。
ペットボトルの水と袋麺を買い、虫除けのためのストッキングと手袋をして、首回りや髪にも虫除けスプレーをかける。
「ま、スーパー南京虫には、あまり効果が期待できないけれど。デング熱の流行も、まだ続いているし、対処はしておかないとね」
他の乗客と、そのような話をして、バスの周囲で時間を潰していると、いよいよ夜になってきた。
バスパークは、首都にいくつかあるが、今回ゴパルが利用したのは、バラジュ地区から歩いて十分の距離にある場所だ。周囲には屋台が立ち並んでいて、バス旅で必要な水や食料等は、ここで買い揃える事ができる。
以前は、バスが盛んにクラクションを鳴らしていたものだったが、今では騒音公害という事で、かなり控え目になっている。それでも、旧式のエンジン音と、真っ黒な排気ガスは変わらないが。
「ここも、そのうちに電気バスか燃料電池バスに置き変わるのだろうね。さらに静かになりそうだ」
既に、いくつかの夜行バスは、電気駆動式になっているようだった。車体がピカピカで新しいので目立っている。
ゴパルが乗る夜行バスは、残念ながら旧式のエンジンであった。鉄板を何枚も重ねたような見た目の、バスの板バネと、タイヤを見る。
「うーん……タイヤに古タイヤを被せているのか。スリップしなけりゃ良いけどな」
タイヤは高価なので、古タイヤを上に被せて、少しでも長持ちさせようとしている。
運転手はチェトリ階級の人のようで、よく日焼けしていた。夜間は冷えるので、腰には薄手の上着を巻いている。足元はサンダルだが。
その運転手が、暗闇の中で器用に懐中電灯を使い、バスのエンジンルームを開けて、色々と出発前の点検を行っていた。
エンジンオイルの量を確認して、バッテリー液を補充し、さらに冷却水という名の水道水を注ぎ込む。
最後に、燃料のフィルターを掃除した。燃料にはゴミが混じっているので、掃除をしておかないとフィルターが詰まってしまうのだ。
もう少しかかりそうなので、屋台でチヤと軽食を食べるゴパル。それも終わると、山岳民族の少年の車掌が、ポカラーと叫びながら、バスのドアをバンバン叩いて知らせてきた。
その音を聞いてからバスに乗り込む。運転手もバスに乗り込んで、エンジンをかけた。一発でかかったので、幸先が良さそうだなとニンマリするゴパルだ。




