リンゴの雑談
その後は、インド産のボケボケなリンゴへの文句の話題になり、国産のリンゴの話題に移った。
カルパナが書き送ってくるチャットによると、サビーナがリンゴの品質について怒っているという事だった。
ゴパルが話題のインド産リンゴをかじりながら、チャットに書き込む。リンゴの大きさは、ゴパルの手の平の四分の一ほどしかないので、片手で楽に持って食べる事ができる。
「今、まさに、そのダメなリンゴを食べているところですよ、と」
インド産のリンゴは、主に北西部にあるインドの州で栽培されている。陸路で輸送されてネパールへ入っているので、どうしても時間がかかってしまうのだ。
なお、空路で輸送すると、今度はコストが高くなって売れなくなる。高級マンゴですら、陸路を使っている現状だ。
そのため、インドで栽培されているリンゴは、輸送に耐えるように品種改良が施されていた。
具体的には、皮が固くなり、果実が小さくなる改良だ。その一方で果皮は赤い。
しかし、そこまでしても、ポカラや首都へ到着する頃には、賞味期限を過ぎている。結局、ボケボケになった歯応えに劣化している結末だ。近年では熱波被害が重なっているので、収穫量も減少傾向らしい。
すぐにカルパナから返事が来た。それを読んで、クスリと笑うゴパルである。
「ははは。『インド産なんか食べるのが悪いのよ』か。サビーナさんらしい回答だなあ。あ、そういえば、ポカラは国産リンゴの産地に近かったはず。ちょっと聞いてみようかな」
今度は、カルパナ本人から返事が来た。それを読んで、頭をかくゴパルだ。
「へえ……未熟果が多いのか。あ、そういえば、首都で売っている国産リンゴが、固くて酸っぱいと、かあさんがグチをこぼしていたっけ」
ポカラへ出荷されるリンゴの産地は、アンナプルナ連峰の北側に集中している。チベット系住民が住んでいる地域で、ジョムソンやツクチェ、それにマナンやチャーメといった町や集落が有名だ。
昔は、車道が開通していなかったので、リンゴがポカラへ届く機会は、それほどなかった。
今は、土道ではあるが車道が整備されているので、こうしてリンゴがポカラまで出荷されるようになっている。首都にも出荷されている。
しかし、土道なのでデコボコが多く、熟したリンゴでは衝撃に耐えきれずに傷がついてしまう。
ジョムソンやツクチェからであれば、ポカラまで車で一日の距離だが、マナンやチャーメとなると、二日間の陸送行程になる。
そのため、まだ青い未熟な段階で収穫し、それをポカラや首都へ届けている状況だ。
特に今は、ダサイン大祭の果物需要が大きいので、熟す前に出荷する農家が多い。早生品種であれば、西暦太陽暦の九月中旬から出荷できるのだが、今年は大雨のせいで遅れていた。
サビーナとカルパナからの、グチめいたチャットの書き込み文章を読みながら、ゴパルがインド産リンゴを全部食べた。もちろん、芯は残しているが。
「まあ、確かに、酸っぱくて固いリンゴだとね……いくら国産でも文句を言いたくなるよね。このインド産は酸っぱくないけれど、甘くもないし」




