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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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雑談開始

 おかげで、書類整理をする気力も無くなり、スマホを取り出して、カルパナにチャットで文章を送った。

 内容は『ダサイン大祭八日目のアスタミの日、お腹大丈夫でしたか? 私は胃もたれしています……』とかいうモノだ。

 送信してから、太鼓腹になりかけている腹をさする。

「気をつけないと、クシュ教授みたいになってしまうなあ。ん? もう返信が返ってきたぞ」

 この時間帯は、テレビ電話や通常の電話は、混線していて通じにくい。そのため、こうして文章でのチャットをしている。

 カルパナからの返信によると、ポカラでは首都と違い、盛大に雄山羊の血を女神ドゥルガに捧げたようだった。

 カルパナの実家が治めているパメ、チャパコット、それにナウダンダの集落では、男衆が家を巡って雄山羊の首切りをやったらしい。

 カルパナの弟のナビンが、父親や叔父達と一緒に血を捧げたので、パメの家に戻って来る頃には、全身血まみれだったという事だった。

 ゴパルがそのチャットを読みながら、軽く目を閉じた。

「私も、カブレ町に住んでいた間は、血まみれだったなあ……」


 ポカラでは首都と異なり、こういったヒンズー教の祭祀を執り行うのは、もっぱらバフン階級だけだ。チェトリ階級は行わない。

 そして、バフン階級の中でも、司祭であるパンディットを勤める事が許されるのは、その家の家長や長男に限定される。カルパナは長女なので、この首切り巡りには参加できない。

 カルパナのバッタライ家は、サビーナのタパ家との関わりが長いので、タパ家の雄山羊の首切りも手伝っているという事だ。そのため、弟の血まみれ度合いが酷い事になっていると、カルパナが書いていた。


 今回も、サビーナの兄のラビンドラを、首切り巡回のスタッフとして呼び寄せている、と書いてある。

 雄山羊は力がそれなりに強いので、前足と後ろ足を二人がかりでつかんで拘束し、さらにもう一人が雄山羊の角を持って引っ張る。必要であれば、さらにもう一人が尻尾をつかんで引っ張る。

 こうやって、雄山羊を動けなくさせ、首を斬り落とし易いように角を引いて首筋を伸ばす。

 そうして、大きなククリ刀を振りかぶった司祭のパンディットが、一撃で首を斬り落とすのだ。

 力が足らずに、首を落とせなかった場合には、急いで第二撃を加える。しかし、その間に失血が大量に生じてしまうので、女神ドゥルガへ捧げる血の量がかなり減ってしまうが。

 ナビンは身長が百七十センチあるし、ラビンドラも百六十センチある。どちらもスラリとした、ボクサーのような筋肉質な体躯なので、体力面では問題ないだろう。

 しかし、首切りの経験が少ないので、ククリ刀を振り下ろした先が首の骨だったりすると、一撃で雄山羊の首を落とす事は難しい。


 カルパナのチャット文によると、ネワール族のレカの家でも、雄山羊の首切りをしたとあった。レカの兄のラジェシュが、父親と一緒に駆り出されて、やはり血まみれで帰ってきたようだ。

 レカはシュレスタ家なので、ネワール仏教系のヒンズー教徒である。日本人が神道系や仏教系の祭祀のどちらにも参加するような感覚だ。

 ただ、酒飲み階級なので、存分に飲んで酔っ払っているようであるが。

 カルパナがさらに文章で知らせてきた。

 レカの家では、朝から大量の蒸留酒ロキシーを仕込んでいて、その瓶詰め作業が面倒だったらしい。アルコールの臭いが部屋に充満して、それだけで酔っぱらう人が出たとか。

 今はもう夜だが、半分くらいの人数の男は、酔っぱらって眠っていると書かれてある。


 ゴパルが苦笑した。

「これは、隣にレカさんが居るようだね」

 ゴパルが指摘すると、すぐにカルパナから返事が返ってきた。ゴパルが読み上げて笑う。

「気のせいだと、言っています……か。ん? という事は、レカさんの他に、サビーナさんも一緒なのかな?」

 これもまたゴパルの予想通りだった。カルパナから返事が届く。その文面を読んで、口元と目元を緩めていくゴパルだ。

「どうして分かったのよ、と驚いています……か。カルパナさんも、結構いたずら好きだよねえ」


 それから、チャットで文章をいくつかやり取りしていくと、ゴパルにも状況が想像できてきた。

 カルパナはパメで、彼女の母親や叔母達と一緒に、香辛料煮込みや炒め物の料理をしていた。朝からぶっ通しでの料理なので、さすがに疲れてしまったようだ。

 そんな中で、畑で野菜泥棒が出たので、連中を追い回していたという。


 ゴパルが頭をかいて感心した。

「ああ、そうか。ダサイン大祭だから、ポカラの外で働いていた人達が、一時帰省しているのか。給料不払いのままで帰省した人も居るだろうからなあ……雄山羊は買えなくても、野菜は盗めるという事かな」

 カルパナもゴパルの想像に、チャットを返してきた。それを読んだゴパルが、微妙な表情でうなずく。

「カルパナさんも同意見か。今じゃ、海外で出稼ぎをしても、それほど報酬は得られないと、あちらこちらで聞くしなあ……」

 リテパニ酪農の建物や、キノコ栽培用に立てたハウスを思い起こす。

「国内で、酪農やキノコ栽培をした方が、手元に残る金が多いという話も、あながち嘘じゃないのかもね」

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