ダサイン大祭
ダサイン大祭は、ヒンズー教の祭りだ。由来は以下のようなものである。
昔々のその昔――
神々が住む天界に、水牛の魔物が大軍勢を引き連れて攻め込んできました。神々は蹴散らされて、天界から逃げ出す有様です。
追い詰められた神々は、戦いの女神ドゥルガーを誕生させました。神々は、この女神に様々な武器と、ライオンを始めとした乗り物を提供しました。
ドゥルガーは圧倒的な戦力を以って、魔物の大軍勢を迎撃し、十日目、ついに滅ぼしました。めでたしめでたし――
この神話が元になり、勝利した神々を称える祭りができた。これがダサイン大祭である。対象は、もちろん功績第一位の女神ドゥルガーが主になる。
戦いが十日間に渡って続けられた事から、ネパール語で数字の十という意味の『ダス』が使われている。そのため、『ダサイン』大祭と呼ばれる。実際に、十日間に及ぶ大祭だ。
ただ、祭りの準備期間も含めると、実は十五日間もの長い祭祀になる。
その間は休業する店も多く、政府機関や学校でも長期間の休みとなる。ただ、さすがに長すぎるという批判があるため、短縮したり休日を取り消したりする所も出てきたが。
それと、なぜ男神では無く女神なのか、なぜ女神に魔物軍勢の討伐を丸投げしたのか等のツッコミは、しないのが暗黙の了解である。
この神話のおかげで、インド映画で女性が無双する場面では、女神ドゥルガーの加護を得るという演出がなされる事が多い。
さらに復讐相手に無双する場合には、ドゥルガーの化身である殺戮の女神カーリーが顔を出す。ちなみに、ポカラの土地神もドゥルガーである。
ダサイン大祭は、準備期間の初日に、国軍が祝砲を撃って開始が知らされる。同時に高位階級の家では、司祭の手によって大麦の種が祭壇に蒔かれる。
大祭開始から八日目の朝に動物の首を切って、神へ血を捧げる。ヒンズー教寺院で血を捧げて、その肉を家に持ち帰って食べる習慣だ。裕福な家では、庭で山羊等の首を切って、血を神に捧げる。血は神聖なものなので、家の玄関にも振り撒く家もある。
一般的には、去勢していない雄山羊を捧げて食べるのだが、肉が臭すぎる欠点がある。そのため、水牛や鶏、アヒル等で代用する家もある。
しかしながら、雄山羊肉は人気が高い。なので、生産者も山羊肉の需要を見越して、去勢した雄山羊や羊を飼育したり、インドや中国から輸入し始めているが。臭い肉よりは、少ない臭みの肉の方が人気になるのは、まあ、人情というものだろう。なお、豚は使われない。
高位階級の家では、水牛は不浄食材なので食べない……のだが、これも時世に従って食べる人が増えている。
九日目は、包丁や機械類を清める日だ。ゴパルの家では、特にする事が無いので、普通に肉を食べる。
十日目の大祭最終日には、家長が家族や友人達に、祝福の印である『ティカ』を額に付ける。
このティカはダサイン版で、米にヨーグルトを混ぜ、さらに赤い色を付けて混ぜたモノを、額に貼りつける。
見た目は、額を斧か何かでカチ割られて、脳が見える大ケガをしているようにしか見えないが。
高位階級の家では、これに加えて大麦の種を発芽させて、十日間ほど室内で育てた苗の本葉を、家族の頭の上や、耳に引っかける。
このティカと大麦の葉のどちらも、家族の幸せを祈願するために行われる。
ネパールの総理大臣も、クマリからこのティカを授かる。ただし、王政時代とは異なり、今は、あくまでも総理が個人の身分で行うように変わった。




