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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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こちらでもチヤ休憩

 ゴパル母が、盆にチヤを注いだ陶器製のコップを乗せて、居間へ入って来た。使用人はダサイン大祭なので、故郷へ戻っている。

 ゴパルにコップを一つ手渡した。

「二週間もポカラへ行ってないじゃないの、ゴパル。そんなだと、カルパナさんやレカさんを嫁にする事なんかできないわよ。博士の癖に、こういう所で詰めが甘いのよね」

 ゴパルがとりあえず反論した。チヤは有難く受け取って、早速すすっているが。

「博士の肩書きって、結婚にはあまり役に立ちませんよ。実際、大学内の博士持ちでの独身率って、結構高いですし。ケダル兄さんが結婚して子供も居るんですから、それで我慢してください、かあさん」


 しかし、そんなゴパルの申し出は、門前払いするゴパル母であった。

 ゴパルの前に仁王立ちしてチヤをすすりながら、ケダルとそっくりな鋭い視線を投げかけてくる。

「甘いわね! カブレのクソ叔母どもに対抗するには、子供をたくさん作る必要があるのよっ。戦は、命令を聞く駒の数の多い少ないで決まるって、ラーマーヤナにも書かれてあるでしょっ」

 ゴパルが両目を閉じた。

「かあさん、それはドラマの話ですよ」


 ラーマーヤナは、インドの叙事詩だ。

 内容は、恋人を誘拐された主人公ラーマがキレて、めちゃくちゃな無双をして、スリランカに立てこもった誘拐犯を国ごと滅ぼす……という典型的な俺様つえええ英雄譚である。

 なお、ラストは恋人を失うバッドエンドだ。理由は、味方が少なかったためだったりする。

 インド圏では、テレビドラマとして、このラーマーヤナや、マハーバーラットといった長編叙事詩が放送されたのだが、大衆向けの娯楽モノとして脚色が加えられていた。

 こういった叙事詩は元々、バジルの結婚話のように地域ごとに多様な話となっているのだが、放送用に一つの話にまとめられた。

 そのため、インド各地にあるオリジナルの叙事詩とは、話の内容が所々異なってしまったのであった。


 ゴパル母が、ゴパルのセリフを無視して命令した。

「ゴパル、来週こそはポカラへ行くのよっ。最低限、椿油をもらってきなさい」

 とりあえずの関心事は、椿油だったか……と納得するゴパルであった。

 仕方なくスマホを使って、ポカラのカルパナにチャットで文章を送る事にした。

 前回は、回線が混雑していた上に、カルパナのスマホの処理能力が今ひとつだったので、動画を介したテレビ電話機能は使いづらかった。

 今はダサイン大祭中なので、回線の込み具合はもっと酷いはずだ。そのため、遅延してもさほど問題の生じない、文章でのチャットにしている。


 送信コマンドを実行したゴパルが垂れ目を閉じて、口元を真一文字にした。少し荒れ気味の眉も、沈み込んでいく。

「うーん……やはり、チャットの文章送信でも、時間がかかっているなあ」

 夜にチャットを再開しませんか、と文章で知らせて、スマホを切った。イライラしている表情のゴパル母に、愛想笑いをして誤魔化すゴパルだ。ついでにチヤをすする。

「今は、回線が混雑してますので、お願い事は無理ですね。夜にでも、もう一度送信してみます」

 ゴパル母が、大きなため息をつきながらジト目になって、チヤをすすった。

「夜まで待ったら、次の日は、もうダサイン大祭が始まるでしょ。先方も大忙しになるから、もう止めなさい」


 ダサイン大祭のような大きな宗教行事は、地方都市ほど大規模になる傾向がある。

 ゴパルの家でも、祭りを祝うための様々な食材や祭祀用の品が、多数用意されていた。特に、山羊の肉を食べる祭りなので、山羊肉料理だらけになる。

 ゴパルの家は酒飲み階級なので、酒も各種用意する予定だ。間違いなく、酔っぱらう事になるだろう。

 ちなみに、カルパナやサビーナの実家は、上位階級なので酒抜きである。

 ゴパル母が居間の掛け時計を見て、時刻を確かめた。

「一時間もすると、父さんが仕事を終えて帰宅するわね。オヤツの準備を始めるから、手伝いなさい、ゴパル」

「はい、かあさん」

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