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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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石窯作り その三

 パスタを食べて元気が出たのか、その後の石窯作りは順調に進んだ。単純な男達である。

唯一、ネワール族のラジェシュだけは、いつまでも「ワイン~白でも赤でもいいからワイン~」……等と口走っていたようだが。


 石窯のアーチ部分が積み上がっていくと、最終的に、耐火レンガが入らない狭い隙間も生じてくる。そういった部分には、ダイヤモンドカッターで切って整形した耐火レンガを使っていく。

カッターで切る作業では、大量の粉塵が発生するので、厨房の外の野外で行われていた。

作業するディーパク助手も、粉塵を吸い込まないように、マスクとゴーグル、それに調理場で使うキャップ帽を被っている。


 切って整形した耐火レンガは、いったん水の中に入れて吸水させてから使用される。そうしないと、耐火モルタルが水分を吸い取られてしまい、レンガとレンガの間に大きな隙間が生じてしまう。

 耐火モルタルを節約するために、耐火レンガの破片も、レンガ間の隙間に押し込まれている。

 この耐火モルタルだが、乾くと固まって取り除く事が困難になる。そのため、耐火レンガ間にはみ出た部分は、水をたっぷりと含ませたスポンジを使って、乾く前にこまめに拭き取っている。


 石窯の上部には、レンガ三個分の穴が設けられていて、背面に隣接している排煙用の小部屋とつながっている。この小部屋もアーチ型に組まれているので、石窯と一体化しているように見える。

 小部屋のアーチ最上部には、型枠に設けてあった穴に、三本のステンレス製の煙突が差し込まれた。煙突の直径は、それぞれ十五センチほどだ。

 煙突と耐火レンガの間には、耐火モルタルと耐火レンガの破片とが埋め込まれていく。型枠に穴を開けたのは、このまま火をつけて型枠を燃やす際に、排煙できるようにするためだ。

 煙突が固定されたら、最後に鉄製の両開き扉を焚き口に設置して完成である。


挿絵(By みてみん)


 ディーパク助手が一息ついて、額の汗を袖で拭いた。

「煙突を三本にしたので、排煙も滞りなく行えるでしょう。後は、一週間ほど乾燥させてから、型枠や支柱ごと燃やして、耐火モルタルを硬化させます。熱で固まるモルタルですからね、これは」

 サビーナが、両手を腰に当てて軽いジト目になった。

「えええ……すぐに使えないの?」

 ディーパク助手がスマホを取り出して、上官であるスルヤ教授に報告を入れながら、淡々とした口調で答えた。

「耐火レンガが濡れていますからね。一週間ほどかけて乾かしてから、耐火モルタルのひび割れを補修しないといけません。小さなひび割れは、そのまま放置しますけど」

 これまでの作業を頭の中で振り返って確認するディーパク助手だ。無言で軽くうなずいたので、問題点は無かったのだろう。

「さて、これで実測データが入手できたかな。設計図を修正すれば、量産体制に移行できますよ」

 サビーナが満足して笑った。

「改善してくれる事を期待してるわね。量産の前に、これを使ってみて、使いにくい点を洗いださないといけないわね。でないと、ポカラのホテルやレストランから、文句が殺到する事になるから」

 どうやら、サビーナは文句を言う気、満々の様子である。軽く肩をすくめるディーパク助手であった。

「善処しましょう」


 サビーナの兄のラビンドラが、手足と顔を外で洗ってから厨房へ戻ってきた。癖の強い前髪の所々に、モルタルがまだ付いているようだが。

 そのラビンドラが、サビーナに鋭い眼光を向けた。サビーナに似て、やや吊り目で二重まぶたの目、それに整った眉が連動している。

「もっとパスタを食わせろ、サビーナ。アレぽっちじゃ全然足りないぞ」

 すぐに、レカの兄のラジェシュが、太めで長い眉を盛んに上下させて、ついでに無駄に手足を振り回しながら同調してきた。

「そうだそうだ。もっと食わせろー」

 カルパナの弟のナビンは、少しの間、ディーパク助手と顔を見合わせていたが、すぐに賛同した。

「無給のボランティアで作業をしたのですから、当然の要求です。何か材料が必要でしたら、俺が買ってきますよ」


 渋い表情をしたサビーナが、厨房の中で仁王立ちして腕組みをした。

「困ったな……あんまり、ここの厨房を占拠し続けるのは、さすがに店の邪魔になるんだけど。次のシフトも始まったし」

 今も、十数名の白人客や学生が、ピザやパスタの注文をしている姿が見えた。これから夕方にかけて、厨房はどんどん忙しくなる一方だ。

 カルパナがスマホをサビーナにかざしながら、申し訳なさそうに告げた。スマホ画面のゴパルとラメシュ達の静止画像は、よだれを垂らしそうな顔が、延々と更新されている。

「ごめんね、サビちゃん。さっき、グルン族のカルナちゃんからチャットが入って、間もなくここへ来るって。彼女にもパスタをごちそうしてくれないかな。森のキノコをいくつか持ってくるそうだよ」

 サビーナが、小さく呻いて、渋々うなずいた。

「仕方がないわね。それじゃあ、あんまり邪魔にならない範囲で、パスタを追加で作ってあげるわね」

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