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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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石窯作りの合間に

 このような雑談を続けて時間を潰していたのだが、それでも石窯作りは遅々として進んでいなかった。

 サビーナとレカが、それぞれの兄をからかうのだが、兄達は甘んじて受け止めているようだ。重い耐火レンガをいくつも積み上げる作業中なので、疲れているという事もあるのだろう。

 実際、アーチ型なので、注意散漫になるとレンガが崩れてしまう。


 ディーパク助手が、耐火レンガの隙間に差している木製のクサビを抜いた。その隙間に、耐火モルタルを充填していく。スポンジを使って、耐火レンガにも十分に水を染み込ませながらの同時並行作業だ。

 そうしないと、耐火レンガが水を吸ってしまい、耐火モルタルを隙間の奥まで充填できなくなる。

「しっかりと、耐火モルタルを充填しないと、見た目も悪くなりますが、何よりも強度が落ちてしまいます。隙間からはみ出た耐火モルタルは、乾く前にこうしてスポンジで拭き取ってあげます。はみ出たままですと、見た目が悪くなりますからね」


 サビーナが、背面に隣接している排煙用の小部屋のアーチ作りを見ながら、ディーパク助手に聞いた。

「ねえ、ディーパク君。まだ時間がかかりそうかしら」

 ディーパク助手が、耐火モルタルを隙間に充填しながら、少し考えて答えた。

「そうですね……あと、三十分くらいはかかると思います」

 サビーナが、軽く肩をすくめて微笑んだ。

「そう。だったら、料理撮影を始めてしまいましょう、レカっち、撮影の準備をお願い」

 しかし、レカは上半身を柳の枝のようにフラーリフラーリと揺らすばかりだ。

「ええ~……もうちょっとだけ、バカ兄をからかっていたいんだけどなー。こんなチャンス、滅多に無いのにいー」

 サビーナが口元を大きく緩めて、両手を腰に当てた。

「確かに、千載一遇のチャンスだけどね。レカっちも、今日この後、まだ仕事が残ってるんでしょ。からかうのは、このくらいにしなさい」

 あ~う~、と呻きながらも、サビーナの命令に従うレカであった。先日のパラグライダー事件で、あれから色々とあったようだ。サビーナに頭が上がらないらしい。


 代わりに、満面の笑みをサビーナに向けるのは、レカの兄のラジェシュであった。耐火レンガを型枠の上に慎重に乗せて、角度を調節しながら、感謝の言葉を口にしている。

「サビーナちゃん、助かるよー。気が散って、もう、どうしようもなかったからさ。もう少し続けられたら、蹴りを我が妹君に浴びせるところだったよ。感謝、感謝」

 既に、彼の長髪の先が、ブンブンと回り始めている。一応は髪を束ねているので、何かの尻尾のようにも見える。蹴りの予備動作を無意識のうちに始めていたようだ。


 サビーナの兄のラビンドラが、整った長めの眉を、互い違いに上下させて、二重まぶたの目を細めている。兄妹だけあって、目元がそっくりだ。

「実兄にも、そのお言葉を、かけてもらいたいものでございますな。ったく、こんな事になるんだったら、レカちゃんに頼んで、パラグライダー事件で泣き崩れる妹の顔を撮るように、金を払っておくべきだったよ」

 次の瞬間、サビーナが厨房にある布巾を、十個ほどまとめて兄に投げつけた。しかし、飛んでくる布巾を見事に回避するラビンドラだ。

 こういうのは慣れているらしい。彼の長く伸ばした前髪が、左右に揺れただけである。チンピラのように、肩を揺らしてサビーナに威嚇しながら、ニヤリと笑う。

「効かぬわ、そんな攻撃。うわはははは、ばーかーめー」


 それを聞いたサビーナが無言で、厨房のフライパンをつかんだ。慌てて取り押さえるカルパナである。

「ちょ、ちょっと、サビちゃん、落ち着いてっ」

「リクエストに応えて、効く攻撃をしてあげるだけよっ。フライパンの縁で叩けば、さすがに効くでしょ。そろそろ、シェフのシフト交代の時間になるし、ぶっ叩いても、店に影響は出ないわよ」


 このピザ屋では、一日に何度かスタッフの交代を行うようだ。交代にかかる時間は三十分という事なので、その間は店の営業は休止になる。その時間に差し掛かったので、攻撃のチャンスとでも考えているのだろうか。

 実際、店からは客が一斉に退出し始めていた。


 その間にも、淡々と耐火レンガの積み上げを続けるのは、カルパナの弟のナビンと、ディーパク助手であった。

 ナビンが耐火レンガの位置調節をしながら、ディーパク助手に確認を求めている。

「こんな角度で構いませんか? 量産する段階になったら、この耐火レンガの形を台形にしないといけませんね」

 ディーパク助手が、淡々とした口調と表情でうなずいた。

「はい、この角度で結構です。量産するとなると、見本が必要になりますからね。今回の石窯作りは、その点で重要です。設計図を引いても、見落とす事が多いものですからね」


 そんな、ほのぼのとした会話を続けて作業をしているナビンに、カルパナからの命令が下った。

「ナビン! サビちゃんを抑えるのを手伝いなさいっ。お姉ちゃんだけじゃ、限界があるのよっ」

 ラビンドラだけではなく、レカの兄のラジェシュまでもが、サビーナをからかい始めていた。当然のようにレカが嬉々とした表情で、ラジェシュに布巾を投げつけている。

 しかし、ラジェシュはレカの投擲とうてきを回避せずに、そのまま布巾をつかんで、レカに投げ返し始めた。

 厨房内で料理をしているシェフと助手達が、呆れた表情をしている。そのまま、交代のために厨房から出て行った。店内には客も居なくなり、スタッフが床掃除を始めている。三十分間の休店時間になったようだ。


 カルパナが持っていたスマホは、ポケットの中に突っ込まれてしまったので、首都に居るゴパルには、真っ暗な画像しか見えていない。音声だけは聞こえているのだが。

 ゴパルが思わず、頭を両手でかいた。

「お、おお……どうしたらいいんだあ」

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