質問その二
石窯作りは、さすがにバンドメンバー三人とディーパク助手でも力仕事で、時間がかかるようだ。
時間をスマホで確認したサビーナが、もう一つ話題を出した。
「これからは秋になって涼しくなるけれど、四月や五月は本当に暑かったわよね。田舎の集落では、ため池に藻が生えて、それが腐ってしまって、養殖している魚が死んだって話なんだけど……ゴパル君、何か対処方法ってあるかしら」
いきなり質問を食らって、目を点にした静止画像になったゴパルであった。が、すぐに冷静な口調で答える。
「アオコの発生による水質悪化ですね。ため池の水に、窒素やリン酸といった栄養が多いと、アオコが発生しやすくなりますよ。まずは、池の底を含めて掃除して、貧栄養状態の水環境にするのが良いでしょうね」
静止画像が真面目なゴパルの顔に切り替わった。
「その上で、養殖の魚の種類にもよりますが、塩を投入して、塩分濃度が一パーセントほどになるようにする方法も有効ですよ。汽水と呼びますが、アオコは汽水に弱いですから。一方で養殖する魚にも、汽水に弱い種類がありますので、注意が必要です」
前もって、一パーセントの塩分濃度の汽水を入れたバケツ等に、養殖魚を数匹入れて、様子を数日間見るという提案をするゴパルであった。
今度はカルパナが興味深い表情になって、ゴパルに質問した。
「そのアオコですが、有毒なのですね?」
ゴパルが静止画像のままで答えた。冷静な口調のままなので、本当に大学の先生のように見える。
「はい。専門用語になりますが、ミクロシスチンという毒素を作り出します。大量に飲むと、人では急性肝炎を引き起こす恐れがありますよ。何年にもわたって飲み続けると、肝臓がんにも繋がるという話です。世界保健機関の暫定ガイドラインでは、確か……」
ゴパルがいったん視線を外した。すぐに資料を呼び出したようで、それを横目で見ながら話を続けた。
「ああ、ありました、一マイクログラム以下ですね。微量でも危険という事になります」
顔を見合わせているカルパナとサビーナ、それにレカ。それを見てゴパルが頬を緩め、それが静止画像に反映された。
「まあ、ネパールでは、飲料水をボトル詰めする会社でも、衛生基準違反が散見されますし。水は、基本的に汚染されていると考えた方が、良いと思いますよ。カトマンズ盆地の地下水も、八割が汚染されていますし。浄水器は必須ですね」




