石窯作り その二
カルパナが話している間に、早くもコの字型のブロック壁と、背面に隣接する小部屋が積み上がった。モルタルを鉄筋が入っているブロック穴に詰め込んでいく。
鉄筋の長さは、ちょうどブロック塀の高さよりも少しだけ短かかったようだ。モルタルに埋もれて見えなくなった。
ディーパク助手が、一息ついてカルパナ達に説明した。
「これで、石窯を支える土台が積み上がりました。この上に、まずは炉床を作ります。炉床を完成させてから、アーチ型の石窯を組む予定です」
炉床というのは、石窯の床面の事だ。ここに薪をくべて燃やし、その熱でピザ等を料理する。
この場所は高熱になるので、ここから先はコンクリートブロックでは無く、耐火レンガと耐火モルタルを使用する。
ディーパク助手が、身に着けている丈夫なゴム手袋とエプロンの状態を確認して、バンドメンバー三人にも確認を促した。それを済ませてから、簡単に説明を始めた。
「では、最初に炉床の下地を作ります。積み上げたブロックの一番上の内側を、少しだけ割りましょうか」
バンドメンバー三人に指示を下して、金づちでコンコン叩いて、積み上げたブロック壁の最上部の内側を割っていく。そして、コンパネをはめ込んだ。
コンパネはコンクリートパネルの略称だ。家等の建築現場で、コンクリートを流し込む際の型枠に使うベニヤ板の事だ。今回は、どこかの建築現場で使われて不要になったコンパネを流用している。
ディーパク助手が、コの字型のブロック壁の上に、ぴったりとはめ込まれたコンパネをドンドン叩いて、その上に鉄製の金網を乗せた。
ネパールでは、通常、赤サビに覆われた金網を使っているのだが、彼は赤サビ無しの上質な金網を使っている。ちなみに、鉄筋にも赤サビが付いていなかった。
続いて、コンパネを下から支えるために、十本ほどの角材を当てがって支柱にした。
「支柱を立てないと、コンパネがコンクリートの重さで歪んで、たわんでしまいます。では、金網の上からコンクリートを流し込みましょうか」
バンドメンバー三人が、黙々と渋々とコンクリートを流し込んでいく。その作業を見つめながら、ディーパク助手が、補足説明をした。
「本当は、コンクリートでは無くて、代わりに分厚い鉄板を敷きたいのですけれどね。その場合、一センチ厚さの鉄板を使いたいので、かなりの重量になります。この石窯を量産する段階になったら、鉄板を使いたいものですね」
確かに、鉄板はレンガに比べて熱が伝わりやすい上に、厚さがあるので冷めにくい。
レカが、兄達をからかうのを一時中断して、スマホにメモを取り始めた。
「なるほど、なるほどー。設計図に組み込む事にするー」
サビーナも、レカに続いて兄達をからかうのを一時中止して、腕組みをしながらうなずいた。
「そうね。鉄板だと掃除も楽になるわね。良いと思うわよ」
コンクリートの流し込みが終わり、ディーパク助手が慣れた手つきで、コンクリート面を滑らかに均していく。
「この面は、水平にしてください。ビー玉を置いて、転がらなくなるくらいまで均すのが理想です。よし、こんなものかな」
続いて、ディーパク助手がコンクリート面の四方の隅にブロック一個分くらいの穴を設けた。金網も、ニッパーを使って切り取った。
「薪の燃えカス等を、この穴から落として排出させます。ピザが灰だらけになってしまいますからね。では、炉床を完成させましょうか」
水に漬けていた耐火レンガを一つずつ取り上げて、耐火モルタルを塗ったブロックの上に乗せていく。耐火レンガは、まず一層だけだ。
「耐火レンガは、乾くと扱いにくくなるので、作業中は常時濡らしてください。ほら、水面からレンガが出てる」
ディーパクが早速、バンドメンバー三人に指導をして、話を続けた。
「さて、コンクリート面の上に、粉にした岩塩を敷き詰めますよ。せっかくですので、イタリアの方式を採用しましょう。岩塩は簡易な断熱材として使えますからね」
コンクリート面の四方にある穴には、耐火モルタルを使って壁を作り、岩塩粉が穴から落ちないようにしている。
岩塩を敷き詰め終わると、簡単に押し固め、その上に耐火モルタルを、五ミリほどの厚さになるように塗っていく。
そして、耐火レンガを乗せて第二層を作った。外から見ると、二層の耐火レンガで出来た正方形の床面が、白いコンクリートブロックの土台に乗っているように見える。
ディーパクが慎重に耐火レンガ床面を均していく。
「この耐火レンガの上で調理するので、できるだけ水平にします。同時に、デコボコも無いようにします。燃えカスの排出穴も、これで確定させましょう」
そして、ディーパク助手が、少し申し訳無さそうな表情と口調で、バンドメンバー三人に告げた。
「それでは、石窯を組み上げましょうか。力仕事ですので、ケガをしないように注意してくださいね」
あからさまなジト目になって、ブーイングで応える三人である。
先程完成した二層の耐火レンガの正方形の床面を、炉床と呼ぶ。石窯の床面であり、調理を行う場所だ。
その炉床を四方から取り囲むように、アーチ型の壁を組み上げていく。
前もって、アーチの型枠をベニヤ板で作っていたようで、それを炉床の上に設置して、型枠の上から耐火レンガを積み上げている。
ディーパク助手が、耐火レンガと耐火レンガの間にできる隙間に、木製のクサビを差し込みながら話を再開した。アーチ型なので、四角い耐熱レンガでは外側に隙間ができてしまう。
「ピザ専門の石窯でしたら、もっと低いドーム型が最良なのですが。この石窯では、ピザの他に色々と料理する予定ですから、内部の容積が大きいアーチ型を採用しています」
そのアーチの型枠を見ると、手前の焚き口側は、一段低いアーチを設けている。つまり、低いアーチと高いアーチの組合せだ。
低いアーチを設ける事で、高いアーチ内で発生する煙や炎が、焚き口から噴き出しにくくなる効果が期待できる。
一方で背面に隣接している小部屋も、同様に耐火レンガを使ってアーチを組んでいる。
「こちらは、排気用なので、普通のコンクリートブロックでも構わないのですが、まあ、見た目の良さで耐火レンガを使用しています」




