リテパニ酪農の様子
カルパナによると、悪臭問題の軽減はかなり重要らしい。
そもそも、家畜は人間よりも嗅覚が優れているものだ。悪臭が軽減されると、それによるストレス軽減効果も必然的に大きくなる。聴覚も優れているので、ハエの数が減ると、同様にストレスも軽くなる。
「暴れなくなって、安眠できるようになるみたいですよ。家畜の事故も減って、体調不良に陥る家畜が減るので、生乳の生産量も増えるという見込みです。どのくらい増えるのかは、実際に量ってみないと分かりませんけれどね」
なるほど、と聞いているゴパルに、カルパナが真面目な表情をした。
「何よりも、家畜糞で作った堆肥を厩肥と呼ぶのですが、この悪臭問題もかなり酷いのです。牛糞厩肥は、比較的悪臭がしないのですが、それでも濃厚飼料を食べている牛のは、悪臭が強く発生します」
これはゴパルにも理解できたようだ。素直にうなずいている。その様子を見て、カルパナが真面目な表情のままで話を続けた。
「農作業では、牛糞厩肥を十トン単位で使いますから、悪臭がする厩肥を使うと、畑も悪臭を放つようになるのですよ。隠者様から怒られてしまいます」
それに加えて、ネパールの段々畑では大きな農業機械が使いにくい。人力や畜力に頼る事が多くなる。農作業員や牛が悪臭を嫌うので、作業効率が大きく低下する。
ゴパルが相づちを打って、うなずいた。
「なるほど。もっと酷い悪臭問題に苦しんでいる、養豚団地や養鶏企業での需要を期待しているのですね」
カルパナが軽く肩をすくめて微笑んだ。
「今は、そこまで考えていません。レカちゃんのリテパニ酪農に、生乳を出荷している農家さんが、かなりあるのですよ。そこでの悪臭が弱くなってくれれば、家庭内のケンカも酷く無くなるかも、と思いまして」
さすがはバフン階級だなあ……と感心するゴパルであった。とりあえず、一つ提案する。
「厩肥ですが、今後は牛糞堆肥や鶏糞堆肥と呼ばずに、牛糞厩肥や鶏糞厩肥と呼びましょうか。実は、植物質でつくる堆肥と、家畜糞でつくる厩肥とでは、働く微生物の種類が異なります。ちょっと、専門的ですので、今までは曖昧にしていたのですが……どうでしょうか」
カルパナが微笑んだ。
「構いませんよ。堆肥と厩肥とは違うなあと、私も以前から感じていました。厩肥を使うと、土地が汚れやすくなりますね。別々の呼び名にする事は、私も賛成です」
ゴパルが再び感心する。
「本当に、思考が柔軟ですね。素晴らしいです」
カルパナがキョトンとした表情をした。しかし、すぐに顔を赤くし始める。
「そ、そうなのですか? あはは……」
カルパナが照れ隠しに、竹のザルに乗せているニンニクの鱗片を指さした。そういえば、倉庫内がニンニク臭いなと気づくゴパル。
「では、次にニンニク鱗片のKL処理を、教えてください、ゴパル先生」




