カトマンズ空港
バクタプール大学には、その後、備品の登録変更手続きや、ラメシュが担当しているキノコ種菌の手配等で、数日間滞在するゴパルであった。
クシュ教授は、確かに、自身で手続きをしておくと言ったはずだったのだが。
とにかくも、それらが済んで、再びポカラへ向かう事になった。今は国内便の出発ロビー内で、搭乗案内を待ちながら、スマホで電話をしている。
やはり現在も節電が続いていて、電光掲示板や搭乗手続き関連の機器は、全て電源が落とされたままだった。
ゴパルが手にしている航空チケットも、手作業で搭乗手続きを終えている。搭乗券の席番号も、ボールペンの手書きで殴り書きされていた。その数字を眺める。
「外国人には判読できそうにもない、数字と記号だよね」
英数字では無く、ネパール数字で書かれている。ネパール語では数字も独自の文字を使い、特にネパール数字の一と、英数字の九の文字とがよく似ていたりする。
ゴパルがスマホのテレビ電話機能を使って話しているのは、珍しくサビーナだった。ちょうど休憩時間だったらしい。
ゴパルがチケットをサビーナに見せて、手書きの数字の話をすると、彼女がハハハと笑った。
「あたしも経験したわよ、ソレ。二十四時間営業のインドネパール料理屋でも、その問題があるのよね。百ルピーの料金を九百ルピーだと勘違いして、欧米人や中国人の観光客が大騒ぎするのよ。そんな高い料理なんか、食えるかってね」
続いて、ゴパルが首都の市場で買ったトマトの話をした。さらに、トマトソースを自作して、まずまず好評だった事も伝える。
「やはり、雨続きで赤く熟したトマトが少なかったですね。半キロしか買えませんでした」
サビーナが背伸びをしてから答えた。彼女が居るのは調理場のようで、背後では数名の調理助手達が、忙しく行き来し始めている。
そろそろ、休憩時間も終了のようだ。
「首都は標高が高いものね。でも、雨期明けからは、反対に甘みと酸味が強くなるわよ。トマトソースを作る時にも影響するから、砂糖を加えたりして風味を調節しなさい」
そして、後ろを見て、フランス語で何か指示を下した。すぐにゴパルに振り返って、軽くウインクする。
「じゃ、そろそろ切るわね。後でまたポカラで会いましょう」




