スヌワール家の人々
階下の居間では、ゴパル母と叔母達がチヤを片手にして、多種多様なインド菓子をつまんで談笑していた。話のネタは、インド映画やドラマで最近人気が出ている、若い男性俳優のゴシップ話である。
若い男性俳優の何某と同棲しているとか、若い女性俳優の何某と食事をしていたとか、果ては初老の男性俳優の何某とリゾートホテルのプールサイドに居たとか、八歳の子役の女児を肩車していたとか、虚実織り交ぜた話題だ。
ゴパル父は、スマホのテレビ電話を通じて、同年代の男友達と雑談をしていた。彼の場合は、早くもビールを片手に、鶏チリをツマミにして、居間のソファーに仰向けに座っている。
というか、ソファーに埋まっているようにも見える。雑談の話題は、当然のようにクリケットのチームと選手の活躍についてだ。
クリケットは英国発祥の球技で、野球の原型とも言われている。
野球と違うのは塁が二つだけで、ピッチャーが投げたボールをバッターが打って、二つの塁間を往復して、得た得点を競う。ピッチャーは助走をつけて投げるので、肩を痛めやすく、激務なので痩せている選手が多い。他の選手は、あまり動かないので太っている人が多いが。
ゴパル父は出身地のカブレを拠点とするチームを応援している。一方、スマホで話している相手は、首都の南にあるパタン地区を拠点としているチームが好きなようだ。
テレビ電話は複数名と同時に会話できる仕様のようで、他にも二人ほどのオッサンが画面に映っていた。彼らは別のチームのファンのようである。
ゴパル父がビールを飲みながら、友人達と口論している。その彼の手前にある低いテーブルの上に、ゴパルが温めたピザを持って来た。大皿の上に、デンとピザが乗っている。ピザには、ゴパル自作のトマトソースが全量かけられていて、さらにチーズをどっさりと乗せていた。
「父さん、酒のツマミの追加を持って来たよ」
ゴパル父が、スマホから視線をゴパルと、遅れて居間に入ってきたケダルに向けた。もう、結構酔っているようで、目が据わっている。
「おう。ご苦労、ご苦労。やっと、甘くない菓子がやってきたぞ」
そう言って、スマホに映っている彼の友人達に、これ見よがしにピザを撮影した。ピザは菓子に分類されるらしい。
「どうだー。美味そうだろ。けけけ」
スマホ画面のオッサン達が、一斉にギャーギャー騒ぎ出した。
ゴパル母が、そのようなゴパル父の自慢行為を呆れた目で見てから、ゴパルに聞いた。
「で、トマト一箱はどうなったの?」
ここは、素直に忘れていたと謝るゴパルであった。ゴパル母も、大して期待はしていなかったようで、軽いジト目になっただけで済んだ。八百屋で買ってきたトマトで、機嫌を直してくれたらしい。
「次は忘れるんじゃないわよ、ゴパル」
「はい、母さん」




