蜂退治の後
カルナを見送った後、白煙が立ち込めている中で、カルパナが蜂箱の被害状況を調べ始めた。ゴパルも同行して、濡れた地面に落ちている西洋ミツバチの死骸を数えていく。
しばらくして数え終わったので、ゴパルがカルパナに、その数を口頭で知らせた。その後で、蜂箱一個当たりの平均被害を考える。
「それぞれの蜂箱で、数十匹の被害というところですか、カルパナさん」
カルパナが、スマホで被害状況をビシュヌ番頭に知らせながら、うなずいた。ゴパルが思ったほどには、落ち込んでいない様子だ。
「そうですね、ゴパル先生。この程度の被害でしたら、巣の崩壊には至りません。地面に落ちている、煙で麻痺したミツバチも、間もなく回復するでしょう。蜂蜜の収獲は延期になりますが、これは仕方がありませんね」
巣箱が並んでいる森の中の段々畑では、たき火の消火作業が始まった。ケシャブの妻や叔母達が、近所の農家の人達に手伝ってもらいながら、火を消していく。
雨期で地面が濡れているために、思いのほか簡単に消火できそうだ。
その作業をゴパルと一緒に手伝いながら、カルパナが森の方向を見上げた。
スズメバチの巣がある周辺の崖では、既に白い煙が立ち上っている。かすかな怒声と喧騒も、風に乗って聞こえている。スマホを取り出して、再び電話をした。
「スバシュさんに、蜂退治の状況を聞いてみますね……あ、カルパナです。どうですか?」
白い煙が急速に薄れていく中、ゴパルが火消しをしながら自身の服装を確認する。
火傷はしていないようだが、やはりサンダルに数匹の小さな吸血ヒルが取りついていた。引き剥がして、まだ白い煙が立ち上っている燃え跡に投げ込む。小さいので、ジュッと焼ける音もせずに縮んで、炭になってしまった。
その間に、カルパナが通話を終えて、ゴパルに振り向いた。彼女もサンダル履きだったので、吸血ヒルが咬みつく前に引き剥がして、同じように燃え跡に投げ込んだ。
「土中の巣穴が大きいそうで、もうしばらく時間がかかるようです。私達は、お店へ戻りましょう。スズメバチ退治に協力してくださって、本当にありがとうございました。ビシュヌ番頭が、チヤを用意して待っていますよ」
ゴパルは右往左往して、たき火番をしていた程度だった。なので、感謝の言葉をかけられると、申し訳ない気持ちで一杯になっている様子だ。頭をかいて、両目を閉じて恐縮している。
「いえいえ、私は大した事は全くしていませんよ。無事に退治できそうですね。ケガ人も出ていないようですし」
カルパナが穏やかに微笑んだ。パッチリした二重まぶたの瞳が、嬉しそうな光を帯びる。
「そうですね。それが一番の朗報です」




