タガタリとマトワリ
スバシュがようやくドヤ顔に戻って、カルナに説明した。ちょっと自慢気な口調だ。
「ゴパル先生の指導で、ヒラタケの栽培試験をしているのだよ。KLっていう薬を使うんだ」
カルナの細い目が、キラリと輝いた。
「へえ、キノコ栽培かあ。タガタリ連中でも、キノコ好きが増えてきてるのね」
タガタリというのは、ヒンズー教の清浄カーストであるバフンや、チェトリ階級の人達を総称する呼称である。『聖紐を身に着けた人々』『二度転生する人々』という意味合いだ。
ちなみにグルン族や一般のネワール族は、その下のカーストになる。マトワリと呼称され、清浄ではあるが『酒を飲む人々』という意味合いになる。
スバシュが、さらにドヤ顔になって、カルナに答えた。
「バッタライ家は、古来から寛容だからなっ。君のようなマトワリにも寛容だ」
いきなりの、上から目線である。
「パメの周辺には、不可触民で漁民のポデが住んでいた。ポデはネワール族のカーストだが、同じヒンズー教という事で、バッタライ家が庇護して、奴隷とした歴史がある」
他民族の奴隷民を奪って、自らの奴隷に組み込んだという事なのだが、自慢話になっているようだ。スバシュが、インドドラマのどこかの俳優がしているような、キメポーズをした。
「故に、飲酒や食事、禁忌の一部にも寛容なのだよ。キノコ栽培も、その延長上にあるのだ」
しかし、カルナは冷ややかな笑みを浮かべるだけだ。
「そのポデも、今じゃ解放されて居なくなってるじゃないの。逃げたって事でしょ」
スバシュの自慢話を、バッサリ切り捨てた。
「それに、ネワール族のポデを奴隷にしたついでに、マジまで奴隷にしようとして、彼らを無理やり不浄カーストへ叩き落としたって話もあるんだけど?」
ポデはネワール族だが、マジは一般のヒンズー教徒の漁師カーストの呼称である。グルン族やタカリ族と同じく、モンゴロイド系統の山岳民族だ。
彼らは清浄カーストなのだが、グルン族や一般のネワール族と違い、不浄カーストへ落ちる事があり得るカーストである。落ちる先は、奴隷カーストだ。
不浄カーストにも二種類あり、この場合は、上位の不浄カーストになる。清浄カーストの連中が、彼らに触れたり、水や食事を受け取る事に関しては問題無い。下位の場合は、それらが許されなくなる。
ただ、こういったカースト制度は、現在では法制上無効とされている。なので、カルナが口にしたのは、王政時代の話だろう。




