ケシャブのハウス
結局、チヤを二杯飲み干してから、ゴパルがキノコ栽培用のハウスへ入った。中で整然と並べられている菌床の状態を見て、満足そうにうなずく。ハウスの大きさは、チャパコットと同じだった。
「良い状態ですね。菌糸の張りも上出来ですよ」
照れているケシャブに、カルパナとスバシュがさらに褒めている。ここで、ようやくゴパルが、先日のカルパナの段々畑で出会った、二人の農家の一人だと思い出した。
(鉄筋コンクリート造りの家を持っているから、裕福な農家なんだろうな。だからこそ、ヒラタケ栽培の試験にも協力できる余力があるのか)
キノコの種類によって違うのだが、ヒラタケの場合は、栽培室の湿度を七十五から九十%の間で調節する。気温は二十八度が最適だ。袋の中の稲ワラが、菌糸に覆われて全体が白くなった頃、袋を取り除く。
数百個単位で袋詰めした場合は、菌糸の張り具合に個体差が生じる。そのため、同じような菌糸の張り具合の袋を、ブロック別にまとめておくと管理が楽になる。面倒であれば、この作業は省略しても構わない。
袋を取り除いたら、再び紐で縛って吊るしておく。菌糸が菌床全体を包み込んでいるので、吊るしても崩れないのだ。ケシャブの話によると、ここの菌床の数は四百個にも達するようだ。
ゴパルが、吊るされている菌床の平均的な一つを指さした。
「あのように、全体に白い菌糸が包み込んだ状態になってから、KL培養液を使います。五百倍に希釈して、霧吹きで散布してください。一日に何回散布しても問題無いと思います。キノコの菌糸の方が強いですからね」
この他に、希釈液をハウスの天井や床、それに外回りにも、湿る程度に散布するように告げる。菌床は常に清潔にしておく事、ホコリ汚れが付きやすいので、こまめに拭き取る事、週に二回以上はカタツムリやダニ、虫が巣食っていないかどうか確認する事、コンタミが発生した菌床は、その部位を早めに切除し、汚染場所が広がったら速やかにハウス内から排除する事、廃棄した菌床は堆肥の材料にすれば良い事、等を説明した。
早速スバシュが、ここにKL培養液を手配して送る準備を、ケシャブと相談し始めた。カルパナがゴパルに礼を述べて微笑む。
「ご指導ありがとうございました。これで、当面の間、KLの試験を続けてみますね」
実はゴパルは、キノコ栽培について、それほど専門家では無い。今回も博士課程のラメシュから、色々と教えてもらっての指導であった。なので、申し訳無さそうに頭をかいている。
「私こそ、至らない点ばかりで、すいませんでした。定期的に状況がどうなのか、連絡を入れてください。大学にはキノコの専門家が居ますので、協力を仰ぐ事ができると思います」




