菌床つくり
スバシュがKL培養液の散布を指示して、その後の測定も請け負った。早速、二人の従業員が、プラスチック製の百リットルタンクを使って、五百倍希釈液を調製し始める。散布には、背負い型の手押し型スプレーを使うようだ。
その準備を見ながら、ゴパルがハウスの外で始められた作業を見る。
別の金属製百リットル容量のタンクには水が入っていて、その中に短く切った稲ワラを漬込んである。
それを一人の作業員が取り上げて、水切りをしていた。水切りが済んだ稲ワラを、別の作業員が抱えて運び、簡易かまどの上に置かれた二百リットル容量の鉄製のドラム缶の中へ詰め込んでいる。
スバシュが説明してくれた。
「ワラは長さ五センチに切ってます。これを沸騰した湯の中へ突っ込んで、そのまま二十四時間漬込んでいます。今、そのワラを、ドラム缶に詰め込んでいる最中ですね。ちょうど、ゴパル先生がポカラへ再訪する時に、この作業が合致して良かったですよ」
そして、簡易かまどの上にドンと鎮座している、鉄製の二百リットルドラム缶を、スバシュが指さした。
「漬込んだワラをこの中で三十分間以上かけて蒸します。中心温度が上がりにくいんで、二回蒸しを行っていますよ」
ここまで工程を説明してから、ゴパルに質問してきた。
「それでゴパル先生。ここまでの工程では、KLは使わないんですよね」
ゴパルがうなずいた。
「そうですね。どうせ殺菌されてしまいますし。下手に発酵してしまうと、ワラに含まれている糖分が消費されて無くなってしまいます。そうなると、肝心のキノコが育たなくなってしまうのですよ」
スバシュがゴパルとカルパナを、別の簡易かまどへ案内した。ここでも二百リットルの鉄製ドラム缶がドンと鎮座している。しかし、これは布でしっかりと密封されていた。
「こちらは、三十分間の蒸気殺菌処理を二回終えたドラム缶ですね。チャパコットやナウダンダの農家向けに、一括して稲ワラの殺菌処理を行っているんですよ。薪も高いですからね」
既に数名の農家が集まって雑談をしていた。皆、五十代くらいの男だ。民族服は着ておらず、安い半袖シャツに薄い茶色のズボン姿だ。
その彼らがカルパナを見かけて、慌てて立ち上がり合掌して挨拶をしてくる。カルパナが苦笑しながら、同じように合掌して挨拶を返した。
「雨が上がって良かったですね。ヒラタケ栽培で、何か困った事は起きていませんか?」
カルパナの問いに、農家達が即答した。
「いえ、カルパナ様。全て順調ですっ」
ほとんど、条件反射のような答えだな、と内心で苦笑するゴパルであった。山村では、よくある光景だ。
スバシュも似たような感想を覚えたらしい。口元を少し緩めながら、農家達に、ドラム缶の中で蒸気殺菌した稲ワラについて説明した。
「稲ワラは、既に二回蒸気殺菌しているから、後は自然冷却させるだけだよ。三時間くらいかかるから、それまで遊びに行っても構わないよ」
そうですかー、と農家達が去って行く。パメの茶店でチヤ休憩でもするのだろう。コンクリート作業路を、テレテレ雑談しながら下りていく。
そんな農家達を見送ったスバシュが、ゴパルに振り返った。
「聞いての通りです、ゴパル先生。ドラム缶の中の稲ワラが冷えるまで、後三時間くらいかかります。他に何か、お仕事がありましたら、遠慮なくしてください」
つまり、ゴパルがここへ来た意味は、今の所、ほとんど無かった。それでも、朗らかに笑みを返すゴパルだ。
「分かりました。それではカルパナさん、花のハウスを案内してくれますか?」
カルパナがスバシュと相談する。すぐに終わって、ゴパルに顔を向けた。
「今は、出荷作業で忙しい時間帯です。作業員達の仕事の邪魔になってしまいますね。お腹はすいていませんか? お食事を先に済ませておきましょう」




