試食が終わって
応接間に音楽が鳴り始めた。それを聞いて、ラジェシュとレカが正気に戻る。
クリシュナ社長が、名残惜しそうにゴパルの肩をバンと叩いた。肩なので咳き込む事はなかったが、ヨロヨロと体が泳ぐ。その様子を見て、一つ提案した。
「ゴパル先生。うちのヨーグルトや熟成チーズのサンプルだが、俺の方から先生の教室へ宅配しようか?」
ゴパルが素直に従った。
「そうですね、すいません、お願いします。宅配代金は着払いにしてくださいね」
クリシュナ社長がうなずいて、宅配便の指示を事務所の従業員に下す。こういった事は手慣れているようで、従業員達もテキパキと準備を始めた。
その様子を確認したクリシュナ社長が、改めてゴパルに顔を向ける。
「さて、午後の作業の開始時刻だ。今日は、来てくれて感謝するよ。汚れた服は、どうすれば良いかね?」
ゴパルが頭をかいて、両目を閉じて小さく唸った。すぐに目を開けて、ぎこちなく微笑む。
「廃棄してください。首都に持って帰ったら、私の親から詰問されます」
その後は、ラジェシュがピックアップトラックを運転して、ゴパルとカルパナをパメまで送ってくれる事になった。
レカは体力がまだ回復していないので、無念そうに見送る。無駄な兄妹ケンカをしたせいなのだが、それにしても、体力があまり無いようだ。
しかし、もし体力が残っていても、父のクリシュナ社長から、酪農仕事を手伝うように命令されていただろう。
「ゴパルせんせー。丘から落ちたのは、全部撮影したからねー。クシュせんせーに送ったから、金一封よろしくー」
何て事だ、と顔を青くしているゴパル。最後の力も失って、パタリと後部座席に倒れ込んだ。今回は後部座席にはゴパルだけで、他の乗客は乗っていないため、後部座席シートを独占できる。
車の助手席では、カルパナも同じような青い顔をして、ぐったりしていた。彼女の方は、生ハムショックのせいだろう。ちなみに、ラジェシュも生ハムを全て食べていて、顔が青い。
「それじゃあ、カルパナさん。行き先はパメでいいんだよな」
カルパナが助手席に沈み込みそうになりながら、弱々しく否定した。
「い、いえ……ヒラタケ栽培をしますので、チャパコットのハウス前へ……」




