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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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水牛のモッツァレラチーズ作り

 従業員が、業務用の大きな冷蔵庫から出してきた、ステンレス製の大きな密閉容器を、クリシュナ社長が受け取る。すぐにフタを開けると、中には水牛乳が入っていた。それを、ステンレス製の鍋にドボドボと注ぎ入れる。

 デジタル温度計で水牛乳の液温を測りながら、湯煎で弱火にかける。湯煎なので、湯を入れた大鍋の中に、水牛乳を入れたステンレス製の鍋を入れて温める方式だ。

「衛生上の問題があるんで、低温殺菌乳を使ってる。本当は、殺菌していない生乳が一番良いんだけどな」

 冷蔵庫の中へ、先程のステンレス製の大きな密閉容器を再び入れた。

「冷蔵庫に入れておいたんで、液温が低いままだ。これを十二度まで上げる。直火で水牛乳が入った鍋を温めると、焦げて変な臭いが付いてしまうんだよ。面倒だが、湯煎でやるに限る」

 クリシュナ社長がデジタル温度計の表示を見て、うなずいた。長めで太めの眉がピクリと動く。そのままコンロの火を止める。

「よし、こんなもんだな。それじゃあ、クエン酸を加えるか」


 先程、水で溶かしたクエン酸溶液を、鍋にテロテロと垂らして、ゆっくりかき混ぜていく。混じりあった所で、鍋を静置した。クリシュナ社長が、真面目な顔をゴパルに向ける。

「五分間ほど反応させる。モッツァレラチーズの中には、生乳をヨーグルトにしてから、作る場合もあるんだが、ゴパル先生、できるかい? クエン酸は使いやすくて便利なんだが、ヨーグルトから作ると風味が異なるんだよ。商品の種類が増える」

 ゴパルが腕組みをして、軽く首を傾けた。少しの間両目を閉じて、考えているようだったが、すぐに目を開ける。

「可能ですよ。まだ、有望な菌株を絞り込んでいる段階ですが、間もなく決まる予定です。決まったら、お知らせしましょうか」

 クリシュナ社長が、目を細めてうなずいた。

「よろしく頼む。よし、そろそろ良いかな」


 木のヘラで液面を触ると、まだ液状のままだが、クリシュナ社長によると、これで良いらしい。コンロに点火して、湯煎で鍋を温めていく。

 デジタル温度計を差し込んで、温度を測るクリシュナ社長だ。それもすぐに終わった。再び火を消す。

「三十二度に温めて、クエン酸の反応を加速させる。ほら、凝固し始めただろ。しかし、急ぎ過ぎると完全に凝固してしまって失敗するから、注意する事だ。できるだけ、ゆっくりと反応させるのが鍵だな。よし、ここで凝固剤を加えるぞ」

 それでもまだトロトロ状態に過ぎないのだが、違うようである。クリシュナ社長が、凝固剤を溶いた液を鍋にゆっくりと注いでいく。少し注いで、ゆっくりとかき回し、再び少し注ぐ。しかし、見た目はまだまだトロトロ状態だ。


 温度を保って数分ほど経過すると、変化がようやく表れてきた。かなり緩めの、絹ごし豆腐のような状態に変わっていく。しかし、見た目は水牛乳の中に浮かんだ豆腐だ。

「この状態になったら、火をちょっとだけ強めて、四十五度にまで温める」


 数分ほど経過すると、さらに大きな変化が生じてきた。水牛乳が分離し始めて、薄い白色の液体と、真っ白な絹ごし豆腐状の塊に分かれていく。

「液体はホエー、白い塊はカードだ。牛乳でつくると、薄黄色のホエーになるんだが、水牛乳でつくる場合は、こんな感じだな。さて、ここから三人がかりの仕事だ。やるぞ」

 二人の作業員が返事をして、カードを白くて大きな布ですくい上げた。布の中でカードを上手にまとめて、軽く絞っていく。鍋の中に浮かんでいた、白い豆腐状のカードが、全て布の中に収められて絞られていく。次第に、真っ白でしっかりした塊が布の中に現れてきた。

 ここで、クリシュナ社長が、コンロを強火にする。

「カードがまとまったら、ホエーに浸しながら、湯煎で八十五度にまで温めるんだよ」


 間もなくすると、ホエーの液温が八十五度に達した。トロ火にして液温を維持しながら、作業を再開する。布の中で、カードを折り畳みながら練っていく。まだボソボソした白い塊で、モッツァレラチーズの印象は無い。三人がかりでカードを練っていく。

 ゴパルが納得の表情でうなずいた。

「八十五度の熱湯の中で、ずっと作業をするのですね……確かに、耐熱手袋が必要だなあ」

 カルパナが同意する。

「普通に火傷をしてしまいますよね。何度も見学していますが、大変な作業です」


 次第にカードが変化してきた。クリシュナ社長が練り込み作業を続けながら、目を細める。満足な出来のようだ。

「温度は下げても八十度までだな。それ以下に下がると失敗する。さて、そろそろガム状態に変わってきただろ」

 薄白いホエーの中で練っているカードが、ガムのように伸び始め、モチ状態になってきていた。さらに練っていくと、ガムやモチ状態から、団子状態になって固まっていく。クリシュナ社長が二人の作業員に指示を飛ばした。

「よし。ちぎるぞ」

 一人が布を持ち、一人が手の平サイズにちぎり、もう一人が、それを手で引っ張ってちぎる。ちぎる二人は、鍋を挟んで向かい合う位置に立って作業をする。

「手作業でちぎると、切り口が水牛の爪の形になるんだよ」

 確かに言われてみると、切り口はVの字だ。これを、塩水を入れたステンレス製の器に移す。

「飲むには塩辛い濃度の塩水に浸して、落ち着かせる。冷蔵庫で一時間ほど寝かせて完成だ。うむ、今回は新商品の凝固剤を使ったんだが、この分量で十分だな」

(そうか。試作って言っていたのは、そういう事だったか)

 ゴパルが納得したのを、目を細めて見たクリシュナ社長が、一言追加した。

「まだ、試食してみないと判断できないけれどな。さて、一時間ほど暇になったから、ゴパル先生に汚水処理システムを見てもらおうかね。ここの悪臭が気になっていてな」

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