牛舎内
牛舎内部は、かなり開放的な構造になっていた。天井も高く、天井に設置されている排気弁がいくつも動いている。柱の数も少なく、ちょっとしたドーム型の多目的ホールのようだ。
ネパールには台風が来ないので、堅牢な造りにしていないのだろう。天井が薄いので、地震の揺れには対応しているようだが。
床は一面のコンクリートで、ごく緩い傾斜がついている。その上に大量のワラや刈り草が敷かれていて、牛が寝転んで反芻をして寛いでいた。口をモゴモゴ動かしている。
牛舎は尾根筋に沿って建てられているので、かなり細長く奥行きがある構造だ。
その敷草で覆われた床面の上に、乳牛と水牛が合計百二十頭、分散していた。山羊も集団になって、牛舎内をうろついている。鳴き声も無く、実に牧歌的だ。
乳牛と水牛、それに山羊は、酪農用の品種のようで、かなり大型だ。ポカラの道端で草や、新聞紙を食べている牛や山羊の三倍は大きい。その大きな家畜の間を、現地の作業員が掃除して回っている。
ちょうどゴパル達が入ったのは、搾乳場だった。ここにも作業員が居て、やってきた牛や水牛の乳房に、機械を取り付けて搾乳している。
それを見て、ゴパルがクリシュナに注意を促した。
「すいません、クリシュナさん。KL培養液ですが、乳酸菌が入っています。搾った牛乳に混入すると、ヨーグルトになってしまいますので、KL培養液とは接触しないように注意してください」
クリシュナが、腕組みをして少しの間考えた。すぐに、腕を解いてゴパルに振り返る。
「ま、気にしなくても大丈夫でしょう。搾乳してすぐに、ろ過と低温殺菌処理をしますんで。搾乳機や容器も、毎日洗浄しますし」
そして、搾乳場のそばに置いてある、二十五リットル容器を指さした。隣に一立方メートル容量のタンクがあり、散水器の吸水ノズルが突っ込まれている。
「KL培養液の散布準備は、あんなもので構いませんかね? ゴパル先生」
ゴパルがKL培養液の状態を臭いをかいで確認し、ついでに味見もした。続いて、水が入った一立方メートル容量のタンクと、散水器をチェックする。
合格のようで、声が明るい。顔が分からないので、どのような表情をしているのかまでは不明だが。
「十分ですね、ありがとうございます。では、早速、散布実験を行いましょうか。目的は、まず悪臭を緩和する事ですね」
実際に、牛舎内にはアンモニアや、硫化水素といった糞尿臭が、薄く漂っていた。空調で牛舎内から排気しているのだが、それでも悪臭を感じる。
「通常は、培養液を水で千倍に希釈した液を、牛舎内にまんべんなく散布してください。毎日一回から二回の散布回数ですね。散布量は、十平方メートル当たりで、一リットルの希釈液という割合です。家畜や天井、機材にも散布してください」
そう言って、ゴパルが散布を開始した。電動式の散水機なので、騒音は控え目である。散布した希釈液は、特に臭いも無く、敷草や家畜の体、それに牛舎の天井にまで届いている。当然、作業員にも散布されていた。




