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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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米ぬか嫌気ボカシ その二

 ゴパルが青いシートの上に、米ぬかを袋から全て移し、五センチ程度の厚さに均等にならした。

「袋が二十五キロ入りですので、四袋で合計百キロですね」

 空になった袋を振って、残っていた米ぬかを落とす。

「もみ殻入りの米ぬかもありますが、できれば、入っていないものを使ってください。もみ殻が水分を吸い取り過ぎて、水分調整が難しくなります。もみ殻入りしか入手できなかった場合は、ふるいにかけて、もみ殻をある程度除去してください」

 精米所によっては、もみ殻がほとんどを占めるような劣悪品もある。

「同じ理由で、小麦ぬかも避けた方が無難です。殻がかなり入っている事が多いので」


 レカが撮影を続けながら、うなずいた。彼女はメガネをかけているのだが、そのレンズがキラリと光る。しかし、ゴパルの兄のような、切れ者という印象は出ていないが。

「そうなのよねー。牛さんの餌にも米ぬかを使うけれど、もみ殻が多いと、栄養価計算をやり直さないといけないのよねー」

 ゴパルは、その情報を知らなかった様子だ。へえ、と素直に聞いている。

「そうなんですね。栄養価といえば、米ぬかに油カスや魚粉、殺した鶏の頭や足先をミンチにして砕いた物等を加える方法もあります。乾燥させたものを使いますが、米ぬかの半分まででしたら、加えても大丈夫ですよ」

 養鶏企業のバルシヤ社長が、メモをし始めた。細目で、一重まぶたなので、下を向くと眠っているようにも見える。その様子を見ながら、ゴパルが話を続けた。

「今回の場合ですと、米ぬか五十キロに対して、これらの乾燥混合物を五十キロ添加までが上限です」


 ゴパルが言った油カスというのは、菜種油を絞った後の絞りカスの事だ。窒素成分が比較的多い。

 魚粉は、川や養殖池で収穫した川魚を干物にする際に出る、内臓やウロコ等のゴミを乾燥粉砕したものだ。リン酸成分が比較的多い。鶏の頭や足のミンチも同様である。ただ、カルシウムも多く含まれているので、それを苦手とする作物に対しては、使用を控えた方が良いだろう。


 ゴパルが、ちょっと生き生きとし始めたバルシヤ社長を牽制して、カルパナに微笑んだ。

「ですが、無理して油カス等を集めなくても構いませんよ。生ゴミで十分に補えますので。今は、KL構成菌の培養を目的にした、米ぬかだけのボカシにします。固形のKLを作るような感じですね」

 レカが軽く肩をすくめた。肩先で癖毛が跳ねる。

「油カスも魚粉も鶏ガラも、豚の餌に使われているしー。そんなに安くないのよねー。生ゴミが使えるなら、それが一番安上がりー」

 カルパナもうなずいている。彼女は少し真剣な表情で、スラリと細い眉を少しひそめた。

「そうですね。有機肥料の材料としても、単価が高くて使えません。米ぬかも、かなり高い資材です」


 ギャクサン社長とバルシヤ社長が、視線を交わしてニヤリと笑った。ギャクサン社長が少しドヤ顔になる。

「そういう訳で、ワシらは水田を借りて、自前で稲を栽培しておるよ。米ぬかは自前で調達できる。オマケで米とワラも売れるしなっ。ガハハ」

 バルシヤ社長も、ゴパルの予想通りに、売り込みを始めてきた。

「お困りでしたら、格安で販売しますよ。ゴパル先生」

ゴパルが素直に、真面目な表情で二人に会釈した。

「そうですね。では、お願いします。米ぬかが一番便利なので、多く使いますから」

 合点だ、とギャクサン社長とバルシヤ社長が合意した。


 ゴパルが講習を続ける。十五リットルほど入るバケツに、糖蜜を垂らし、水を入れて手でかき回して溶かし、最後にKL培養液を少量入れた。

 それを十リットル容量のジョウロに移し入れる。

「KL培養液を水で百倍に希釈した液を作ります。この時にKL構成菌の餌になるように、糖蜜を水の五%量で加えます。それで、米ぬかの重量の三十%量を用意してください」

 ゴパルが青シートの上に、均一な厚さでならされた米ぬかを見下ろす。

「今回は、米ぬかが百キロですので、希釈液は三十リットルですね。糖蜜は一・五リットル、KL培養液は三百ミリリットルという割合です。糖蜜は、完全に水に溶かしてくださいね」


 カルパナが軽く手を挙げて質問した。

「ゴパル先生。その糖蜜は煮沸したり、砂糖を添加したりしなくても良いのですか?」

 ゴパルが右手を軽く振った。

「レカさんの所の糖蜜であれば、しなくて構いませんよ。ですが、酸っぱい異臭がするような劣悪な糖蜜の場合は、使わない方が良いですね。その場合は、一番安い黒砂糖を、希釈液の三%重量になるように加えてください」

 レカが撮影を続けながら、ドヤ顔になった。しかし、ノーコメントであったが。


 カルパナがメモを取っているのを見ながら、ゴパルがジョウロで希釈液を、米ぬかの上に散布していく。ジョウロが空になると、両手を使って、米ぬかをかき混ぜ始めた。

「こうやって、希釈液を米ぬかに均等に染み渡るように、かき混ぜてください。コツとしては、両手で米ぬかを揉んで、希釈液を擦り込むような感じです」

 ゴパルの両手に濡れた米ぬかが付着していたが、作業を続けるにつれて乾いて、きれいに落ちた。

「これで十リットル。残り二十リットルですので、二回繰り返しますね」

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