家の居間にて
食事が終わり、手を洗って居間で寛ぐゴパル達である。テレビは有料のデジタル放送のチャンネルで、今はネパール国内のニュースを流していた。
首都へ向かう幹線道路で起きた土砂崩れは、復旧工事が進んでいるようだ。しかしまだ、通行制限が解除される見通しは、残念ながら立っていないという話だった。
トラックやタンク車による、長蛇の渋滞となった映像が流れている。土砂崩れが起きた場所では、道路の道幅の半分以上が埋まり、泥水が沢になって流れ込んでいた。
インドやチベットからの送電線網も、まだ断線したままのようだ。さらに、鉄塔が倒れたりした場所でも、復旧工事が進んでいない様子である。
ゴパルが、垂れ気味の両目を閉じて腕組みをし、ため息を漏らした。
「これは、まだまだ燃料不足と、停電が続きそうだなあ」
ケダルも腕組みをしながら、ニュースを見ている。彼の場合は、切れ長の目なので、ゴパルとはかなり印象が異なっていた。
「そうだな。ま、工事仕事が増えそうではあるけどな。インドや中国からの復興支援に期待だな。うちの政府には、金なんか無いし」
そう言ってから、あごを指でかいて、軽く咳払いをした。
「……そういえば、ゴパルは政府側だったな。すまん、言い過ぎた」
ゴパルが軽く頭をかいて、口元を緩めた。
「給料が高かったら、良かったんだけどね。助手だと退職する人が多いよ。うちの研究室には、三人の博士課程の学生が居るんだけど、助手はお勧めできないなあ。クシュ教授も、彼らに博士号を取ってもらった後は、民間会社に就職するように言っているよ」
ケダルが小さくため息をついて、ゴパルを見る。メガネのレンズが室内照明を反射して光った。
「助手の給料じゃ、アパートを借りると、手元に金が残らないようだしな。かといって、オヤジや叔父達の学生向けアパートは満室だし。ま、この家に住むのが現実的か」
ゴパル父が、二人の話を聞いて、口をへの字に曲げている。
「アパートの賃貸業は、ネパールじゃまだまだ新しいんでな。トラブルも多い。身内に特別扱いして、部屋を格安で与えると、それだけで悪評が立つんだ」
首都には、不動産業者が元々無かった。部屋数の多い建物を所有しているのは、昔から住んでいるネワール族なので、彼ら独自のネットワークに依存していた。
今は都市開発が進んだおかげで、賃貸業が増えてきているが、まだまだ少ないのが現状だ。




