バクタプール大学
その後、ポカラでのランチを終えて、ワインの酔いと満腹で、良い気分のままに空路で首都へ戻ったゴパルであった。幸いな事に、飛行機も大して揺れなかった上に、空港では、すぐにタクシーに乗れたので、バクタプール大学に到着しても、まだ良い気分である。
「ずいぶんと、久しぶりのような感じがするなあ……」
農学部棟三階の角部屋にある、微生物学研究室にゴパルが戻ると、クシュ教授が居た。ゴパルが丁寧に、帰還の挨拶をする。
「……報告は以上です。詳細は報告書で後ほど。教授。私が居ない間、研究は大丈夫でしたか?」
クシュ教授が、パソコンの前で、キーボードを中指で叩きのめしているのを、いったん止めて振り向いた。
「それは何とかしたよ。しかし、よく空港からタクシーに乗れたね。首都では、まだ燃料不足が続いているのに。おかげで、ラメシュ達も自転車通学だ。今日も学生達が、デモ行進を予定しているそうでね、さっさと家に帰したばかりだよ」
そういえば、研究室にはクシュ教授しか居ないな、と今になって気がつくゴパルであった。
節電も続行していて、いくつかの機器は電源が切られている。照明も、発光ダイオードの電球だけが光っていた。
ゴパルが、布製のキャリーバッグを開けて、試験管や試薬等を取り出す。
「まだ数本残っていますね。でも、廃棄しないといけないかなあ」
クシュ教授が、メガネを外して、見事な禿げ頭をペシと叩いた。
「かなりの接待攻撃を受けたようだね。今後は会計上、面倒臭くなるから、ゴパル助手の自腹という事に、勘定項目を設定したよ。ポカラのホテル協会が、会食費を負担すると言っておるが、それでは、大学の中立性が損なわれるのでな」
目が点になるゴパルであった。口をパクパクさせているのを、愉快そうに眺めるクシュ教授だ。
「今後は、心置きなく自腹で、鳩料理を楽しんでくれたまえ。まったく、教授のワシですら、子鳩料理はなかなか食べられぬというのに、この助手は……」
どうやら、私怨のような気がするゴパルであった。
クシュ教授が、イスに座ったままで背伸びをする。彼はいつものルンギに、半袖シャツの気楽な服装だった。ネワール族なのだが、見た目はルンギのせいで、インド人のようだ。
ルンギとは、インド人が好んで着用する巻きスカートである。彼の場合は、以前にバングラデシュで仕事をしていたので、バングラ風のルンギだ。従って、インド人では無く、ベンガル人のようだと訂正しておく。
「そうそう、ポカラのホテル協会から、キノコ栽培でもアドバイスをしてくれという要望が届いたぞ。営業としては、ゴパル助手は優秀だな。エクストラサクセスまで達成しているではないか」




