中間目標と
アバヤ医師が、珍しく素直にうなずいている。その様子を見ながら、協会長が話を続けた。
「最終的には、ジョムソンやマナン、それにブトワルといった周辺地域とも連携した、広域サービスを確立する事でしょうか。多様性に富んだ、魅力的な観光地になります」
ゴパルが頭をかいた。
「さすがですね。しっかりと考えているのですね」
アバヤ医師が、ニヤリと笑った。
「インドやネパール料理の大衆向け食堂は、二十四時間営業にする事で活性化するのでな。料理のノウハウもあるし、それほど問題は無い」
ゴパルも納得している。
「そうですね。実際に繁盛していました。あの味と経営方針で良いのだと思いますよ」
アバヤ医師が、微妙な表情をした。
「ワシら富裕層向けでは無いがね。まあ、ここのような会員制の店をメインに展開すれば良い。実際、インドの大都市では、会員制のインド料理レストランが多い」
という事らしい。
「ポカラでは、気温四十度になる事は無いから過ごしやすいな。避暑先として宣伝できる。乗馬クラブを併設する事で、付加価値も出せるだろう」
協会長が、改めてゴパルに真っ直ぐな視線を向けた。
「ゴパル先生。何度も繰り返しますが、そのためには、食材の地元生産が欠かせません。輸入に頼ると、雨期になるたびに不安定化しますから。ポカラ周辺地域であれば、土砂崩れで道路が不通になっても、ロバ隊で何とかなりますが、国境は越える事ができません」
サビーナが腕組みをしながらも、素直に納得している。
「まあ、アンナプルナ連峰の民宿は、ロバ隊に頼っているものね。四駆車が通る土道も増えているけれど、まだまだ足りないし」
しかし、協会長に異論を出してきた。
「だけど、輸入食材に頼るのは、やむを得ない部分もあるわよ。トリュフとかジビエとか海魚とかね。ワインやシャンパンもそうだし。ネパールでは、商業狩猟できないのが残念ね」
そう言いながら、サビーナがちょっと考えた。
「……ま、中華や和食レストランの場合は、輸入食材だらけになるから、ポカラには、それほど利益をもたらさないかな」
ゴパルも同意した。
「首都でも、そんな話を聞きますね。私達ネパール人が料理する店よりも、中国人や日本人の料理人が、彼らの母国から輸入した食材を使って、料理を出す店が繁盛しています。客の求めるモノが、そういう事ですから、私達はあまり関わらない方が、良いかもしれませんね」
サビーナが軽く肩をすくめた。
「フランス語が通じないものね」
アバヤ医師が、くっくっく、と低い声で笑った。
「ワシも話せないぞ。ま、もっと手軽な方法もあったのだがね。カジノを昔、試験導入したんだが、飲んだくればかり集まってしまってな。ポカラの活性化とは、真逆の方向になってしまった」
協会長も口元を緩めている。
「おかげで、堅実で健全な地域活性化の立案と、実行が容易になりましたよ。カジノは、反面教師の役割を、見事に果たしてくれました」
ここで、協会長が当時を思い出したのか、残念そうな表情になって両目を軽く閉じた。
「前途有望なホテル支配人を、一人失ってしまいましたが。まあ、詐欺をしてしまっては、どうしようもありませんね」
給仕長がやって来て、穏やかな声でゴパルに告げた。
「ゴパル様。飛行機の搭乗時間が迫ってきております。そろそろ、出立の準備を始めるのが、よろしいかと」




