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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
201/1133

雑談再開

 協会長と、サビーナ、それに給仕長やアバヤ医師達も、ゴパルの感想に同意した。協会長が代表して、ゴパルに伝える。

「問題点ばかりですが、その一つは、それですね。現状では、鳩と野菜以外の食材は、ほぼ全てポカラの外や、海外からの輸入です。発泡水もですね」

 そして、国産ワインが注がれていた空のグラスを、軽く指で弾いた。澄んだ音が店内に響く。

「国産ワインは、ポカラでの販売契約を結ぶ事で、我々に利益が生じます」

 協会長が、もう一度、軽くグラスを指で弾いた。

「しかし、今回の子鳩料理のように、客が国産ワインを選んでくれないと、意味がありません。ピザ屋では、ワインよりもビールですしね」

 客は紅茶やコーヒーを多く頼んでいたが、確かに、昼間からビールを飲んでいた客も居たなあ、と思い起こすゴパルだ。


 協会長が穏やかながらも、真剣な口調でゴパルを見つめた。

「これでは、地元ポカラに、お金が落ちません。KLに期待しているのは、そういった現状を打開して欲しい点ですね。ポカラ産の子鳩ですので、国産ワインと合わせたい所です。首都のバクタプール酒造への指導をお願いします」


 サビーナは違う意見のようだ。肩を軽くすくめて、片方の眉を上げる。

「いきなり、ここのようなレストランのフランス料理は難しいわよ。最初は二十四時間営業の食堂やピザ屋、それにバーから始めないとね。技術的に易しいモノから解決していきましょう。子鳩料理に取り組むのは、まだ先。現状は、食べて飲んでもらった通りよ」


 アバヤ医師も口を挟んできた。

「そうだな。単価の安い大衆料理から、始めるのが良かろうな。国産ワインとも相性が良ければ、申し分ない。ま、テンプラリーニョ種と、確か白はトレビアーノ種だから、何とかなるだろう。少なくとも、インド産ワインよりは美味い。ビールは、原材料が麦芽を含めて海外からの輸入に頼るのでな。ネパールとしては、あまり儲けが無い」

 そして、目の光を鋭くした。

「注意すべき点だが、ピザ屋の客は、ここの学生や、外国人観光客なのでな。金を持っておらぬ連中だ。価格面でかなり厳しいという事だな。続いて、西洋菓子とパンかね。これならば、ホテルも導入しやすいだろ」

 サビーナがうなずいた。

「そんなところね。カレーとピザとバー、それにパンと西洋菓子かしらね。中国人向けには、汁麺と饅頭で構わないでしょ。飯屋にすると、延々と居続けるから。私は基礎だけを教えるわね。後は、ホテルやレストランで競争してもらえれば、多様化するはずよ」

 この点には、協会長も賛成した。

「チェーン店のように、料理の元ネタが一元化してしまうと、飽きられてしまいますからね。どこの店で食べても、似たようなメニューを出されてしまうと、客としては幻滅するものです」

 三人の話を聞いていたゴパルも、彼なりに意見を述べた。

「アンナプルナ連峰の民宿の料理メニューが、ソレでした。統一メニューですね。強力隊と、ロバ隊に食材を依存するので、効率的な物資の流通を考えると、仕方がないのですが。しかし、トラックが使えるポカラでは、多様化すべきだと思います」


 アバヤ医師がニヤリと笑う。

「まあ、稚拙な多様化は困るがね。基礎をないがしろにした、創作料理ばかりになると、あっという間に客が逃げて消えるものだからな」

 サビーナが鼻で笑った。

「フン。世界中のフランスやイタリア料理レストランでも、派手なだけの創作料理ばかりだけどね。おかげで、私も、今回のパスタで使ったような、蒸留装置を使うようになってるわ」

 協会長が、コホンと小さく咳払いをした。

「必要な設備投資は認めていますよ。パンを焼く設備には、新しい技術が使われていますから。特に、老人や子供でも楽に食べる事ができる、柔らかいパンを作るためには、湯種を駆使しないといけませんからね」


 微生物関連の話になったので、ゴパルの垂れ目がキラリと光った。今は、その反応を見ていない事にする協会長だ。そのまま話を続ける。

「この話し合いで分かったのは、大衆食堂を活性化して、客を増やす事が第一、という事ですね。その後に、より裕福な客が喜ぶような店を、充実させていけば良いでしょう。フランスやイタリア料理の家庭料理や惣菜から始めて、居酒屋、ビストロ等……布石は打っています」

 協会長が、レストラン店内を見渡した。

「中間目標としては、この店のような、正装で赴くレストランが、何軒かできる事ですね。そうなれば、観光地ポカラとして、ほぼ全ての客層に対応できるようになります」

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