ポカラへの戻り道
結局、早朝ツアーではサイに出会えなかった。フランスや英国から来た観光客が、契約違反だ詐欺だとギャーギャー騒いでいる。
そんな彼らを横目にして、さっさとチェックアウトするゴパルとカルパナだ。そのままジプシーに乗ってポカラへ向けて走り出す。
途中でナラヤンガルに立ち寄り、朝食を摂った。ジェリプリを食べながらゴパルが謝る。
「象によるサッカー訓練を見た方が良かったですね。すいません」
カルパナがジェリプリを一緒に食べながら、穏やかに微笑んだ。
「サッカー訓練が始まるのは昼前ですよ。ポカラへ着くのが遅れてしまいますので、今回は遠慮して正解です。ルネサンスホテルで、サビちゃんが何か料理を出してくれるそうですよ」
ゴパルが小首をかしげた。
「何だろう。激辛料理でなければ大歓迎です」
クスクス笑うカルパナだ。
「伝えておきますね」
朝食を終えてから山の中を走り始めると、雨が降り始めた。窓ガラスを閉めてエアコンをかける。ネパール人はエアコンを嫌う人が結構多い。フィルターの掃除を怠っている人が多いせいだが、人工的な冷たい風を快く思わない事も理由だ。
今はゴパルが運転席に座っているのだが、ハンドルには触れていない。ワイパーの動きが雨の強度に応じて加減されているのを見て感心している。
「人工知能って凄いですね。今走っている道は当初の走行計画にはなかったのですが、ちゃんと対応していますよ」
カルパナがスマホでチャットをしながら、素直にうなずいた。
「この道は幹線道路で交通量が多いですから、人や家畜が飛び出してくる恐れは少ないと思います。むしろ、無茶な運転をする車に気をつけた方が良いですね」
確かに、暴走する車やバイクが多い。一方で、トラックやローリートラックは積荷を満載しているので、ノロノロ運転である。
テライ地域で採掘した川砂を運んでいるダンプトラックから砂が漏れ落ちていて、ジプシーのフロントガラスをパチパチ叩いている。
ゴパルはハンドルを握っていないのだが、ジプシーが自動運転で追い越していく。次は、生きた水牛を二段重ねに積んだトラックの後ろにつき、これも自動で追い抜いた。
感心するゴパルである。
「ひええ……マジですか。私はこんな追い越しなんか怖くてできませんよ」
助手席のカルパナは平然としている。
「そうですか? むしろ安全運転のお手本みたいな運転ですよ」
ポカラに到着したのは昼過ぎだった。ルネサンスホテルに着くと協会長とサビーナが出迎えてくれた。
まず協会長がゴパルとカルパナに礼を述べる。
「無理を聞いてくださって、ありがとうございました。おかげでブトワルの情報を更新できました。サトウキビ栽培と製糖には期待しているんですよ」
サビーナもご機嫌な表情だ。
「お疲れさま。黒砂糖を白砂糖にする機械を導入する予定なのよ。といっても、プレス機だけどね。雨が降らないジョムソンに設置するつもり。ダチョウ農場の映像も受け取ったわ。ありがとね」
砂糖の結晶から糖蜜を押し出して、白砂糖を得る手法だ。何回も繰り返しプレスする必要があるので、手間暇がかかってしまうが。ジョムソンで行うのは、真空乾燥機が不要だからだろう。
サビーナがニッコリと微笑んだ。
「ちょっと早かったけど、新婚旅行おつかれさま。夕方前に鳥料理をつくるから、それまで昼寝でもしてなさい。鳥のジビエ料理ってまだ食べた事がなかったでしょ、ゴパル君」




