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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
ネパールにも平原があるんだよ編
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サトウキビの植えつけ準備

 翌朝、民宿でネパール式の朝食である、ジェリプリと野菜の香辛料炒め、ダルを摂ってからタクルシンの車の誘導に従ってダノ村へ向かった。

 ジェリはシロップ入りの揚げ菓子で、プリは小さな揚げローティである。

 ちなみに家ではこのような朝食は食べない人が多く、会社や役場勤めの人は白ご飯とダル、野菜や肉料理といった普通のネパール料理だ。ジェリプリを食べるのは運転手や土方労働者が多い。


(民宿に泊まってた人はインド人ばかりだから、北インド風の朝食でも良かったと思うんだけど……こだわりがあるのかな)

 北インドではチャパティやローティにダル、野菜の香辛料炒めや煮込みというのが定番だ。生地に卵を混ぜたチャパティやローティも人気らしい。

 チャパティは生地を薄く伸ばして焼いた素焼きのパンケーキで、ローティは少し厚めにして油で炒めながら焼いたパンケーキだ。チャパティの生地には雑穀粉を使ったりもするが、インド人は雑穀を嫌う人が多いので、そういった人は汎用小麦粉で焼いている。


 ダノ村はブトワルの北にあり、丘陵や山のふもとにあった。雨期の間だけ流れる川もあるのだが、一年中水がある川から農業用水を引いている。

 早速スマホで風景を撮影しながら納得するゴパルだ。

「なるほど。水不足になる心配はしなくていいんですね。牧草やサトウキビ栽培をするには良い環境です。山に近いので、ブトワルよりも少し涼しいでしょうし。ラジェシュさん、よく見つけたなあ」

 タクルシンがニッコリと笑った。その笑い顔だが、テライ地域では満面の笑みというような笑い方はしない。ドスの効いた笑いとでも言えようか。

 基本的にヘラヘラ笑うのは嫌う土地柄だ。そのため、タクルシンのニッコリ笑顔にも、どこか凄みが感じられる。

「彼らは商売人のシュレスタ族ですからね。情報網があるみたいです。昨晩泊まった民宿で情報を仕入れて、ラジェシュさんがワシらに接触してきたんですよ」


 村はちょっとした丘の上にあり、山から洪水が来ても大丈夫なようになっていた。水深が時には三メートルにも達するらしく、納得するゴパルだ。

「下流のブトワルでも洪水になってるのを何度かニュースで見ました。インドにも越境して洪水が広がっていくとか」

 タクルシンが村人に手を振って挨拶を交わしながら、気楽な表情で答えた。

「永年住んでますから洪水には慣れていますよ。騒いでいるのはブトワルに移住してきた新参者くらいです。せっかくですから、ワシの家で一休みしていきましょう」


 村は土壁とカヤぶきの家が多かった。鉄筋コンクリート造りの家もあるのだが、今の季節は熱がこもって暑いらしい。

 反対に、山から寒波が下りてきた際には暖かいので助かるそうだ。この辺りは亜熱帯なので、寒波といっても霜が降りる事態にはならないが。

 土壁は薄い黄土色で、壁面には白い粉で抽象画のような模様が描かれている。まじないの一種らしい。

 家畜小屋は竹製で、水牛と豚、それに背中にコブがある白い牛が寛いでいるのが見えた。家の周囲には鶏やガチョウが走り回っている。

 田舎にくると特有の牛糞臭さがあるのだが、ここもそうだった。当然ながらハエも多い。しかしゴパルとカルパナはこの臭いとハエには慣れているようで、普通に歩いている。

 ゴパルが村内を撮影し終えて、スマホをポケットに突っ込んだ。

「平原っていうのは、やっぱり見晴らしが良いですね。丘の上から見ると広大さを実感しますよ」


 ダノ村のタクルシンの家に立ち寄ってチヤ休憩してから、サトウキビを植えつける予定地へ向かった。ちょっと距離があるので、車で行く。

 土道には車のワダチ跡があり深い溝になっているのだが、スイスイとハンドルを切るカルパナだ。今は自動運転システムを使わずにカルパナが運転している。

「普通の乗用車ですと厳しい道ですね。ジプシーで来て良かったです」

 巧みに深い溝を避けながら、ご機嫌な表情をしている。ゴパルもカルパナが嬉しそうに運転しているのを助手席から眺めて、垂れ目を細めた。

「さすがにこういう道では自動運転に頼れませんよね。測位誤差数センチでも、溝にタイヤを落としてしまうと動けなくなりますし。あ。あの畑かな」


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